地球(テラ)へ…

第18話「再会のアルテミシア」

脚本/根元歳三 演出/渡辺正樹 絵コンテ/吉田里紗子・つるやまおさむ
作画監督/高乗陽子・宮前真一

あらすじ
 ナスカを離脱したミュウの船シャングリラは、一路アルテミシアを目指していた。ジョミーはSD体制の是非を人類に問うべく、アルテミシアのマザーコンピュータ破壊を目論む。宇宙鯨を追いかけるスウェナはキースと再会。ジルベスター星系で何をしていたのか問いかける。

Aパート:スウェナとの再会、トオニィらの戦い、フィシスとの面談、メモリー発見
Bパート:シロエの伝言、トオニィの決意、アルテミシア降伏、ジョミーとの再会

コメント

 ペセトラ宙域で戦うミュウ、トオニィらはサイオン攻撃で敵部隊を降伏に追い込むが、トオニィは残存部隊も容赦なく攻撃、撃破してしまう。そんな中、ジョミーは船の進路をアルテミシアへ戻すよう命じた。

 ジャーナリストのスウェナは、再びサムの見舞いに訪れていた。そこにキース・アニアンが現れる。キースはサムが唯一心を開いて話すことのできる人物となっていた。キースと再会したスウェナは、報道されているキースの功績に疑問を投げかけ、ステーションE-1077が10年前に廃校になったこと、現在パルテノンの管轄下に置かれ、政府の人間も近づけない状態であることを告げた。そしてキースに問いかける。

Mってなに? 

 キースはそれには答えず、これ以上危険な遊びを続けると、別れた家族にも危険が及ぶ、と彼女を脅した。それは、キースをもってしても止められない、ということを意味していた。スウェナはキースに約束の資料を渡す。

 12話「孤独なるミュウ」で再会して以来のスウェナ登場で、ようやく、キースはマザー・イライザと自分との関係に向き合うきっかけを得たことになるのだが、正直、ラストでマツカが言うように「こんなとき、一体どこへ?」という感じが否めない。国家騎士団のメンバーとして、ミュウ殲滅のため最終兵器まで稼働させるほどの力を持ったキースが、今さら自分の出生の秘密と向き合ってどうなるというのだろうか。
 しかも、ジャーナリストとして「宇宙クジラ」を追いかけるスウェナは、この管理体制にあってマザーから自由なように思われる(一体なぜ、彼女がシロエの「ピーターパン」を持っているのか?)。17話で、キースのミュウ虐殺行為に戦慄するグレイブもそうだが、ジョミーとキース、ミュウとテラとの間に、第三者的な視点を入れようとする制作者の意図はわかる。だが、この世界観にそうした立場の人間がいる、ということ自体の違和感が否めない。
 本来、ジョミーとキースの間に立ちふさがるのはマザーというシステムなはずだが、むしろ第三者の彼らが間にいることで、この二人のどちらでもない、第三者の望む方向へ話を引っ張っていこうとしているように思えてならない。

 一方、ミュウの船シャングリラでは、降伏した相手を攻撃したトオニィらの行動が問題になっていた。ナスカの子らは強大なサイオンパワーを持ち、そのことで、一般のミュウらを下に見るようになっていたのだ。そんな中、船長のハーレイらフィシスのもとを訪れていた。トオニィらの行動をゆるすジョミーから、民の心が離れていくことを恐れていたのだ。しかしジョミーのこの先を占ってほしいというゼルの求めをフィシスは退ける。

 ミュウの側ではトオニィらが、戦いの先鋒に立ち強大な力を発揮する一方で、ミュウの中に分断を生み始めていた。しかし、相変わらず細切れの場面をつなぎあわせて作られる本作で、急に大人同然の姿に出てこられても戸惑うばかりである。トオニィは、マザー・イライザの申し子と呼ばれるキースと対をなすキャラクターなのだから、むしろ、第三者の視点を入れるよりも、トオニィから見る世界を描いた方が、ここから先の話に深みが出たのではないか、と感じる。

 アルテミシアへの帰還を果たしたジョミーを出迎えたスウェナだが、実は彼女は成人検査のあと、その力を発動させて宇宙にまで達したジョミーの姿を見ていたのだという。原作ではなんでもないモブキャラが、ジョミーとキース、二人の主人公を同時に知るキーマンのようになっていることには疑問を感じざるを得ない。本作での真の敵、そしてキーマンは、常に「マザー」であるはずだが、ステーションE-1077以降、ほとんどその存在が描かれなくなっている。マザー・イライザはあくまで教育ステーションの管理コンピュータだったが、キースやグレイブの上には、さらに強大な統制権を持つホストコンピュータが存在し、支配と管理を及ぼしているはずなのだ。そして、キースやジョミーなど主人公を動かすのは、あくまでモブキャラではなく、ストーリーの根幹をなす存在であってほしい。

 アルテミシアに戻ってきたジョミーは、こんなメッセージを発する。

我らは今、アルテミシアに帰ってきた
すみやかに降伏せよ
降伏しなければ、殲滅する
市民とて容赦はしない
抵抗しても無駄だ
我々に妥協はない
これは、我々が歩むテラへの第一歩である




 降伏しなければ殲滅する、というのがジョミーの言葉だということに違和感を覚える。ジョミーまでキース化して、どうなるのだろう? 原作で発せられたメッセージは、これとは異なっていた。なぜ同じにできないかというと、キースの出生の秘密、そしてスウェナが発した「Mってなに」の問いの答えを、原作ではステーション時代のキースがマザー・イライザから聞き、それを、ミュウに捉えられたときジョミーに伝えたからだが、本作では、まだキースはその答えを知らない(よってジョミーも知り得ない)からである。  そして、この原作の改変は、おそらくは原作とは異なったラストを導くことになるだろう。それはそれで創作活動として意味のあることではあるが、作品の価値を高めるかどうかは、別問題である。


キャラクター紹介

アルテラ
 トオニィと同じく、ナスカで自然分娩によって生まれた子どもで、強大なサイオンパワーを持つ。トオニィを自分たちのリーダーとして慕っており、自分たちに反感を持つ一般のミュウらに反旗を翻し、トオニィがソルジャーになればいい、と言い出すなど、不穏な感情を持っている。

評点
★★★
  とりあえず駆け足でアルテミシアまで戻ってみた、という感じ。原作改変の影響で話が薄い。



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