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 宇宙戦艦ヤマト(1974)各話レビュー →宇宙戦艦ヤマト2レビュー

 第5話「浮遊大陸脱出!!危機を呼ぶ波動砲!!」


あらすじ (人類滅亡まで、あと361日)

 火星で外装の損傷を修復したヤマトは、木星付近を航行していたが、波動エンジンの不調で木星の重力場に捉えられ、メタンの厚い層で覆われた木星の表面へと引き込まれていく。そこで、メタンの海に浮かぶ浮遊大陸を発見。着陸して波動エンジンの修理に取りかかった。冥王星の前線基地からこの様子を見ていたガミラスのシュルツ司令官は、浮遊大陸にある基地に、ヤマト偵察を命じる。これに対して古代進がコスモゼロで発進、敵偵察機と浮遊大陸上空で航空戦を繰り広げるのだった。
 偵察機が撃墜されると、ガミラス基地からのミサイル攻撃が始まる。修理を完了したヤマトはエンジンを始動、間一髪で離陸に成功した。ガミラス基地があることが明らかになった浮遊大陸を、古代は波動砲で攻撃することを提案。真田と島は反対するが、沖田は今のうちにテストを敢行しようと、古代に波動砲の発射を命じる。

コメント

 第4話のラストで着陸した火星には雪が降っていた。木星には、植物の茂った大陸がある。しかもメタンの層の中に浮いているのだ! ヤマトの世界の太陽系は、実にロマンティックな場所であるこの浮遊大陸は「宇宙船乗り」の間で語り継がれている伝説の大陸なのだという。こうした沖田の言葉からも、ヤマトが「戦争」ではなく「航海」を主軸とした物語であることが伺える。
 火星での修復作業を終えたヤマトは通常の航行に戻っていたが、波動エンジンの不調により、木星の重力場につかまって、ぐんぐんと木星表面に近づいていってしまう。この間に、舞台となる木星とはどんな星か、という説明がなされる。メタンと炭酸ガスに覆われており、太陽系で太陽に継ぐ巨大な天体であること、地球よりも大きな重力、12年周期で太陽の回りを回っていること、など。こうした説明が、2013年現在科学的に正確かどうかは別にして、科学知識の土台のもとに舞台設定がなされていることには、目を留めるべきであろう。  特に、浮遊大陸に植物が繁茂している風景は、今から見ると少々ファンタジックに過ぎるように思えるが、本格的な木星探査機による観測は放映前年の1973年に始まったばかりであり、製作時点ではほとんど未知の天体に近い状態であったことを忘れてはならない。1976年には、木星大気中に生物が存在する仮説が提示されており、生物が生息する可能性について科学者が検討していたことを考えれば、このように、植物に覆われた大陸の存在が、現実的に受け止められたとしても不思議ではない。

 この大陸に、波動エンジンの修理のために着陸したヤマト。しかしここには、ガミラスの基地がすでにあったのだ。ガミラスの偵察機と古代進のコスモゼロが繰り広げる空中戦は前半のハイライトだが、その場面は撃墜したガミラス機に向かって古代が敬礼する姿で締めくくられる。実はまだ、地球の側の人々はガミラス星人がどんな要望の、どれほどの知能、文化を持った人種なのかを知らないのだが、古代は一対一の戦いの中で、その知略と勇敢さとに、敬意を表するに値する何かを感じたのであろう。

 しかし一転、波動エンジンが復調し無事木星からの脱出が可能となると、ガミラス基地のある浮遊大陸を波動砲で撃ちましょう、という無慈悲な提案をする古代である。沖田も「いずれテストをしなければならない」という理由でこれを了承。ヤマト脅威のメカニズム第二弾、波動砲の発射はこのように、やや場当たり的ともとれるような流れで実施されることになる。
 波動砲は、波動エンジンのエネルギーをいわば逆噴射する形で発射するというものである。そのため、波動エンジンを停止しなければならないのはもちろん、発射後すみやかにエネルギー充填をするため、艦内の電力をすべてエンジン再始動にまわさなければならない。非常にリスクの高い武器である。それほどの規模、軍備はなさそうなガミラス基地を「試しに」攻撃する、というのは、木星の重力圏内という不安定になりがちな場所というリスクに勝る利点があると沖田は考えたのであろう。そして、文字通り、基地どころか浮遊大陸もろとも木っ端微塵にしてしまったのである。  

 「我々は、許されないことをしたのではないか? 我々は、ガミラスの基地だけを攻撃すれば良かったはずだ」。波動砲の恐るべき威力を目の当たりにして、真田がつぶやく。それは、その破壊力を目にした者すべてが実感したことだっただろう。沖田艦長は彼の言葉に「以後、使用には細心の注意が必要だ」と応じるのがやっとであった。
 ワープと同様に、すべてのクルーにとって未体験の武器であった波動砲。それはまさに、最終兵器と呼ぶにふさわしい威力を有していることがはっきりしたのだが、同時に、使い方によっては、貴重な異星の生態系や環境を徹底的に破壊しつくしてしまうものであることも明らかになった。沖田の胸には、波動砲の使用に対する強い抑制が刻みつけられたことだろう。なぜならその浮遊大陸には、人工的にもたらされたものではない、希少で貴重な木星の原生植物があったのだから。


ピックアップ 「最終兵器」

 第二次世界大戦末期、悲劇的な最期を遂げた戦艦大和。世界一の威容を誇っていたにもかかわらず、戦争は戦艦による砲撃戦から、航空機による爆撃へとそのスタイルを変えていた。大和建造の背景にあった、艦隊同士による決戦、という戦いは、時代遅れになっていた。
「それでも、大和に何か強力な“最終兵器”があれば、何かが変わったかもしれない」。そんな思いが形になった武器、と言えば、言い過ぎであろうか。発射とともに視界全体が閃光に包まれる、というその映像表現から、いやでも核兵器を思い浮かべてしまう。新生したヤマトは、核兵器を彷彿させる強力な武器を装備しているのだ。
 それは、ここまで見せつけられてきた、ガミラスの圧倒的な科学技術力を凌駕して、あるいはこの最終兵器があれば、あの圧倒的に強力な敵に勝利することも可能かもしれない、という希望を抱かせるものである。14万8千光年という、普通では到達不可能な距離を航行することを可能にした「ワープ航法」。さらに波動エンジンは「波動砲」によって「勝利」という別の希望をももたらしたのだ。

 しかし、その希望は真田の一言に萎縮する。「我々は、許されないことをしたのではないか?」。許されないこと…この言葉の影にもやはり、かつての戦争の記憶が垣間見える。戦争終結を早めるためとして原爆が投下され、一般市民が虐殺されたことを、否が応でも思い出さざるを得ない。あの閃光に、その悲惨な光景を思い出さないというのはウソだろう。そして、そのような記憶が濃厚に残っているからこそ、沖田は「以後、使用には細心の注意が必要だ」と言ったのだ。それは、原爆投下という悲劇の歴史を持つ者の、自負というべき感情かもしれない。
 ガミラスを圧倒できるかもしれない「最終兵器」を持ちながら、自らに足枷をつけるがごとく、自制心を働かせる。何をもってして、この科学力の「差」を埋めるのか?という問いにたいする答えは、すぐには見いだせそうにない。


関連レビュー
「宇宙戦艦ヤマト2第5話 主砲全開!目標ヤマト!」



私がどういう男かは分かっているだろう。───── 土方竜


あらすじ

 月の航空隊も合流し、一路太陽系脱出を目指すヤマト、が、防衛軍の追跡命令を受けた戦艦アンドロメダが飛来し、各々の艦で古代と土方が対決する。


ヤマト対アンドロメダ

Aパート:コスモタイガー隊合流、雪の密航
Bパート:アンドロメダの追撃、古代対土方

コメント

 ヤマトが爆破した戦闘衛星の閃光が地上から見え、復興の繁忙に隠された地球市民の不安が顕になる場面である。口では戦いは終わったとしつつも、1年前の大戦の記憶はやはり市民には深刻なものがあるという1カットである。このあたりの機微の描き方がこの作品は本当にうまい。
 ヤマト2の場合、元が映画で比較的短い話のため、時間的に余裕のあるTV版の場合は一つ一つの場面に余裕があり、描写が丁寧なことが特徴として挙げられる。レビューする側もこれは助かっているが、かと言って2199のような間延びがないことには脚本家の手練を感じさせる。新型コスモタイガーは「さらば」のために一から描き起こされたヤマトの新戦闘機で、以前のブラックタイガーに比べ格段に洗練されたフォルムの戦闘機である。なお、密航した雪が下着姿で古代に抱きつく場面は映画と同じだが、雪が古代一筋の少しうっとおしい女性になったのはたぶんこの回から。なお、この結婚生活が後に破綻するのは30年後の復活編でのことである。宇宙戦艦ヤマトの労務環境は特に女性に問題があり、この作品でも雪はヤマトのレーダー員に看護婦にヤマト農園の耕作、隊員服の洗濯と夜なべどころでない忙しさである。このあたり、いくら80年代の作品とはいえ、もう少しなんとかならなかったのだろうか。
 第1話から登場しているヤマト以上の戦艦アンドロメダ、5話ではその恐るべき能力の一端が示され、ヤマト以上の優速にレーダーを掻い潜って目視圏内まで近接する電子戦性能、さらに土方の指揮も加わって戦術でもヤマトを凌駕するという同艦の強大さが印象的である。ヤマトは島の操縦でアステロイドベルトに逃げ込み一旦は振り切るが、それも僅かの間であった。古代と土方の対決は古代らの決意を見て取った土方が譲るが、このあたりの機微は前回書いたことなので割愛する。
 土方との対決後、砲門を向けあって対峙するヤマトとアンドロメダ、直進するヤマトが前部砲塔6門であるのに対し、アンドロメダは全砲門の12門をヤマトに向けている。主砲自体の能力にも差があり、ここで撃ち合ったらヤマトは為す術もなく粉砕されたはずだが、この話の真骨頂はそんなことではない。「撃たない」ことにこだわった脚本に脱帽。
(レビュー:小林昭人)

評点
★★★  「我々の目的はメッセージの謎を解明することだ」、彼らの目的は反乱ではない。

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