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 宇宙戦艦ヤマト(1974)各話レビュー →宇宙戦艦ヤマト2レビュー

 第19話「宇宙の望郷!!母の涙は我が涙」


あらすじ (人類滅亡まで、あと255日)

 ヤマトは中間地点バラン星まであと4日のところまで近づいていた。そんなある日、通信班の相原は浮かない表情で医務室を訪れる。佐渡先生から精神疲労の診断を受けた相原は、森雪から立体メージ治療というホログラフを使った治療を受けるが、かえって症状が悪化する。通信室には、沖田艦長が訪れていた。太陽系を出て地球から7万光年の距離にあったが、奇跡的に地球との交信が回復したというのだ。沖田艦長は国連宇宙局ヤマト計画本部と通信をつなぎ、現状を報告するが、そこに気を病んだ相原が乱入してくる・・・。

コメント

 地球からはるか14万4光年彼方の、存在するかどうかも定かでない星を目指す旅。そこには、大きな不安がある。地球に残してきた家族は無事なのか、本当にイスカンダルは存在するのか。その不安に押しつぶされてしまう乗組員がいてもおかしくはない。
 19話は、そんな長期の航海にありがちな心理的な戦いを描いた回である。通信班長の相原が体調に変調を来たし、佐渡先生から「精神疲労」という診断を下される、というところから話は始まる。今でこそ、働く人の精神疾患については徐々に一般的になってきたが、1974年当時は、まだうつ病などという言葉はほとんど知られていなかったのではないだろうか。ノイローゼ、とか神経症といった言葉で言い表されていたように思うが、人として、故郷を遠くは慣れて不安な状況に置かれたときの心理状態というのは、時代を超えて共通のものではないかと思う。

 相原の診断名は、今なら「うつ病」ということになろう。眠れない、耳鳴りがひどい、しかし体にどこも悪いところはない、という。ふるさとの立体映像を見せるという治療法から推測すると、いわゆるホームシックを想定したものではないかと思われる。森雪が機械を操作してスタートする、雪の東北の風景は郷愁を誘うが、2199年の光景としてはあまりにも前近代的すぎて、今見るとギャグにさえ思えてしまう。精神疲労で笑いを失った相原にはなおさら逆効果で、彼はかえって症状を悪化させてしまったようである。

 そんな折り、なぜか7万光年も離れた場所で奇跡的に地球との通信がつながり、療養中の沖田がヤマトの現在地などを地球の国連宇宙局に報告。一同はガミラスの冥王星基地を壊滅させたことで遊星爆弾の攻撃が止み、あとは放射能除去装置を待つばかりだ、という地球の状況を聞いて安堵した。しかし、相原は「そんなのは嘘っぱちだ」と叫び、沖田から「なぜそうだと分かるのか」と釘を刺された。不安を克服し、明日を信じる、という心の戦いがある、と沖田は言う。そうした内面の戦いに切り込んだのが、この回のストーリーの斬新さではないだろうか。

 実は、地球との交信回復をいいことに、こっそり自宅の両親と通信していたのが相原の錯乱の原因だったのだが、その様子は真に迫るものがある。恐らく制作スタッフの中に、上京してきたものの都会の空気に馴染めず体調を崩したり、精神的に落ち込んだりする仲間がいた人がいたのではないだろうか。たとえ未来の話であろうと、描かれる人の内面は、意外に身近なところにいる人物の観察から得られた知見から創作されるものである。豊かなストーリー構成のためには、人間観察も必要であることを教えてくれる一話であろう。

 錯乱した相原はついに宇宙遊泳で地球へ戻ろうとするまでになるが、結果的にナゾの交信回復を助けていたガミラスのリレー衛星の発見につながり、ドメルの心理作戦は失敗に終わった。宇宙の狼の名をほしいままにしながら、意外にセコい、もとい、狡猾な作戦なのであった。


ピックアップ 「赤い地球」

 毎回のように、番組冒頭と最後にきまって映し出されるのが、赤黒い地表をさらけ出しす地球の姿である。特にラストでは、地球滅亡までの日数が表示され、否が応でも危機感が見る者に迫ってくる。
 ヤマト以前とヤマト以後で、アニメの世界は大きく変わった。ヤマトの成功によって、複雑なストーリーが展開される長編作品がアニメでも制作でき、またそれが受け入れられる視聴者層があるとわかったためだ。ヤマトは、その布石となる挑戦的な作品であった。そのため、長編SFの複雑なストーリー展開に視聴者が置いていかれないよう、毎回導入部では丁寧なあらすじ紹介が入れられている。中間地点バラン星については、回が10回を超えるので見飽きるまでになってしまうほどだが、こういう説明が入ることで、途中から見始めた視聴者でも容易にその世界に入ってくることができるようになっている。

 中間地点バラン星の一歩手前まで来た19話では、そんな赤い地球の状況が地球との交信によって明らかになり、話が進む中で薄れがちになる危機感を再認識させる展開となっている。その意味でも、このエピソードは非常に重要だと思う。
 交信では、
 ・冥王星基地を破壊したことで、遊星爆弾の攻撃がストップしたこと
 ・放射能汚染が深刻化し、ついに地下にまで汚染が進みつつあること
 が語られた。さらに、相原が個人的に行った通信では
 ・食糧事情の悪化が深刻で、毎日のように暴動が起こっている
 という状況も明らかにされた。
 このような事情を知った相原は、父の死も相まって錯乱状態に陥ったが、島も同様の不安を感じており、相原はある意味、乗組員全員の言葉にならない不安を代弁したものだといえる。と同時に、ここで改めてヤマトの使命について、観る者の心に刻み付ける意味があった。
 毎回、ラストで映し出される赤い地球。19話を見終わったあとでは、そこに帰りを待つ人々の苦渋の叫びを聞くことができるのではないか。


関連レビュー
「宇宙戦艦ヤマト2第19話 ヤマト、激突ワープ!」



ヤ、ヤマトだ!───── 彗星帝国偵察員


あらすじ

 バルゼー艦隊を追い、ようやく11番惑星に辿り着いたヤマト、戦死した仲間の墓参りをしたいという斎藤に古代は11番惑星の探査を命じる。すでに惑星には彗星帝国の前線基地が建設されていた。


空間騎兵隊員の墓標

Aパート:11番惑星到着、斎藤の上陸
Bパート:遊撃隊の襲撃、ヤマト土星へ

コメント

 バルゼー艦隊の速度は速いので、ヤマトでも追いつくのがやっとである。ようやく11番惑星に辿り着いたヤマトだが、敵艦隊はすでにはるか先行していた。時間的余裕が乏しい中、古代は斎藤の願いを聞き入れるが、船を止めたことで彼は長官に叱責される。
 少し意外だったのは斎藤が降り立った11番惑星で彗星帝国軍が戦死した空間騎兵隊員を埋葬していたこと。収容の事情から見てヤマト隊員が行ったとは考えにくく、また、隊長の斎藤も墓地の場所を知らなかったことから、これは彗星帝国によるものと考えるのが自然である。彗星帝国にも死者を悼む文化があるのか、異星人の戦士でも死者には敬意を表しているあたり、とかく凶悪な面ばかりが強調されがちな帝国軍の意外な側面が見えて興味深い。いずれにしろ、彼らは騎兵隊基地の地下に地下要塞を築いていた。埋葬の時間はあったはずである。11番惑星への基地建設はラーゼラーの宿願であった。ひょっとしたら騎兵隊員の埋葬は彼の指図だったかもしれない。ラーゼラーの声優は曽我部和恭(故人)、バンコランやジェミニのサガなど美青年役に定評のある声優で、ラーゼラーはヤマト2ではサーベラーやバルゼーの影に隠れ、余り活躍の機会はなかったが、彗星帝国の知性派としてもう少し活躍させたかった幕僚である。


ラーゼラー(左端)の声優は美青年役に定評のある故・曽我部和恭、左端からラーゼラー、バンコラン、サガ、平田一、ワッケイン、ヤマトの声優は豪華である。

 レビューしてみても、制作者の中でも総監督の西崎さんは見せ場、松本氏は神秘やロマンに傾倒する傾向があるが、実際にシナリオを書いていた脚本家の藤川氏などは話としての辻褄、ミリタリー・ストラテジーに傾倒する傾向があったようだ。ヤマト2前半のテレサの扱いは彼らの違いが出た部分である。テレサを情報提供者として危険視する考えは西崎、松本にはないものであるし、この回から明らかになる彗星帝国が決戦まで有力な武器を秘匿していたこと(新型駆逐艦、大戦艦の衝撃砲、メダルーザの火炎直撃砲)は、この帝国のストラテジーをまじめに考え、「第一撃」にこだわる藤川の戦略があってこそ初めて説明の付く話である。いずれにしろ、6話ではアッサリやっつけた大戦艦を含む艦隊にヤマトは苦戦し、波動砲を使ってようやく倒す始末である。そもそもこの武器もパート1では太陽系では使用禁止のはずであった。


禁忌の太陽系惑星への波動砲攻撃

 放映当時でもこれは反則と見えた11番惑星への波動砲使用で彗星帝国の基地は先史文明の遺跡や空間騎兵隊員の墓地もろとも粉砕されてしまい、実は共通点があったかもしれないガトランティスとの接点は永久に失われてしまった。爆発の規模から11番惑星も破壊されたように見えたが、これは破壊されずヤマトVでその姿を見ることができる。そしてヤマトは土星にワープし、彗星帝国の偵察艇を踏み潰して艦隊に合流する。
(レビュー:小林昭人)

評点
★★★★ 宇宙戦艦ヤマトの変化が垣間見える話。波動砲への自重はもはやない。

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