■第14話「同じ記憶」
脚本/根元歳三 演出・絵コンテ/吉田里紗子・つるやまおさむ
作画監督/明珍宇作・齊藤百・新井伸浩
あらすじ
捕らえられたキースのもとへ行き、フィシスはもう一度あの記憶のビジョンを見せてほしいと頼む。彼がなぜ自分と同じ記憶を持っているのか、フィシスは考え込んでいた。ジョミーはキースにナスカで生まれた子、トオニィを見せキースの深層心理に飛び込もうとする。
Aパート:キースの尋問、同じ記憶、カリナ、トオニィとの再会、キースとの対話
Bパート:ジョミーの決意、マツカ接近、ジョミー出る、トオニィ発動
コメント
ミュウに捕らえられ、心理探査を受けさせられたキース。その目的は、地球の位置情報を得ることだったが、それは果たせなかった。長老らはさらに強力な心理探査を実施するよう進言するが、若い世代からは、むしろナスカの位置が知られないよう、早急にキースを処理するべき、という声が上がっていた。そんな中、ジョミーは心理探査をやめるように命じる。
一同が去り静かになったキースの場所に、フィシスが訪れる。キースはその姿を見て驚く。マザー・イライザのイメージにそっくりだったからだ。フィシスはキースが閉じ込められているカプセルのガラスに手を当て、「もう一度見せて、私と同じ、あなたの地球を」と思念波で話しかける。それに応じて手を当てたキースは、彼女が自分と同じ記憶を持っていると感じて驚いた。
しかし彼はこれを好機ととらえ、「ここを出たい」と問いかける。するとフィシスは彼に脱出に至る船の構造を見せてしまう。
あの人へ、意識が流れ込んでいくのを止められなかった、とその場から逃げ出したフィシスはいう。そのときテーブルのタロットカードが舞い上がり、彼女は不吉な風を感じた。
一方ジョミーはナスカで生まれた子どもたちのもとを訪れていた。そしてカリナに、トオニィとともにシャングリラにきてほしい、と頼む。カリナは躊躇するが「これから歩む道のりを知るために、今は協力してくれないか」というジョミーの言葉に心を決め、ジョミーはカリナとトオニィを連れて、シャングリラで捕縛しているキースのもとへやってくる。
そしてジョミーは、話し合いの余地はないのか、と彼に語りかけた。ジョミーが求めるのは、ミュウの生存権を認めてほしい、ということ、それだけだった。
この子がわかるか。この子はぼくや君とは違う。
このナスカの大地で、ここにいるカリナの胎内から生まれ育った子どもなんだ
その瞬間、キースの心理防壁に隙が生まれた。「こんなことはしたくなかった」とジョミーは言う。キースの心にとびこむために、子どもを利用したのだ。
そして、キースの懐に飛び込んだジョミーは「あの子たちのためにも、このナスカで暮らしたい、過去のことは忘れよう、この星から一歩も出なというなら、それでも構わない・・・」と最大限の譲歩をしつつ、ミュウの側の要求を伝えた。
しかし、キースはこう答える。
「ナスカと呼んだな、この星を。この星はジルベスター7だ、過去は忘れろ、戦う気はない、勝手なことを・・・」、そしてジョミーに「サム・ヒューストンを覚えているか」と問いかけた。
こうして、人間側に立つキースとの交渉は決裂するが、その頃、キースの部下マツカが一人、宇宙船でジルベスター7へと向かっていた。
地球へとメッセージを送りたい、そして対話したいという説なる願いを、キースとの対面によって実現するジョミー。一方でキースと「同じ記憶」を持っていることに動揺を隠せないフィシス。たった一人、ナスカに飛び込んんできたメンバーズ・エリートの男によって、劇的に物語が動き出していく回である。そしてここまでどちらかというとゆっくりとしたペースで描かれてきた、ジョミー、フィシス、カリナ、長老たちというミュウ側の人物の心理、そして鉄壁の防御をもって心を明かさないキースのうちに生じた、フィシスの出会いによる心の隙間。前半では、キースをめぐるそれぞれの心の襞が綾織物のように描かれ、ぐいぐいと惹きつけられてゆく。
そこに「穴」を開けるのは、その心理劇の外側にいた存在、トオニィだった。
トオニィという子どもを利用してキースの心に飛び込んだジョミーだったが、そのとき泣きじゃくっていたトオニィは、その鋭い感受性で、キースの危険性を察知していた。そして、ナスカに降下しようとする宇宙船をサイオニックドリームで遠ざけることができなかったことに驚き、対処するため一人ナスカへ「ダイブ」することになったジョミーに代わり、その幼子は動き始めた。
キースの「危険性」に惹きよせられて、その能力を発動するトオニィ、そして、発せられた深い憎悪に引き寄せられて、燃え盛る炎の中からキースの前に姿をあらわすフィシス。
新しくなったエンディングテーマ(CHEMISTRYの「This Night」が流れ始める中、静かにその目を開くソルジャー・ブルー、「私を目覚めさせる者、お前は、誰だ」の一言に胸が高鳴り、次回に向けて心がそわそわし始めるのは、実に心地よいことである。「次、どうなるの?」という心のそわそわ、これこそ連続ドラマの真骨頂だと思うからだ。そこに流れる大きなドラマがあればこそ、心がそわそわするのである。
それは、とりもなおさず人間とミュウ、対立する二人がなぜ同じ記憶を持っているのか、その二人が出会ったときに何が起きるのか、という謎と期待に他ならないのだが、それに先立つキースとジョミーとの対話の場面では、原作と話の流れが変えられているために、原作と同じ場面、同じセリフが描かれながら、その言葉の「重さ」がまるで違った。
というのは、原作でのキースは、本作においてはジャーナリストになった同級生、スウェナが「セキ・レイ・シロエから預かった」というキース自身の出生の秘密を、ステーション時代にマザー・イライザから聞いてすでに知っている(だから、読者も知っている)という大きな違いがあるからである。
このテレビアニメ版では、その秘密がまだ明かされていないので詳しくは書かないが、ジョミーがキースに、ナスカの大地で自然分娩によって生まれた子であるトオニィを引き合わせた原作者の意図は、まさに自然に生きる人間のあるがままの形で生まれた子であるトオニィを彼に見せることで、その対極にあるキースという存在の特異性を際立たせ、彼こそ、統治システムの申し子であり、システムが理想とする人間であることを示すことにあったのだと思う。そのことを自覚した原作のキースとジョミーとの対話は、本作よりもずっと深く、システムが目指すところと、人間がミュウを排除しようとする必然について解き明かすものとなっていた。
それが、本作ではキースが自身の出生の秘密を聞かされていない、という設定の違いがあるために、ほとんど中身も意味もないままに、次の対話で決裂してしまう。
まて、一つ聞きたい。星の自転を止めることができるか。
さあ、やってみなければわからないが。
残念だったな、その力がある限り、人間とミュウは相容れない。
このセリフそのものは原作と同じなのだが、キースとジョミーとの対話があまりにも浅くあっけないために、「その力がある限り、人間とミュウは相容れない」というキースの言葉からくる絶望感が伝わらず、本作では、どちらかといえばキースとフィシスの謎めいた結びつきの方に、興味の中心が向けられていると感じた。
原作からの改変がここでたたって、キースとジョミーが対面する数少ない場面において、テーマに切り込む対話を描けなかったことは、残念だと思う。このエピソードは緩急のある場面展開と心理描写でおもしろく仕上がっているが、この先にどう影響するのかは、まだこの時点では評価はできないだろう。
キャラクター紹介
アルフレート
いつもフィシスとともにいる彼女の付き人のような存在。フィシスを慕う気持ちが強く、ジョミーが彼女と親しくするのを、あまり快く思っていない様子がうかがえる。だがフィシスからも、割と邪険に扱わせているような気がするのは気のせいか。
用語解説
サイキックドリーム
ミュウの船、シャングリラの船内にある「思念波コントロールルーム」から発せられる思念波により、宇宙船でナスカに近づく人間に幻覚を見せ、正常な判断能力を奪うことで防御する、一種の思念波攻撃。かつて、輸送船でナスカに近づいてしまったサム・ヒューストンは、この攻撃によりミュウに捕らえられたが、今回、キース救出のためナスカへ飛来したマツカは自らもミュウであるため、この攻撃が効かなかった。
評点
★★★★ キースとフィシスの関係にフォーカスしたのは良い。原作改変でジョミーとの対話が軽い扱いになった。
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