地球(テラ)へ…

第10話「逃れの星」

脚本/出渕裕 演出/高山秀樹 絵コンテ/つるやまおさむ 作画監督/中野りょうこ

あらすじ
 アルタミラを出たミュウの船は、もう12年にわたって銀河をさまよっていた。ソルジャー・シンは引きこもったまま、ブリッジに姿を現さなかった。船長ハーレイは8年前、ジョミーが人類へ呼びかけようと提案したことを思い出す。それ以来彼は心を閉ざしていた。

Aパート:人類統合軍の追撃、モビーディックの噂、8年前の出来事、E-1077の閉鎖
Bパート:フィシスの託宣、ジョミーと若者との会話、赤い星、ジョミーの決意

コメント

 人類統合軍の戦艦を振り切り、太陽に向けて進路をとるミュウの船。このままでは太陽に突っ込んでしまう、というそのとき、ハーレイは、ワープドライブの起動を命じる。追撃していたのは、かつてのキースの先輩、グレイブ・マードックだった。楽しみは後に残しておこう、と彼はワープしたミュウの船の追撃を断念する。
 そのころ、元船乗りの男から、軍が「モビーディック」と呼ぶ宇宙クジラの話に耳を傾ける女性がいた。かつてステーションE-1077の学生で、結婚のため進路を変更したスウェナ・ダールトンである。男は彼女に8年前、ペセトラ基地勤務中に見たことを話した。

 第9話から8年後に舞台が変わる。その時間の経過を、ミュウの船の船長、ハーレイの航海日誌という形で伝えるその導入は、原作にある叙事詩的な作風を思わせ、とても良い。
 ミュウの船は、ジョミー・マーキス・シンを迎え入れ、惑星アルテミシアを飛び立ってから12年、宇宙をさまよい続けていた。目指すは地球(テラ)のはずだったが、これまで訪れた16の恒星系の中に地球(テラ)はなかった。8年前のあの日以来、人類統合軍の包囲網が狭まっており、彼らは疲弊していた。彼らはテラの座標を知らなかったのだ。

 原作では第3部に入るところで、ペセトラ基地からパトロールに来たサム・ヒューストンと遭遇するジョミーが描かれるが、本作ではその前日譚ともいうべきオリジナルストーリーが展開される。
 前話までの舞台だったステーションE-1077で登場したグレイブ・マードック、スウェナ・ダールトンが登場すること、ソルジャー・ブルーが寝たきりになりながらまだ生きていること、など原作とは異なった設定になっており、今後の展開に期待を持たせる。

人類統合軍に追われ、太陽へと突っ込みそうになったことで、ゼル機関長は、これならフィシスの託宣に従えばよかった、とつぶやく。ここまでは静かに見守るような存在だったフィシスが、やがてストーリーを動かすようになっていくことの予兆かもしれない。ソルジャー・ブルーは寝たきりとなり、ジョミーもブリッジに姿を現さず引きこもり状態になっているのだ。  ハーレイのもとを訪れたヒルマン教授は、8年前の出来事以来のジョミーの変化を心配していた。

 8年前、ハーレイの部屋にやってきたジョミーは、人類とミュウの共存を求めて、テラへ呼びかけることを提案した。

ぼくらが敵対すべきは人類ではない。
地球(テラ)のシステムそのものが敵なんだ。



 その提案は実行に移された。そして思念波送信は二度にわたって実施された。第8、9話のバックグラウンドである。そのとき、サムは少年のままの姿でミュウの長になっている幼馴染に衝撃を受け、体制の反抗者シロエは地球(テラ)を目指して藻屑と消えた。
「ピーターパン、来てくれたんだね? 約束通り、迎えに来てくれたんだね?」
 ジョミーはそのとき、シロエの意識の断片を一瞬とらえたが、つかまえることはできなかった、という。この日以来、人類統合軍の包囲網は狭まり、戦いに戦いを重ねて彼らは疲弊していた。

 一方スウェナは、ステーションが閉鎖されるという知らせを聞く。Mのキャリアがそこの生徒だったらしい、感染がこわかったんだろうという、そのMを処分したヤツが出世して、国家騎士団のメンバーズエリートだ、という。
 スウェナは、それがキースだと悟った。

 SD593年12月23日、ミュウの船「シャングリラ」はオリオン座、ベータ辺境星域に入った。破損したエネルギー電動コイルを修理するのに必要なジルナイト鉱石を確保するためだった。  ジョミーはフィシスのもとを訪れ、占ってほしい、よき未来がどこにあるのかを、と望む。彼女の託宣はこうだった。

「輝く二つの太陽、赤き星、我々の未来、そして可能性」

  そしてそのあと、ジョミーはミュウの若者らとの会話を通して、彼らの未来と可能性を確信し、迷いを捨てて進み出すのだった。

 こうして、次なるステップへと橋をかけてゆくお話、ミュウの船が機雷に進路を阻まれたり、鉱石確保のため惑星に立ち寄るなど、ヤマトっぽい設定があるのは、のちに「ヤマト2199」の脚本を手がけることになる出渕裕らしいな、というべきだろうか。
 ・・・と、きれいにまとめられた一話だが、ところどころ、ん? と思わせるところがある。スウェナの意外な形での再登場は意外だったが、宇宙クジラをめぐる彼女と船乗りとの会話は、体制を揺るがす何かを見た者の記憶は消去する、というこの世界の体制にも、ほころびがあるということを示しているのだろうか?
 シロエがジョミーと幼い頃に出会っていた、というアニメオリジナルの設定がまるで反映されておらず、そこが、やや物足りない。ジョミーが引きこもっていた理由は、二度の思念波伝達による地球へのメッセージが受け入れられなかったことによるものだろうが、「シロエを助けられなかった自責の念」が加わればなおのこと、「敵は人類ではなくシステム」という彼の思いが補強されよかったと思うのだが。


キャラクター紹介

ユウイ
 ミュウの若者クルーの一人。ジョミーがカリナら若者たちとの対話から、体制が「倫理に反する」と位置付けている自然懐妊による出産で子孫を残すことに希望を見出したあと、カリナに対してプロポーズする。

用語解説

ナスカ
 ジルベスター星系第七惑星「ジルベスター7」で、破棄された植民星だった。150年ほど前にテラフォーミングを断念、以後入植は試みられていないという。フィシスの託宣により、ジョミーはこの星へ定住することを決意し、フィシスによって「ナスカ」と名付けられた。

M
 「ミュウ」を表す隠語として使われているらしい。軍やステーションの管理局のみならず、呑んだくれの元船乗りにも知られているようだが、接触すると「感染する」など、誤った知識も同時に広まっているようである。ステーションE-1077の閉鎖も、Mの発生と関連づけられていた。


評点
★★★★ 詩的な情緒を演出しながら、過去と現在、そして今後の展開へとうまくつなげた。



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