■第15話「変動の予兆」
脚本/森田繁 演出/小林浩輔 絵コンテ/南康宏・つるやまおさむ
作画監督/宮前真一
あらすじ
トオニィに異常を感じたカリナは思念波を爆発させ、手出しができない状態になっていた。そんな中、目覚めたソルジャーブルー。ジョミーはカリナを止めるため、ナスカからシャングリラへ向かう。一方マツカはキースを探索するため思念波を使い、それがミュウ側に感知される。
Aパート:カリナ暴発、ブルー覚醒、マツカの呼びかけ、キース逃避行、カリナの死
Bパート:ブルーVSキース、キース逃亡、ジョミーの決意、マツカへの命令
コメント
仮死状態となったトオニィを抱えたキースは、何かを感じてそこにやってきたフィシスに、子どもを助けたければ私を案内しろ、と命じる。
トオニィを探してキースが拘留されていた場所に来たカリナは、爆発の跡にトオニィの胸飾りが落ちているのを見つけ、激しい怒りと悲しみによって思念波を暴発させる。それはナスカに降り立ったジョミーにまで届いた。
そのとき、危機感を感じたソルジャー・ブルーは一人ベッドから起き上がり、弱り切った体を鞭打つように歩き始める。船長のハーレイは被害状況の把握と人命救助、船のダメージコントロールに気を取られ、捕虜となっていたキースはやすやすと安全な場所へ逃れていた。
爆発はサイオンバースト、暴走したカリナのサイオン攻撃が原因だ、とナスカにいるジョミーらにも伝えられる。そのときナスカでは、思念波防御を破って降下してくる宇宙船をトレースしていた。その宇宙船の迎撃をトキらに任せ、ジョミーは思念体でカリナを追うことにする。
捕虜となったキースとジョミーらミュウとの間にあった膠着状態を破り、キースの殺害を企てたトオニィ。その幼い子どもは、ミュウの側の面々が隠し持つ「憎悪」をストレートにキースにぶつけたのだ。それをきっかけに、ミュウの船から脱出しようとするキースとミュウとの激しい攻防が描かれる。
暴走するカリナ、キースに捉えられたフィシス、ナスカに降下していきたマツカ、と同時多発的に進行する事件を、めまぐるしい場面転換を加えつつ破綻なく描ききった濃密な回だが、ここは、「ソルジャーブルーの存命と覚醒」という、原作から変えられた要素がプラスに働いていることも大きい。
ナスカへ降下してきた船内では、マツカが通信でキースに必死に呼びかけていた。しかし応答がないとわかるとマツカはキースの命令に背き、思念波でキースに呼びかけはじめる。
その思念波をコントロールルームで感じたトキらは、捕縛されているメンバーズの男を探しているのがミュウだと知って驚きを隠せなかった。ニナは撃ち落とすことを提案するが、トキは「コンタクトしてみよう」と言い出した。そうすれば仲間かそうでないかがわかる、というのだ。
あなたはミュウか? という呼びかけにマツカは驚くが、「ミュウなんか知らない」とその思念波の声を振り払い、彼はキースを呼び続けた。
ミュウらしき敵の男マツカにトキらが呼びかけていた頃、ミュウの船シャングリラでは、トオニィを失って暴走するカリナにジョミーが呼びかけ、そして燃え尽きようとする生命力を使ってソルジャー・ブルーはフィシスに呼びかけた。しかし、これらの呼びかけの結果はすべて「拒絶」である。ミュウには、時空を超えて相手の「心」に直接呼びかけるという、人類にはない能力が備わっているが、その能力をもってしても、人の心を制御することはできない。むしろ、彼らは人類のように、心をマザーコンピュータで制御されることを拒絶してきたのだ。キース・アニアンがフィシスを連れた逃避行の途中、フィシスに語った次の言葉は、「拒絶」が生み出すものがなんであるかを如実に物語っている。
おまえたちは、排除すべき存在だ。
SD体制下で適正な人類を生み出す過程で発生する不純物。
その不純物を処分するために、我々メンバーズはいる。
しかし今回、最もショッキングだったのは、フィシス救出のために覚醒し、キースにとどめを刺そうとしたソルジャー・ブルーの攻撃を、キースの側にいて防御してしまったフィシス、敵であるはずのキースを庇ったフィシスの見せた「拒絶」ではなかっただろうか。それだけではない。一瞬の隙を見出しキースの心に侵入した彼は、そこにフィシスと同じビジョンを見たのだ。
キースが宇宙船を奪って逃亡するために投げ出した仮死状態のトオニィを抱きとめ、そこで力尽きたソルジャー・ブルーはフィシス救出をジョミーに託す。宇宙船で脱出したキースを、追ってきたマツカが捉えたとき、ジョミーもまた爆破された宇宙船からフィシスを救い出していた。キース・アニアンはミュウに、人類の「拒絶」の意を伝えたが、それは「排除」へ向かう前兆でしかなかったのだ。
用語解説
タイプ・ブルー
心への侵入を許してしまったキール・アニアンが、ソルジャー・ブルーを「伝説のタイプブルー」と見抜き、「貴様がオリジンか」と評したことから察すると、人類側がソルジャー・ブルー、もしくはそれと同等の能力を持ったミュウを識別するためのコードネームのようなものらしい。キースの言葉からは、ソルジャー・ブルーがオリジン、つまり最初のミュウのようにも解釈できるが、詳細は不明。
原作改変のプラス面・マイナス面
このエピソードでは、先にも言及したように、原作ではすでに亡くなっているソルジャー・ブルーがまだ存命している、という改変が加えられている。これはなかなか、よい効果を生んでいると思う。原作ではキースとの対決、暴走するカリナ、ナスカに向かってくるマツカ、フィシスの救出とすべてにジョミーが絡み、ほぼ一人で対処しているような状態になっていたが、本作ではジョミーがナスカに降下、ソルジャー・ブルーがシャングリラ、という位置関係でそれぞれがカリナ、キースに対峙したことで、同時進行の緊迫した展開が可能となった。
それ以上に、最も古参のミュウであるソルジャー・ブルーがフィシスを連れた敵、キースと対決するという構図が、期待の高まりをもたらしたのではないかと思う。それにより、ブルーが「
オリジン」と言われ、「タイプブルー」と呼ばれるほど、人類にとって脅威的な存在であったことが示されるからだ。また、その中でフィシスがブルーの攻撃に対してキースを庇う、という予想外の反応を示したことで、フィシスという存在の謎めいた部分がさらに増幅され、キースとの関係への興味を掻き立てる効果をもたらしている。
一方で、「伝説のタイプブルー」と称されるほどの、若き日のブルーの活躍、おそらくメンバーズなど特別な者にしか開示されていないであろう、ミュウの進化の歴史、といったものをもう少し、ここに至るまでの数話の展開の中で、場面として見せてほしかった、と物足りなく感じる部分もある。その意味で、ソルジャー・ブルーが存命していること、その存在感の大きさをストーリーの中で描けていれば、キースとの対決が、もっとスリリングになったのではないだうか。
原作改変のマイナス面としては、先に挙げたキースのミュウに対する「拒絶」の言葉が、原作よりもずっと軽くなってしまった、ということを指摘しておきたい。14話のレビューで述べたように、原作でのキースは自らの出生についてマザー・イライザから聞いて知っており、ジョミーから受けた尋問の中で、その秘密を明かした。そしてその上で「おまえたちは、排除すべき存在だ。・・・」と語り、そのすべてがテレパシーで中継されてミュウ全体に共有された。つまり、キースのミュウに対する拒絶の言葉は、すべてのミュウに突きつけられたものだったのである。
しかし、本作ではキースは自らの出生の秘密をまだ知らない。そして、ミュウは排除すべき存在である、というその言葉も、逃避行に人質として連れてきたフィシスとの会話の中で、ひとりフィシスだけに語られたにすぎない。
ジョミーは10話で「敵対すべきは人類ではない、地球のシステムそのものが敵なんだ」と語っていた。そのシステムの申し子ともいうべき存在を目の前にしながら、そのことをまだ知らないキース、では話にならない。他のだれでもない、彼こそ、ミュウを排除するためにマザー・コンピュータが作り上げた者、そのものなのだから。
評点
★★★★
ソルジャー・ブルーの覚醒という新要素で引き締まった展開に。反面キースの圧が弱い。
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