■第20話「決戦前夜」
脚本/森田繁 演出/清水聡 絵コンテ/つるやまおさむ 作画監督/齊藤百
あらすじ
スウェナは自由アルテミシア放送の立ち上げを計画する。国家騎士団を指揮して活躍するキース・アニアンはパルテノンに命を狙われていたが、暗殺未遂で一味は逮捕される。キースは部下のセルジュに、テロリストはすべてミュウとして対処するよう命じる。
Aパート:放送局立ち上げ、ミュウ排除命令、レティシア親子、サムを見舞うキース
Bパート:絶対防衛ライン、マツカとセルジュ、マードック再登場、キース国家首席就任
コメント
今回は、ミュウの船を迎え撃つ人類側の様々な動きを描くエピソードで、ほぼ全編が原作にはないオリジナルである。前話で、キースをマザーの「理想の子」と明かしたエピソードをようやく開示したことで、急にドタバタと話が動き出した感があるが、それと同時に、原作の「読み違え」があらわになり、「そうじゃない感」がどんどんと強まってくる回というのが見終わったあとの印象であった。
話の流れは、いくつかのエピソードが断片的に流れていく構成でつかみづらいが、ピックアップすると次の4つにまとめられる。
(1)国家騎士団から元老院入りするキースへの反発
(2)自由アルテミシア放送設立へ動くスウェナ
(3)アルテミシアを脱出した人々の移民をめぐる騒動
(4)サムとキースの会話
(5)キースにとってマツカの存在とは
(6)ミュウ殲滅作戦への動き
(1)について
暴動鎮圧の任務を終えて首都星ノアに帰還したキースに対する暗殺未遂事件が発生する。キースへの銃撃は、側近のマツカのサイオン能力によって阻止される。キースは居並ぶ士官らに向かって「諸君、私は健在だ、と言うと、マツカには声を出さずに「よくやった、バケモノ」と言葉を投げかける。
キース暗殺の首謀者はパルテノンの幹部らしかったが、その現場にセルジュ・スタージョン率いるキースの部隊が踏み込み、キース・アニアン上級大佐暗殺未遂容疑で全員があっさり逮捕された。キースは逮捕者全員を深層心理テストにかけるよう指示し、テロリストは全員、潜在的ミュウとみなして対処せよ、と命じる。
やがてキースは国家騎士団から初めてパルテノン入りし元老という地位につくが、それに反発する者が多いことが伺える。パルテノンにおいて、キースはノアそのものを人類圏の絶対防衛戦と位置づけ、総力戦により一気にミュウを殲滅するという作戦を提示するが、ノアを戦場にすることに反対する意見が多数を占めた。しかしキースは「グランドマザーからの承認を受けている」の一言で元老らを黙らせる。
(2)について
キース・アニアンと時を同じくしてノアに戻ってきたスウェナは、自由アルテミシア放送開設に動いている。完全な情報統制が行われてるSD体制において、こうした動きができること自体が不思議である。
(3)について
ミュウの攻撃によって「テラズナンバー5」が破壊されたアルテミシアから、宇宙船で脱出した船の中に、かつてのジョミーの養父母と現在の養子レティシアがいる。船の中では「ミュウがいたためにアルテミシアから出ざるを得なかった」「ミュウに触れると感染するらしい」などの噂が広まり、ジョミーの養父母も「ミュウは知らない間に私たちの心を盗み見たり、手も触れずに人を殺す怪物なのよ。そんなやつらと一緒に暮らせるはずないでしょう」とヘイトな発言をしていた。
やがて宇宙船は移民先の惑星に到着するが、入国審査でレティシアにミュウ因子の陽性反応が出て隔離されることになる。そのとき養父母は娘を守る、として突然ヘイトな感情を捨てる。
(4)について
入院しているサムの見舞いに訪れるキース。主治医によると、サムは急速に衰弱が進んでいるという。サムとは相変わらず会話が噛み合わないままだが、キースにとってサムは、唯一本心を開かせる相手である。その言葉が、意味深である。
SD体制に依存した人類は、もうそれなしでは生きていけなくなってしまった
自分から檻の中で暮らすことを選んだ者たちの
哀れなる末期だ
それでも私は、この体制を守るしかない
そのために生まれたのだから
しかしサムは、枝にとまる3羽の小鳥を見て「キース、スウェナ、ジョミー、みんな元気でしゅか?」と語りかけ、その言葉にキースはハッとする。サムにとっては変わらず、「みんな友達」なのだ。
(5)について
サイオン能力によってキースを凶弾から守るなど、密かに活躍しているマツカだが、その働きについて知る者はキースだけだった。キースは装着者を超能力者の攻撃から防御する「アンチサイオンデバイススーツ」を開発させるが、その実践映像をマツカは複雑な表情で見ている。
そんなマツカを、同僚のセルジュは「コーヒーを淹れるしか能がない」と見ているが、それでもずっとキースの側近でいられるのはなぜか、という疑問を投げかける。それに対してマツカは、「多分、閣下はあなたが思っているような人じゃないんです。きっと」と答える。
こうして最後に、ミュウを迎え撃つため連合艦隊の旗艦ゼウスに乗り込んだキースは、艦長であるかつての先輩、グレイブ・マードックに再会する。そして、首都星ノアを切り捨ててでも、SD体制を守り抜くことを宣言するのだった。
多くのエピソードが断片的に詰め込まれており、こうして書き出してみると、一つひとつが大きくストーリーに関わるような話であることがわかる。終盤になって、もう後がないから、とあれもこれもと詰め込んだかのようだ。
しかし、流れを見ると、一つ大きな疑問が湧いてくる。キースは「SD体制を守り抜く」という強い意志を持ってミュウを殲滅しようとしているが、キース以外の皆さんは、まるでSD体制などないかのように自由奔放すぎないだろうか。暗殺を企てたり、自由な報道のための放送局設立を企てたり、突然ミュウの子どもを庇ったり。キース以外の皆さんの様子を見ていると、すでにSD体制は瓦解し始めているように感じる。むしろ、前話で明かされたように、キースはマザーの理想の子、であるからして、どちらかといえば、これから「理想の子」キースによってSD体制を完成させていこうとする途上に見えてしまう。
そうでないとするなら、ミュウによるアタラクシア陥落が、人類側に大きな影響を与えているとも考えられる。しかし、少し前まで「ミュウ」なる存在が全く一般ピープルには知られていなかったことを考えると、街頭のパネルに対ミュウ殲滅作戦に赴く艦隊のニュースが流れるなど、あまりに急激に「グランドマザー」の管理体制が緩みすぎではないだろうか。というより、そもそも、ジョミーの成人検査とキースの教育ステーション時代以降、人類側がメンバーズから一般市民まで広く「グランドマザー」が日常的に管理し私生活にもいろいろと干渉しているはずなのだが、そういった描写がもともと本作では薄く、例えばキースの先輩でナスカ殲滅作戦では地味にキースをミュウの巣窟に向かわせて抹殺しようとしていたグレイブ・マードックがいたり、「SD体制でそんなヤツがいるか?」という人物がいろいろ出てくるので、そういうところも相まって、製作者があまり原作のSD体制をよくわかっていないのではないかと思ってしまうところがあった。
もう一つ気になったのが、マツカとの関係である。マツカの能力で助けられているにもかかわらず「バケモノ」と言ってはばからないキースだが、セルジュがマツカに問いかけているように、見ているものの立場でも、なぜキースがマツカを、しかも殲滅すべき存在、ミュウである彼をずっと自分のそばに置いて重用しているのか、その理由やキースの心情がよくわからない。そのことを尋ねられたマツカは「閣下はあなたが思っているような人じゃないんです」と答えるが、ではセルジュはキースをどんな人と思っているのか、マツカ自身はどう思っているのか、そうしたことをうかがわせる描写がないために、言葉が上滑りしているように感じる。
私自身の解釈では、キースがマツカをそばにおいているのは、ミュウという異質な存在を知り、自分が常に凌駕できるように備えるためであると同時に、ミュウは「失敗作」「排除しなければならない」というグランドマザーの命令に対する「反抗心」のあらわれだと思える。ちょうどそれは、ミュウの指導者だったソルジャーブルーが、キース同様に作られた人造人間でありながら「失敗作」だったフィシスをそばに置いていたことと、対をなしているといっていい。
ただ、本作では、原作には描かれていたキースのグランドマザーに対する「反抗心」的なものがオミットされ、キースは今のところ、完全にグランドマザーに従順であるようなので、マツカをそばに置く理由もまた、原作とは違っているかもしれない。
マツカが行った「閣下はあなたが思っているような人じゃない」を示す描写として、同級生サムとの長年のかかわりがあるのかもしれないが、彼に対してもキースは「…それでも私は、この体制を守るしかない。そのために生まれたのだから」と漏らしているように、あくまでグランドマザーに忠実であろうとしているように伺える。
キースと人類側にスポットを当てた今回の話の中では、キースはむしろ、SD体制からはみ出ていこうとする人類に鉄槌を加えようとしているように見えたが、どうなのだろうか。
キャラクター紹介
レティシア
かつて、スウェナが養母となっていた娘で、スウェナが離婚後はジョミーの元養父母が育てている。ミュウの攻撃により陥落したアルテミシアから脱出し別の惑星に移民しようとしていたが、入国審査でレティシアにミュウ因子の陽性反応が出て隔離されることになる。
用語解説
ノア
地球によく似た青い惑星。人類が初めて入植した惑星で、現在は首都星となっている。キースはノアそのものを人類圏の絶対防衛戦と位置づけ、総力戦により一気にミュウを殲滅すると宣言し、「ノアを戦場にするのか?」とパルテノンの元老らからの反発を招いた。
評点
★★
いろんなエピソードを断片的に詰め込みすぎ、キースのマツカに対する本心が見えない
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