地球(テラ)へ…

第4話「宙(そら)からの帰還」

脚本/堺三保 演出/高山秀樹 絵コンテ/吉田英俊 作画監督/中野りょうこ

あらすじ
 ユニヴァーサルの保安部に捕らえられたジョミーはその力を爆発させ、攻撃をかわしながら宇宙にまで達しようとしていた。ジョミーを守るため、船長のハーレイはミュウの船を浮上させることを決意。ソルジャーブルー自らが出てジョミーに再び語りかける。

Aパート:ジョミー飛翔、シャングリラ浮上、ブルーの記憶
Bパート:ジョミーへ託した思い、第2波襲来、ジョミーへの権限委譲

コメント

 ついに、ミュウとしての能力に覚醒したジョミーは、その強烈な感情が発する思念波のエネルギーで、ユニヴァーサルの施設を破壊し、アタラクシア上空へと飛翔してゆく。アタラクシア上空へ達したジョミーの思念波を感知したハーレイは、そのエネルギーの強大さに驚愕する。ジョミーは戦闘機の追撃をかわしながら、アタラクシア上空を思念波によって高速で飛行していた。そんなジョミーを追跡するため、ソルジャー・ブルーはついにその老いた体でミュウの船シャングリラから飛び立つのだった。

 第3話で、この社会の異常な現実に直面し、とりわけ愛する「母」がこの異常な体制を忠実に維持する任務を負った者であることを知ったジョミーは、この世界に適応することを拒否した。今回のテーマは、そんなジョミーが、ブルーから「ソルジャー」の称号を継承することにある。ほぼ原作通りの流れだが、原作ではミュウの船の中で出会ったソルジャー・ブルーに見せられた「記憶」の場面が、本作ではブルーとの空中での邂逅で描かれていることに違いがある。
 「誰も、僕に触れるな!」
 強い拒絶感によって思念波エネルギーを発動させたジョミーはアタラクシア上空に達し、ユニヴァーサル当局は戦闘機を出撃させ、彼を追跡、撃破しようとした。しかしジョミーはサイオン攻撃により戦闘機1機を撃破すると、さらに上空へと飛翔していく。追いかけるソルジャー・ブルーはその強さを驚きをもって受け止めた。

 雲の中に身を隠し援護していたシャングリだが、ついにジョミーを追いかけるソルジャー・ブルーがテレパシー圏内より離脱してしまい、ハーレイは援護のためシャングリラを浮上させる。ステルスモードを解除して、ユニバーサルの注意を引きつける作戦をとる。それは、人間にミュウの船の位置を教えることを意味した。
 ただちにユニヴァーサルは迎撃部隊を出撃させる。その船の巨大さに、市長らは驚いた。市民に戦闘を感づかれたら大変な騒ぎになる、ということを恐れる。しかし市民らは「外のことに興味を示さない」よう慣らされていた。

 来るな、と叫び続けるジョミーに追いついたブルーは「このままでは、宇宙に飛び出してしまう」と彼を引き止め、思念波によって彼に自身の記憶を見せるのだった。
 成人検査を受けた、若かりし日のブルーの姿をジョミーは見る。この場面には医師と看護師が描かれているが、看護師の服装は製作時の2007年にもすでにナースキャップは廃止され、ほとんどの看護師はパンツスタイルで勤務しているはずである。製作者の「看護師像」がアップデートされていないのはどうかと思う。さらに付け加えると、ブルーが能力を発現させると「きゃー、助けて」と腰を抜かして叫んでいたが、看護師とて医療に関わるプロフェッショナルなはず。これではナースのコスプレをしたギャルにしか見えず、こうした古いステレオタイプから、アニメも脱却してほしいと感じた。
 成人検査の中でブルーは「一切の記憶を捨てなさい。あなたはまったく新しい人間として、地球の上に生まれ落ちるのです」というマザーコンピュータ「テラズ・ナンバー」のメッセージを聞く。しかし、彼はそれを拒絶した。その強い感情により、ブルーはミュウとしての能力に目覚める。彼こそが、第一世代のミュウだったのだ。

人間とは、自分と違うものを恐れ、排除する生き物だ。
幾度となく、僕は地球にメッセージを送った。
だが、彼らは聞き入れようとはしなかった。
僕はもうすぐ燃え尽きる。
この先は君が彼らを導き、地球の喉元に歩み寄り、
僕の思いを伝えてくれ。




 ミュウ殲滅作戦から辛くも脱出したブルーの記憶を、ジョミーは涙をもって今、受け止めていた。「自分はミュウじゃない、人間なんだ!」と言い張っていた彼だったが、ミュウの船からアタラクシアに戻ったことで、彼はブルーと同じ体験をしたのである。その涙は、ブルーと同じ感情を持って、その記憶を受け止めたからこそのものなのだろう。

 この部分は先述したように原作とは異なっているが、原作ではブルーからミュウの記憶を伝えられて「いやだ! 誰も僕に触れるな」と爆発したのだが、本作では、アタラクシアに一度戻ったことで、「いやだ」と拒否する対象が「ミュウである自分」から「母を名乗るシステム」に変更されており、ここは、より本作全体のテーマにフィットする改変となっているのではないかと感じた。

 後半は、力尽きたソルジャー・ブルーを救出しシャングリラへ帰還するジョミー、それに伴うシャングリラへの第2波攻撃へと展開していく。300年間、一度も本格的な戦闘などしてこなかった彼らは精神力を使い果たし、機関部にも損傷を受けて満身創痍となったうえ、第2波ではワープドライブも損傷してしまうが、アタラクシアに取り残されたリオの救助に向かった救助艇が追撃されていることから、一刻も早く回収するため、ハーレイは、アタラクシアに進路をとるよう命じる。  ミュウの船とユニヴァーサルの戦闘機との戦いの場面は戦闘シーンとはいえ船が巨艦で防御に徹しているだけに、単調な感じが免れない。ここは、リオの救出劇など交えながら、もう少しスピート感を出す工夫があってもよかったのではないだろうか。

 ブルーを助けて帰還したジョミーを迎え入れたミュウの船では、ソルジャー・ブルーの意志により、ジョミーにその心を託し、次代ソルジャーとして地球へ迎え、というメッセージがミュウの仲間たちに送られる。それを、個室で一人聞くジョミー。ミュウの船の制服をまとった彼は、ミュウとして生きる道を選んだのだった。

 原作はこれで第一部の幕となるが、本作では第二部へのつなぎとして、もう少し彼らミュウの話が続くことになる。


キャラクター紹介

ブラウ航海長
 ドレッドヘアがトレードマークの長老の一人で、シャングリラの航海長としてブリッジにいる。はっきりと物申す性格で、ゼル機関長とは対照的に、何事にも前向きである。よくみると左右の瞳の色が異なる、オッドアイである。

おヤエさん
 ブリッジクルーの一人でレーダー要員。実は竹宮惠子の漫画「私を月まで連れてって」に登場する家政婦おヤエさんのカメオ出演である。登場作同様マルチな才能を持ち、エンジニアとしても活躍する。


用語解説

ユニヴァーサル
 育英都市アタラクシアの統治機構で、トップは市長である。成人検査を実施し、不適格者を処分する権限を持つほか軍事力を行使することもでき、浮上したシャングリラに迎撃部隊を送った。市長は、市民が戦闘に気づくことを恐れていたが、市民は「外のことに興味を示さない」よう慣らされていた。

ミュウ殲滅作戦
 ブルーら第一世代となるミュウの能力の発現に驚いた科学者らは彼らを実験体とし、テラズ・ナンバーの記憶の消去に抵抗して、サイオンが顕在化したと分析する。そして、成人検査を実施し続ける以上、突然変異としてのミュウの発生は止められない、という結論に達した。しかし成人検査は実施を免れないため、ミュウの抹殺が命じられ、大規模な殲滅作戦が実施された。ブルーらはその生き残りであった。これをきっかけに、ミュウの殲滅は、「グランドマザー」からの絶対命令となった。


評点
★★★★ ブルーからジョミーへ、ミュウ迫害の記憶が伝えられる流れは良かった。



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