地球(テラ)へ…

第3話「アタラクシア」

脚本/西出明美 演出/柳瀬雄之 絵コンテ/つるやまおさむ 作画監督/高乗陽子

あらすじ
 自分がミュウであることを受け入れられないジョミーは、ソルジャーブルーに、アタラクシアに戻りたいと懇願する。リオとともにアタラクシアに戻ったジョミーは、喜びいさんで両親と暮らした家に戻るが、そこにはもう誰もいなかった。

Aパート:誰もいないジョミーの家、学校での再会と教師の通報、リオの生い立ち
Bパート:ユニヴァーサルの追跡、ブルーの覚醒、ジョミー爆発

コメント

 第3話は原作にはない「成人検査後、ジョミーがミュウの船からアタラクシアへ帰る」という展開。ここで何にフォーカスし、どんなことを語るのか、製作陣の力量が試される回である。

 家に帰りたい、と訴えるジョミーの願いを聞き入れ、ソルジャー・ブルーはリオに命じてジョミーを帰らせる。その意図を問い詰める長老らに対し、ブルーは「ジョミーはまだ本当の自分に気づいていないだけだ。だからこそ、彼をアタラクシアに帰したのだ」と説明する。本当の自分を見出す、それが今回のテーマということである。

 ジョミーを連れてアタラクシアに戻ったリオは、地下から都市部に潜入し、監視操作を思念波で操作する。記録が残らないように、ということなのだが、それを見たジョミーは「君たちは、いつもそうやって侵入しているのか」と反感をあらわにする。自分は人間、ミュウじゃない、という思いでいっぱいなのだ。

 成人検査を無事にパスして「大人の社会」に行くものだと疑わなかったジョミーは、成人検査「前」の自分の世界に戻ろうとする。まずはじめに、両親の家。そして学校である。
 この社会のシステムでは、子供と親との間に血縁はなく、ジョミーの両親も養父母である。そうであっても、彼の母親への思慕は強い。そこへ戻れば、いつものように母は彼を出迎えてくれることを、期待していたのであろう。しかし、家にはだれもいなかった。それどころか、家財道具の一切が消えていた。彼らは「ジョミーの父母」という役割を終えたのだ。
 その現実を受け入れられないジョミーは、リオに「おまえたちのせいだ」と八つ当たりする。

 そして次に向かうのが学校である。朝の通学時間で、彼は同級生のサムとスウェナに出くわして彼らから「どうしたの?」と驚かれる。成人検査を受けた者は、ステーションへ行っているはずなのだ。彼らの問いに答えられないジョミー。近づいてくる教師の姿を見て、結局彼はそこから立ち去らざるを得なかった。生まれ育った街、アタラクシアに、もう彼の居場所はなかった。

 自転車に二人乗りして、ジョミーはリオとともにアタラクシアから出ようとする。このときリオは、傷心のジョミーに、自らの生い立ちを話して聞かせる。
 生まれつき言葉を発することのできなかったリオは、早くからミュウの力に目覚めていた。両親は彼を扱いかねていたが、リオは彼らの考えていることがわかったので、サイオンチェックにかからないよう、慎重に生きてきた、成人検査を受ける前にソルジャーに助け出された。
 5000人いる子供たちはみんなそんな境遇にある、という。ミュウの中には、成人検査の際に目覚める子もいるが、救出されても記憶は残っていない。

あなたは、強い。
そして私たちには持ち得ない、家族の温もりを持っている。
あなたは、特別なのです。


 ごく普通の人間の子供として、大人に「ミュウであること」に悟られないよう気遣う必要もなく、温かい家族や友人との関わりの中で、天真爛漫に生きてきたジョミー。そして、成人検査でもその記憶を手放さずに守り抜き、ミュウに迎え入れられた今も、そのまっすぐなまなざしを失わないジョミー。
 リオがジョミーに見出している「特別さ」は、私たちから見るとごく普通のことのように思える。しかし、ミュウの能力以上に、そのごく普通に人として本来与えられているはずのものを持っている、ということの中に、リオは、そしてソルジャー・ブルーは「強さ」を見出しているのである。ジョミーがどれだけ失礼な態度で彼らに毒づいても、だから彼らは怯まない。それこそが、彼の「強さ」とわかっているからであろう。 。

 思念波により、ジョミーが船からいなくなったことを皆が感じるシャングリラ、それとは対照的に、いなくなったジョミーが帰ってきたことを不審に思うアタラクシア。ジョミーが「普通」と思っていた世界は、人がある日を境に「いなくなる」ことが当たり前だったのだ。自らの「目」を通して、ジョミーは自分が生きてきた世界の、そこはなとない異常さを感じたのではないだろうか。

 こうして、ジョミーの里帰りと真実を知るプロセスが描かれる前半部はそれなりに中身が濃く引き込まれるが、後半、彼らが管理局から追跡され、追い詰められたあたりから、急速に話が薄くなっていくのはどうしたことだろうか。

 ジョミーの里帰り中、ジョミーの意識を追いかけ続けてきたブルーは、二人が捉えられ、ジョミーとリオは別々に深層心理テストを受けさせられる。ジョミーの検査は穏当に見えるが、リオの受けている検査はほとんど拷問である。

 ミュウだとわかっている彼らをすぐに殺さず拷問にかけるのは、ミュウの船を探し出して撃沈するためだろう。しかし、そのジョミーの深層心理に、ソルジャーブルーが介入する。

 テスト中にジョミーが見る母の幻影は、第1話の繰り返しでもありやや冗長に感じられる。深層心理テストに介入するソルジャー・ブルーという構図も、第1話の繰り返しであり、その間に挟まるのが拷問されるリオ、というのでは、かなり見るのがしんどくなる展開である。
 結果的に、ブルーの介入によってジョミーは、記憶の中の「母」が「母ではない」ことに気づくのだが、それは、前半部でリオが語っていたジョミーの「家族の温もりを知っている」ことからくる強さと矛盾するようでもあり、本作で「母」という存在をどのように捉えるべきか、というところに、揺れが見えるように感じられた。

 テストの最中、ついにジョミーはそのミュウとしての能力を爆発させる。後半のハイライトは、長老たちとの会合でも横たわって目を閉じたままのソルジャー・ブルーが「カッ」と目を見開くシーンだろうか。

 ところで、なぜジョミーをアタラクシアに一度帰したのか、作劇という観点から見ると、原作では地中深く潜んでいたミュウの船から、ジョミーは能力を爆発させて飛翔していくが、本作ではミュウの船が上空にあり、そこからジョミーが飛翔しても迫力ある絵が作れないということがあったからであろう。そうした作為を補って余りあるほど、内容のある第3話であったかというとやや疑問である。


キャラクター紹介

ゼル機関長
 ミュウの船「シャングリラ」の長老の一人で、機関長。ジョミーを受け入れることに反対し、一貫してジョミーに対して辛辣な頭の硬い人物として描かれる。若い姿を保つことのできるミュウだが、なぜ彼が老人であるかは不明。

エラ女史
 ミュウの船「シャングリラ」の長老の一人で、ソルジャー・ブルーの前でゼル機関長と同調し、ジョミーを受け入れることに反対した。普段はゼルとともにブリッジにいる。公式HPによると、歴史学者とのことである。

カリナ
 第2話でジョミーを取り囲んだ子供の中の一人。ジョミーが記憶する「ママ」の姿に興味津々だった少女で、原作では第3部、大人になってから登場する。ジョミーが船からいなくなったことに気づき、心配していた。


用語解説

サイオン
 「サイオンチェック」「サイオン反応」「サイオン攻撃」などの言葉が登場するが、原作で使われていた「ESP(エスパー)」という言葉を置き換えたものであり、ミュウの持つ強力な思念波を表す。第3話では、リオが管理局の追撃をサイオン攻撃で防ぐ場面が見られた。


評点
★★★ 後半、ジョミーが爆発するまでは盛り上がる所なのに緊迫感なく失速した感あり。



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