地球(テラ)へ…

第7話「反逆のシロエ」

脚本/根元歳三 演出/小林浩輔 絵コンテ/羽多野浩平 作画監督/宮前真一

あらすじ
 キース・アニアンはその卓越した能力から「マザー・イライザの申し子」と呼ばれるようになっていた。そんなキースに、平然と体制批判を口にする少年セキ・レイ・シロエが近づいてくる。そんなある日、ステーションでは「宇宙鯨」の出現に沸き立っていた。

Aパート:シロエ登場、キースへの自己紹介と敵対心、宇宙鯨の出現
Bパート:スウェナの結婚、シロエの挑発、忘却を恐れるシロエ、キースとの対決

コメント

 キースとサムは、新入生を迎える立場になっていた。その新入生の中に、第5話で登場したセキ・レイ・シロエがいる。本が好きな天真爛漫だったシロエはしかし、成人検査を通過した過程でいろいろと、性格をこじらせてしまったようである。同級生と言い争う場に遭遇したキースに対して、シロエは何か思うところがある様子を伺わせる。

 前話でキースが得たのが「友達」だとすれば、今回関係することになるのは「ライバル」であろうか。前話ではグレイブ・マードック(アニメのオリジナルキャラクター)というライバル候補が登場したが、キースの相手にはならなかったようだ。

 グレイブが取り巻きを引き連れていたのとは違い、キースは友達になったサム、スウェナと行動をともにしている。彼らは落ち着かない様子の新入生を、懐かしげに眺めていた。彼らの様子に、新入生だった頃の自分を重ねあわせるサムだが、キースは最初から落ち着いていたことに触れると、キースは「ここが安全な場所だとわかれば、じきに慣れる」と微妙に噛み合わない答えをした。突っ込むとすれば、新入生だった彼が落ち着いていたのは、ここが安全な場所ともう知っていたから? ということになるだろう。

 彼らの学園生活をうわべだけ見ていると、それが私たち視聴者にとって「異常な体制の異常な社会」の上にあることを忘れ去ってしまう。しかし、それを思い出させてくれる存在がここで出てくる。それがあの、セキ・レイ・シロエなのである。彼らの会話を耳にして、シロエは「それって、いいことなんですかねえ。僕には、彼らより先輩方やこのステーションにいる人たちの方が、よっぽどおかしく見えますけどね」と疑問を投げかける。



監視され、いうことを聞かされ、すっかり飼い慣らされている。
しかも、そのことに疑問すら抱かない。
一体、あの中の何人がマザー・イライザの手練手管から
逃れることができるのか。
半年もたてば、おそらく全員マザー牧場の羊だ。

 そしてキースに対して、優秀であること、マザーイライザの機械の申し子と言われていること、程度の高い人間と付き合え、という教授の言葉に従ってと近づきになりたい、と自己紹介をする。普通の人間(サムのような)なら、お近づきになりたい人物にいきなり因縁をつけている頭のおかしいヤツ、となるだろうが、キースは表情を変えることなく彼をスルーし、サムとスウェナに、彼がシステムに対し反抗的であることから要注意の指示が出ていることを告げる。

 「監視され、いうことを聞かされ、すっかり飼い慣らされている」とシロエが言うステーションでの生活がどんなものなのか、具体的な描写に乏しいのが悔やまれるが、彼はまぎれもなく、この体制の中では異端児である。その彼が敵視といっていい視線を向けるキースとは何者なのか、彼の登場によって、私たち見る側の好奇心も掻き立てられてゆく。

 このシロエとともに、キースという人物の「共感性のなさ」ともいうべき特徴を引き出す存在として描かれているのが、スウェナである。伝説の「宇宙鯨」の出現に沸き立つステーションの中で、ライブ映像を見ながら交わされる意味深の会話から、スウェナがキースに思いを寄せていることが伝わってくる。だがそのときのキースの言動に、彼女の表情は曇るのだった。

 後半では、キースと絡むシロエとスウェナ、それぞれが彼に対して「意志」を示していく様が描かれる。
 まずはスウェナ。なんと、エリートコースを離れて、宇宙港の技師と結婚する、という。キースとの心の距離が縮まらないと感じた彼女は、思いを断ち切り別の道を歩むことを決断したのだ。おそらく、彼女の恋心に気づいていたサムはキースに「何か言ってやれよ」と促すが、それに対してキースは「何を言えばいいんだ」と答えてスウェナを驚かせる。そして、こう言うのだ。「スウェナが決めたことだ、仕方ない、我々が口出しできる問題じゃないだろう」と。

 別にキースの言うことは間違ってはいないのだが、何を言えばいいのか?というあたりに、彼のスウェナに対する無関心さが伺われ、彼女の心の痛みが伝わってくる。

 次に、絡んでくるのがシロエである。一般コースへ移るため、ステーションを旅立っていくスウェナを見送るサムとキースに「結婚なんていったって、所詮ただの逃げ、挫折でしょ?あるのはせいぜい慰めだけそういって悪ければ、心の平穏かな?」と言って再び挑発してくるのだが、その夜、キースは「脳波が乱れている」とマザー・イライザから声をかけられることになる。表には現れないが、彼にも何か思うところがあったようである。

 一方シロエは悪夢にうなされている。枕元に置かれた「ピーターパン」の本から、彼が成人検査によって記憶を消されたこと、残された記憶の断片を忘れまいと苦闘している、という内側の顔を知ることになる。

 サムは、シロエを「幼ななじみのジョミーに似ている」と言うが、実際、10歳の頃にジョミーと出会っているという、原作にないエピソードが加えられたシロエは、「成人検査を通過していたはずのジョミー」ともいうべき存在なのではないだろうか。ジョミーがミュウの船で異質な存在だったように、シロエもまたステーションE-1077においては異質の存在である。そして、そんな彼だけが、キース・アニアンの「異様さ」に気づいたのだ。

 ゲームセンターでのシューティングゲーム対決で、シロエの挑発的行為にケリをつけようとしたキースだが、シロエの次の一言に、隠されていた「感情」を爆発させる。

やっぱりあなたは、マザーイライザの申し子だ、機械仕掛けの、冷たい操り人形なんだ

 ジョミーを懐かしむサム、キースを慕いつつエリートコースを断念するスウェナ、そして成人検査前の記憶を忘れまいとするシロエ。特殊なSD体制の中にあっても、それぞれに人として、その体制に収まりきれない凹凸を持つのが人間というものである。このストーリーの中では、一見、キースを挑発してくるシロエが異質な存在に見えるが、実は体制に収まりきれない凹凸をまったく持たないキースこそが、人間として異質ではないか、と彼は「告発」しているのだ。

 では、そんなシロエの放った言葉の、何が、キースをしてシロエに強烈なストレートを食らわすほどの感情を引き出したのだろうか? それとも体制に反逆する者を叩きのめすべく、彼は「プログラミング」されているのだろうか?




用語解説

宇宙鯨
 宇宙を放浪する謎の物体で、スペースマンたちにとって伝説的な存在になっている。「あれと遭遇した者は、皆死ぬ」とか「願いが叶う」と言われているが、異星人の船なのか、道の生物なのか、実態は誰も知らない。実はミュウの船だろうとわかるのだが、ミュウの船が宇宙に出たのは数年前のことにすぎず、伝説的な存在になるには早すぎるのでは?と突っ込んでおこう。アニメ化で付加されたエピソードである。

エネルゲイア
 セキ・レイ・シロエが生まれ育った育英都市。惑星アルテミシアにある育英都市群の中でも、特に技術関係のエキスパートを育てることに主眼を置いている。ただ、ステーションE-1077では「技術系の第三階級出身」と見下されている節もある。


評点
★★★★ 原作ではモブキャラだったスウェナを絡ませて、キースの人物像に厚みを加えた。



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