地球(テラ)へ…

第11話「ナスカの子」

脚本/大野木寛 演出/江島泰男 絵コンテ/つるやまおさむ 作画監督/平山英嗣

あらすじ
 ナスカへの移住により、長老らと若者らの間に「地球(テラ)を目指す」という目標に対する齟齬が生じる。そんな中、カリナはミュウにとってはじめての自然分娩の子供を出産する。ナスカでミュウの新しい歴史が始まろうとしていた。それが正しい道なのか、ジョミーは悩む。

Aパート:若者と長老の対立、カリナ出産、長老たちの戸惑い
Bパート:サム出港、ジョミーの逡巡、サムの船拿捕、再会からの惨劇、キース登場

コメント

 ナスカと名付けた惑星に移住したミュウ。ジョミーは長老らとともに、船から地上へ降り立っていた。出迎える若者たちは、ナスカの農園で育てたトマトを差し出し、ジョミーはナスカで初めての収穫を喜ぶ。一方で、先を憂うだけの知識も経験もない若者たちの姿をうらやみつつ、ハーレイは不安を感じる。ゼル機関長は「ままごとにはつきあっておれん、ソルジャー、すぐにでもテラヘ」と焦りを隠しきれずに口にしてしまう。それに対してハロルドは、「このナスカに自分たちの歴史を作りたい」と主張し、対立する。ゼル機関長は「アルタミラの虐殺を忘れたのか」と反論するが、彼らにとっては遠い過去の昔話にすぎなかった。

 そんな中、カリナが産気づいたという知らせが届く。病室の前ではユウイが花輪を手に待っていた。何かしないと不安で、作ったのだという。
 その様子を見て、ジョミーは出産前のカリナが「あなたの中にある、ママというものを実現したかっただけ」と語っていたことを思い出す。
 やがてお産が始まり、その衝撃で思念シールドが破れたために皆がその産みの苦しみを共感する中、カリナは元気な男の子を産んみ、「トオニィ」と名付けられる。

 ナスカという安住の大地を得たことで、過去にあった「アルタミラ虐殺」という惨禍を知らない若い世代と、虐殺事件を生き延びた上の世代との間に溝が生じつつあること、そしてそのことが、ジョミーの心を迷わせていることが、丁寧に描かれる前半。

 赤茶けた地表に残された墓標のある風景、その大地に佇みながら、ジョミーはつぶやく。

そうさ、ここは地球(テラ)とは違う、わかっている



 ここを安住の地とし、子孫を残していこうと決断したのはジョミーだった。しかし、地球(テラ)へ行く、という夢を忘れたわけでも、捨てたわけでもない。地球 (テラ)が、彼らミュウの存在を隠蔽しつつ、抹殺するという目標を決して忘れないのと、同じように。

 体制との対決よりも、共存する未来を模索する若い世代と、苦い記憶を糧にあくまで地球(テラ)をめざすべきとする長老たちとのすれ違いが、静かなトーンで描かれたあと、後半では、地球側が彼らを見過ごすはずがない、という冷酷なこの世界の現実が突きつけられる。  その役目を果たすのが、かつてのアタラクシアでのジョミーの同級生、そしてステーションではキース・アニアンと親しく過ごしたサム・ヒューストンであった。

 この、サムの登場はかなり唐突である。実は原作はもっと唐突なのだが、本作では原作よりサムの描写を厚くし、キースに「友達」という存在を教えるという重要な役割を担っている。ミュウの長であるジョミー、メンバーズとなったキース、という特別な存在である二人の主役の間にあって、この世界に生きる凡庸な一般人の代表として、ステーションを卒業した後の彼の日常を、もう少し描いてくれてもよかったのに、という気がした。
 これにも関連するが、ナスカでのミュウの生活を支えている一つに、ミュウの船シャングリラで彼らの存在を地球側から隠すべく、ステルスデバイスを作動させている要員がいるはずで、終盤のキース登場の際に説明されるように、ジルベスター星系で多発する事故の原因を作っているのが彼らの防御システムなのだから、そうした片鱗が描かれれば、ジョミーの苦悩も、より具体的になっただろう。

 ソルジャー・ブルーのそばを離れるわけにはいかない、と船にとどまり続けるフィシスは、やってきたジョミーにこう言うのだ。

「あなたの声は嬉しそうなのに、響きには不安があります」

 その不安とは、いつかここも見つかってしまう、という薄氷の上にある平穏、ということではないか。そうした現状の描写があれば、かなり唐突なサムとの再会劇からの展開と、その意味する重大さに、心が冷える感じがより大きくなったと思う。

 サムとジョミーとの再会の場面では、サムからジョミーへのバースディプレゼント、というアイテムを生かしたのはよいと思ったが、ジョミーがサムの記憶を消さなければならないことを拒否する場面では、「いや、でもシロエの記憶は躊躇なく消してたやん!」と、ややもやもやする部分もある。

 サムがジョミーとの再会を喜び抱き合いながら、突如豹変したのは「マザー」による思考プログラムによるものだという。これで、マザーに我々の位置を特定されたのではないか、というフラウ航海長の言葉で、はじめて、ことの重大さに気付かされたというのが正直なところで、これは、今後の展開を盛り上げる重要なエピソードに位置付けられる。第10話が、能でいうところの「序」であるなら、第11話は「破」にあたるところで、もう少し変化に富んだ演出があれば、と感じた。

 ラストは、いよいよ上級少佐となったキース・アニアンの登場で、否が応でも気持ちが盛り上がる。今回は全体的にキャラクターの絵がやや劇画調で、キースの顔はやや不気味だったが、表情豊かな作画はよかったと思う。


キャラクター紹介

ハロルド
 ミュウの若者世代のリーダー格。シャングリラを降りてナスカに移住し、仲間らと農作物を育てるなどしている。初の収穫を喜び、地球(テラ)を目指すより新しいナスカでの暮らしを続けたい、と主張して長老らと対立する。

用語解説

思考プログラム
 マザーコンピュータにより、キーとなる言葉を聞いたり、アイテムを見ると催眠状態に陥って、遠隔操作されているように、あらかじめ予定された行動を取るよう、人間の思考にプログラムを施すこと。これにより、サムは再会を喜びあった直後のジョミーを刺殺しようとした。

評点
★★★ 大きくストーリーが動き出す前兆だが、時間経過や緊迫の度合いが伝わりにくい。



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