地球(テラ)へ…

第12話「孤独なるミュウ」

脚本/佐藤大 演出/清水聡 絵コンテ/藤原良二 作画監督/波風立流

あらすじ
 ナスカのテラフォーミングが進む中、カリナの子トオニィは4歳になっていた。しかし不慮の事故で父ユウイは死んでしまう。一方キースは4年前ジルベスター星系で事故に遭ったサムを見舞っていた。彼は幼い頃に戻っていた。そのキースにジャーナリストになったスウェナが声をかける。

Aパート:ユウイの死、サムを見舞うキース、スウェナとの再会、ボイコット事件発生
Bパート:キース着任、マツカとの出会い、ハロルドらの反抗、マツカ発動

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 ハロルドとキムは、交代任務の定期便に遅刻する。これが初めてではなかった。ナスカのテラフォーミングが進んで、気が緩んでいるようだ。もうナスカに根を下ろしてから4年が過ぎていた。ミュウの船・シャングリラでシャトル便を待つユウイらは、トオニィが3歳になってもまだテレパシーを使わないことを気にかけていた。そのとき緊急警報が鳴る。シャトルの進入速度が早過ぎたのだ。
 遊んでいたトオニィはそのとき「パパ、パパが呼んだよ」とカリナに告げる。ユウイはその事故で命を落とした。
 墓碑にすがりついて涙するカリナに、トオニィは、彼が生まれたときユウイが花輪を作った花を墓前に持ってきた。ジョミーは、ナスカで生まれた子どもたちを立派に育てることを、ユウイの墓前に誓う。

 第10話でナスカへの定住を決意したジョミー。うち捨てられた植民惑星へ降下し、テラフォーミングを始めてからすでに4年が経過している。しかし、ミュウの人々は年齢を重ねても外見は年を取らないという設定であるうえ、移住から4年が経過したナスカの地上の施設が農園しか描かれないので、彼らがどれほど惑星の開発を進めてきたのか、掴みづらいところがある。
 それにしても、サムとの遭遇事件から、はや3年、事故調査を命じられたキースはどこで何をしているのだろう。

 ・・・と思うと、彼はサムの見舞いに来ているのだった。「実は、しばらく旅に出ることになった。君をそんなふうにしてしまった星、ジルベスターへだ」と病室のサムに話しかけるが、彼はジョミーと遭遇したあの事故以来、精神を病み幼児に戻ったようになっており、キースに向かって「おじちゃん、だれ?」と答えるのみ。サムが覚えていたのはマザーが消したはずの、アタラクシアで過ごした少年の日々のことばかりで、事故関連の情報を彼から聞き出すことはできなかった。

 そんなキースを待ち伏せていた人物がいた。かつてステーションで同級生だったスウェナ・ダールトンである。彼女は離婚して、ジャーナリストになっていた。立ち去ろうとするキースに「ピーターパン」という言葉を投げかけ、セキ・レイ・シロエからキースに当てたメッセージが発見されたことを告げる。
 スウェナは、宇宙クジラを追っていたが、サムの遭難事故もそれに関わっていた。だからこそ国家騎士団のキースがあの辺境へ出向くのだ、と彼女は読んでいた。今度会えたら、そのメッセージを渡すとスウェナは告げた。

 ユウイの事故死は、ミュウの長老たちに、若者らの平和ボケとうつっていた。ジョミーはフィシスのもとを訪れ、みなが動揺していることを打ち明ける。自分の選択が正しかったのか、悩んでいた。
 そこに戻ってきたアルフレートは「あなたがそうだから、若きミュウたちも悩むのですよ」と諭す。世代間の溝に早く手を打つべきだったのでは、と彼は言った。その話をさえぎるようにして、ジョミーはナスカへ戻っていく。
 その途中、長老たちに呼び止められて「話がある」と言われるジョミー。心ここにあらず、サボりの手段にサイオン能力を使うなど、シャングリラは緩み切っている、と長老たちは指摘する。そこへ、ハーレイからの連絡が入る。一部のものが、シャングリラでの任務をボイコットし、ナスカにとどまっているというのだ。

 ナスカで経過している4年という時間が、地上に降りた若者らと、地球(テラ)へ行くことをあくまでも目指す長老たちとの間の溝を大きくしているのだが、その時間経過があまり視覚的にうまく表現されていない。さらに、前話のサムの事故の調査に動き出したキースの話が同時進行で描かれているのだが、こちらは事故から今まで4年間何をしていたのだろうか? と思わざるを得ず、構成がぎくしゃくしているように思われる。おそらく、原作にはなかった、ナスカを発見し移住を決意するまでを描いた第10話を加えたことで、うまく時系列を再構成できないままサムの事件になだれ込んでしまったのだろう。

 それに拍車をかけるのが、宇宙クジラを追いかけるジャーナリスト、スウェナの存在である。彼女はステーションでサム、キースと同級生だったが、結婚するためコースを外れた。それが離婚するのは、まあアリかもしれないが、この厳格なコンピュータによる管理体制を敷くスペリオル・ドミナントの世界において、ジャーナリストなどという職業が存在しうるのだろうか。それは筆者ならずとも、原作を知る誰もが抱く疑問だろう。
 しかも、彼女がセキ・レイ・シロエがキースに宛てたというメッセージを手にしているというのだ。そもそもシロエ事件は彼女がステーションを去ったあとで起こっており、事件の経緯を知るはずもない。そのためにステーションは閉鎖となった。当然情報は統制されアクセスできるはずもなく、一体彼女がどうやってそのメッセージを手に入れたのか、「は?」という気持ちが大きすぎ、話が入ってこなくなってしまった。原作ではマザー・イライザが「自分の目で確かめなさい」とキースに告げた彼の秘密を、本作では彼女が握っている。物語の進行上の主導権が、スウェナに移ったかのようで、これはどうも良くない方向へ展開していってしまうのではいか、と懸念せざるを得ない。

 後半、ようやく「孤独なるミュウ」というタイトルが表す存在、ジョナ・マツカが登場する。艦隊司令となって再登場するグレイブ・マードックから押し付けられる形でキースの側に仕えることになるマツカだが、彼はキースが宇宙港に到着する前から、寒気のようなものを感じて怯えていた。その出会いの鮮烈さが、展開のめまぐるしい第12話のクライマックスであろう。

 キースの世話を命じられたマツカに、キースは思念で語りかける。彼はミュウではないか?という疑念を抱いたからだ。それに気付きながら無視していたマツカだが、キースが「私に触れるな」と思念を送ったとき、彼は動揺しミュウとして反応してしまう。落とした拳銃を拾って狙うキースの動きを、マツカはサイオン能力で封じるが、それでもキースを止めることはできなかった。

「胸に刻め。おまえクラスの能力では、次の機会はない。今度私にその力を使えば、必ず射殺する。私は、対サイオン訓練も受けている」。

 衝撃弾でマツカを撃ったキースは、ミュウの能力を持つ彼に、どうやって成人検査をくぐり抜けて生きてこられたのかを問いかけるが、彼の涙を見て不意に銃口をそらした。そして立ち去ろうと背中を向けたとき、後ろから近づいて問いかけようとしたマツカを再ひ撃ち倒すと、こういうのだ。

言い忘れた。私の後ろから近づくな。それが誰であろうと撃つ。
私はそう訓練されている。



 対サイオン訓練を受け、ミュウの思念波攻撃をも跳ね返す強靭な精神と肉体とを兼ね備えた、まさにメンバーズ・エリートたるキース。やがて彼が、ミュウたちが本拠とする星域へと向かうことになるのだ。


キャラクター紹介

トキ
 ナスカに定住を希望する若者グループのリーダー格。ハロルドらとともに、長老たちに反発してシャングリラの任務をボイコットする事件を起こす。ナスカでの自給自足の生活を望み、まだどこかで殺されているミュウは、自分たちには関係ないと言い放つ。

トオニィ
 ユウイとカリナの間に生まれた子どもで、このとき3歳。父ユウイはテレパシー能力が目覚めないことを気にかけていたが、父の危険を察知し、また、みんなが幸せになれる選択肢はないのか、と悩むジョミーに「大丈夫、ぼくたちがいる」と思念を投げかけるなど、その能力の片鱗を見せ始める。

ジョナ・マツカ
 グレイブ・マードック艦隊司令の下にいた下士官。着任してきたキースの出迎えに遅刻して叱責されるなど、気弱で神経質そうな少年だが、実は成人検査をくぐりぬけたミュウだった。その正体を見抜いたキースを殺そうとするが、打ち負かされる。

評点
★★ 枝葉に時間を使いすぎ、本筋が見えにくい。作画も平板。



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