スーパーカブ

考察(5) 作中のコーヒー

 この作品にはコーヒーを飲む場面が多くあるが、下記の多くは原作にもコミックにもなく、アニメ版だけの描写である。

1.コ−ヒーの種類



ハワイアン・コナ(ミディアムロースト)
 8話で椎の父が小熊に淹れたコーヒー、直訳は「ハワイの風(Kona)」、ハワイ産、ホワイトハウスの公式晩餐会のコーヒーとして知られている。

カロシトラジャ(イタリアンロースト)
 8話で椎が礼子に入れたコーヒー、スラウェシ(セレベス)島エンレカン県トラジャ(Toraja)高地産でいわゆるトラジャコーヒー、カロシの名は取引市場のあるカロシ(Kalosi)町に由来している。トアルコ(Toarco)は直営農園を持つキーコーヒーの登録商標。

マンデリン(ハイロースト)
 9話で椎の父が二人に淹れたコーヒー、スマトラ島北部産で栽培に従事するマンデリン(Mandheling)族に由来する商標名。ブルー・マウンテン以前は最高のコーヒーと称されていた。

グァテマラ(フレンチロースト)
10話で椎の父が淹れたコーヒー、中米グアテマラ高地産、アグア山麓の高地アンティグア(Antigua)の火山性土壌で酸味の強い味わい。

アメリカンコーヒー
 8話で椎の母が入れたコーヒー、おそらくヒルズかMJBのブレンド。中南米産のブラジル、コロンビア、モカを5:3:2でブレンドした浅煎り。輸出向けはインドネシア産を中心としたブレンドになり、味わいも異なっている。

エスプレッソ
 小説で頻出するコーヒーの淹れ方、極細挽きを高圧水蒸気で加圧するため抽出時間が短く(30秒)濃い味わいのコーヒーを作れる。大きさが普通のカップの半分のデミタスカップで供される。名前は「急行列車(Express)」という意味のイタリア語。

ティ・ア・ラテ(te al latte)
 直訳すると「ティーをミルクへ」、ミルク・イン・ファーストの淹れ方だが、要するにミルクティー、9話で椎が持参し、コン・グラッパ(ブランデー入り)で体を温めた。

コンビニコーヒー/ファミレスコーヒー
 小説では小熊が常飲している電動コーヒーメーカーのコーヒー。メカは悪くないものの、使っている豆がベトナム産等のリン酸塩3倍抽出の廉価品で体に悪い上に、リンの作用で苦味が強く香りもほとんどない。おそらく作者の味覚の基準。

2.抽出器具



紙ドリップ/電気式コーヒーメーカー
 紙フィルターで濾過するインスタントを除けば最も普及している方式。作中では登場しないが、簡便で最も優れた方法の一つ。使用後の紙フィルターがかさばるため、業務用ではあまり用いられない。作品には登場しない。

ネルドリップ/ハンドドリップ
 8話で椎の両親が用いたドリッパーにネル(フランネル)の布を用いて熱湯で抽出する方法。濾過した綿布に不純物が吸着してまろやかな味になる。一度に多数杯を淹れることもできることから、喫茶店など業務用として用いられる方法。

パーコレーター
 5話で礼子が用いたジャグ状の抽出器具。ボトル内で圧力を掛けた熱水を噴出させて抽出する方法。19世紀にカルノー機関の研究から生まれ、ボトルがシリンダ、コーヒーケースがピストンに相当する。アウトドアでは今でもニーズがある。煮沸を繰り返すことで濃いめのコーヒーを淹れることができる。

エスプレッソメーカー
 12話で椎が持参した抽出器、パーコレーターの改良型でコーヒー豆を蒸し焼きしてエスプレッソを淹れることができる。パーコレーターと違い抽出液を煮沸して循環させないため、味わいはより優れているとされる。

全自動コーヒーメーカー
 椎が愛用するコーヒー豆と水を入れるだけで豆の粉砕から抽出までを1台で行うことができる機械。加圧式のものはエスプレッソの抽出もできる。価格が高価で手入れが煩瑣のため業務用が主流である。

3.コメント

 どれを使うかはお好みでということになるが、19世紀に確立された良いコーヒーの条件は@液が澄んでいること、A香味を逃さず、B雑味と夾雑物を取り去ることなので、上記の中ではありきたりな紙ドリップ式がいちばん優れており、ネルドリップがそれに次ぐ。全自動式は抽出条件は理想的だがフィルターが金属なので夾雑物を完全に取り去ることはできず、飲み味は全二者に劣る。パーコレーターやエスプレッソメーカーはキャンプなど屋外向けか非常用で、コーヒーの味を云々する器具ではないように見える。
 アニメではカフェ・ブールが小熊らが訪れる度に違った銘柄(しかも高級な)のコーヒーを振る舞うので、お父さんはコーヒー通かと思わせるが、原作の方では「アメリカンコーヒー」一択で特にこだわっている描写はない。

 なお、ドイツの2014年のコーヒー販売の内訳は以下の通り。

Kaffeeabsatz 2014 in Deutschland

Produkt

Menge (in t)

日本名

Filterkaffee (gemahlen)

261.65

レギュラーコーヒー

Ganze Kaffeebohne

63.45

コーヒー豆(丸)

Kaffeepad

48.65

カートリッジ

Löslicher Kaffee

19.89

インスタント


 見ての通りレギュラーコーヒーが約7割と圧倒的で、日本では半分、イギリスでは90%を占めるインスタントはあまり飲まれていない。エスプレッソで用いるカートリッジもそこそこで、豆ごと購入する比率も高いので、紙フィルター/ハンドドリップ式の淹れ方を中心に、グラインダーや粉砕機を備えた機械が普及していることが分かる。

 こういうこだわりは登場人物の性格を読み解く鍵となるもので、例えばお母さんも使っている豆がヒルズのエクストラか、赤缶をわざわざ取り寄せて使っているか、あえてキーコーヒーにしているかでアメリカかぶれの病膏肓(こうもう)の程度が分かり、人柄に重層的なものが加わることになる。


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