レビュー
総天然色で約3時間40分という大長編映画です。聖書でおなじみの物語ですが、赤ん坊のモーゼが王女に拾われてから、奴隷を虐げるエジプト人を怒りのあまり殺してしまい、荒野に逃げ出して放浪するまで(このとき40歳)のお話は創作です。当時のハリウッド娯楽映画にふさわしく、観客を楽しませる工夫が盛りだくさん。その一つがラムセスとモーセの王位継承をめぐる争いであり、モーセと王女ネフレテリとのラブストーリーなのでしょう。でも、正直いってデロデロ、メロメロなメロドラマ的展開に辟易気味。
そして後半。ミデアン人の娘ツィッポラと結婚し、羊飼いとして平穏な日々を送っていたモーセは、ある日、いつまでも燃えていて、燃え尽きない不思議な柴を目にします。これはどういうことだろう、と近寄ってみると、主なる神の声を聞き、奴隷となっているヘブライ人たちを連れて、エジプトを脱出しなさいという召命が与えられます。彼はエジプトの都に舞い戻り、王となっていたラムセスと対面、ヘブライ人の奴隷たちをエジプトの地から去らせるように要求し、それを拒絶するラムセスに神は裁きをもって対決します。映画ではモーセの杖がヘビになる、ナイル川の水が血に変わる、の2つしか描写されなかったのが残念です(他に、アブの大発生、カエルの大発生、イナゴの大発生とかあったよね?)。エジプト人の初子がすべて主によって命を絶たれる、という裁きによってはじめて、モーセの要求を聞き入れたラムセス。ヘブライ人たちは荷物をまとめてエジプトを出立し、約束の地(今のパレスチナ)を目指します。
さて、この映画。タイトルが「十戒」なだけに、ここでお話しはおわりません。シナイ山に登ってモーセが主から十戒を授けられ、山を下りていくと兄のアロンが「我々の新しい神だ」といって造った金の子牛の像のまわりで酒池肉林を繰り広げていたイスラエルの民にキレまくり…という、「あの海が割れる奇跡はなんだったのか」的ストーリーが展開します(もちろん、聖書どおり)。ラストはネボ山でモーセがヨシュアと別れを告げ、一人去っていくという場面(ちなみに、このとき120歳)。映画「十戒」はモーセの壮大な人生叙事詩でした。
聖書の中のモーセは、もっと鬱屈したヘタレキャラ。実はヘブライ人なのにエジプト人として育てられたということで、エジプト人ではないのだけれど、さりとてヘブライ人の奴隷の苦しみを味わっているわけでなく、どっちつかずのアイデンティティのぐらぐらした人物。そんな彼に主が出会われて「ヘブライ人を導いてエジプトを出なさい」と言われたとき、彼は3回も神様に口答えし、とうとう神様がキレてしまう、それぐらい優柔不断な人物でした。でも、映画では最初から偉大な人物として描かれていましたね。そこが、今見ると物足りないかもしれません。聖書の物語をスペクタクルに描く娯楽映画としては素晴らしいと思うけど、有名な海が割れるシーンをのぞけば、意外にさらっとした仕上がりでした。
評点 ★★★
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