MUDDY WALKERS 

死にゆく者への祈り a Prayer for the Dying

死にゆく者への祈り 1987年 イギリス 108分

監督マイク・ホッジス
脚本
エドモンド・ワード
マーティン・リンチ
原作ジャック・ヒギンズ

出演
ミッキー・ローク
ボブ・ホスキンス
アラン・ベイツ
サミ・デイヴィス
リーアム・ニーソン

スト−リ−

 IRAのテロリスト、マーティン・ファロン(ミッキー・ローク)はドカティ(リーアム・ニーソン)とともに、イギリス軍の装甲車を狙った爆弾テロを仕掛けようとしていた。しかしちょうどそこに通りがかったスクールバスを誤って爆破してしまい、仲間からも警察からも追われるようになる。そこでファロンは国外脱出をしようと、葬儀屋を営むアイリッシュ・マフィア、ジャック・ミーアン(アラン・ベイツ)から、偽造パスポートと船便を用意することを条件に、対立マフィアのボス暗殺という仕事を引き受ける。そして墓参に来たターゲットをそつなく殺すが、その現場で出くわした、ダ・コスタ神父(ボブ・ホスキンス)に顔を見られてしまう。しかし「殺しはこれが最後」と誓ったファロンは神父を撃たなかった。翌日、ファロンは神父の教会を訪れる…。

レビュー

 「ナインハーフ」で大ブレイクしたミッキー・ロークが元IRAの殺し屋を演じる。社会人になって間もない頃、主演のミッキー・ロークにひかれて見た映画だったが、DVD化されていなかったため、長らく再鑑賞の機会がなかった。ところが映画レビューを見直しながら調べるうち、某動画サイトで視聴できることがわかり、改めてレビューし直すことにした。

 哀調を帯びたケルト音楽、そして北アイルランドの曇天の空。冒頭から迫ってくる重苦しい雰囲気は、そのまま人の命を奪うことで戦い続け、疲れ果てたIRAの戦士、ファロンの心情をあらわすかのようである。冒頭から、彼はしくじる。共謀者のドカティは女の車で逃走するが、ファロンにはそんな力さえ残されていない。もはや、生きながら死んでいるかのようである。
 戦いをやめるために、彼は国外脱出を企てる。そのために、最後の殺しを引き受けざるを得なかった。ここで登場するのが、表向きは善良な葬儀屋のジャック・ミーアンである。夫を亡くした哀れな年寄りに葬儀代をふっかけてぼったくりを図った組員の意図を見破ったジャックが、年寄りを温かくもてなして正規の料金で葬儀を請け負い、丁寧に送り出したあと、ぼったくり組員を激しく糾弾して制裁を加える場面は圧巻である。
 そんなジャックから、暗殺の仕事を引き受けたファロン。仕事を終えれば偽造パスポートで国外脱出して、別の人生を歩む手はずだったが、現場にダ・コスタ神父が居合わせたことで運命が狂い出す。テロリストが持ってはならない感情を持ち始めた彼には、目撃者を射殺することができなかった。しかし、やがて警察が捜査を始めれば、必ずや目撃者である神父から、自分の身元が割れるであろう。ファロンには、まだ次の手だてを考えるほどには、利己性が残されていた。彼は神父の教会へ行き、殺人したことを告白する。いわゆる「罪の告白」である。告解の内容を、神父は絶対に口外してはならないという、カトリックの掟を彼は利用したのだ。
 教会で、ファロンはパイプオルガンを弾いている盲目の女性アンナと出会う。そこへ、捜査を始めた警察官が目撃者であるダ・コスタ神父を訪ねてやってくる。犯人のファロンは、神父が信仰上の理由で決して自分が殺人犯であることを言えない事をいいことに、警察官の前でも堂々と振る舞う。パイプオルガンを修理している、と警察官の尋問に答えるファロン。そしてその疑いを晴らすかのように、バッハのフーガを弾き始める。あまりのかっこよさに痺れる瞬間である。
 警察は、目撃者の神父がなぜか、一夜にして態度を変えて「私は何も話せない」といい張ることに不信の念を抱く。そして、教会でファロンの告解を受けたのだろうと察して、そういう理由なら上位の聖職者から話してもよいという許可を得てやろうか、と持ちかけるが、神父は頑として首を縦に振らない。ここにも、信念を貫き通そうとするかっこいい親父がいる。神父には、この世で彼が制裁を受けることよりも、彼の魂の救済こそが大切だと思ったのだろう。恐らくそう考える背景には、彼自身の過去も関係していると匂わせている。それぞれに影をもつこの三者のえもしれぬ葛藤。それが何ともいえない緊張感を生み出し、どんどんとストーリーに引き込まれていく。

 とても地味だが、味わい深い作品である。テロリストであることをやめようとする男の一時の休息と悲哀をミッキー・ロークが熱演し、特に敵対していくことになるジャック・ミーアン演じるアラン・ベイツの気迫迫る演技がそれをもり立てていた。
 しかし後半になると、次第にこの三者の緊張関係が散漫になり始める。神父の姪のアンナは、ファロンに心の変化をもたらす重要な人物だと思うが、神父がファロンに、殺人の罪を犯したことを責める場面に出くわして、彼の素性を知ってしまった後に、それに何も触れることなく、遊園地デートをして一夜を過ごす。本来なら、二人の間にも、これを知ったことで緊迫感が生まれてしかるべきなのに、それが描かれず、恐らくロマンスの要素を強めるために、濡れ場を挿入する羽目になってしまったのであろう。それでも、編集がよければ良いものになったと思うが、ここがちぐはぐでバランスが崩れてしまった。

 しかし映画を見ながら、どうかこのまま二人で幸せになってほしい、と思ったことは本当で、盲目のアンナが「あなたの顔を見たい」とつぶやくときのファロンの優しい表情に、このひと時で彼が人として大切なものを取り戻したのだなと感じられた。最後には悲しい結末が待っているが、教会でのファロン最後の戦いで、十字架上のキリストの像にすがりつく彼の姿に、「死にゆく者の祈り」を見た気がした。

 ファロンを追う同僚のドカティの運命が逆に非情すぎて、そこも泣ける。戦士は大義のために使い捨てにされる。そうではない死に様を、最後にファロンは選んだということか。

評点 ★★★★

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