スーパーカブ

第11話「遠い春」

あらすじ
 椎のSOSを受けた小熊はカブで現場に駆けつける。モールトンが全壊して消沈している彼女に、小熊はある提案を持ちかける。

Aパート:椎の救助、小熊のアパート
Bパート:北杜の冬、春を探して

コメント

 5話と並びネットで炎上した11話だが、これは小熊と椎の位置関係により評価が分かれる回である。「ねこみち」は日野春駅から釜無川に下るカーブの途中で、場所は小熊がいた駐輪場から500mの距離にある。乗り入れて20秒で到着したことから椎のいた場所は県道から100m、小熊の家から600mである。この距離なら救急車を待たずに救助に行く選択は正しいだろう。
 このあたりの地理はアニメも原作の小説も混乱しており、原作は日野春駅の前を通り七里岩ラインにつながる架空の道に向かうが、このあたりの地形は険峻で、作者の都合で簡単に地形変更できるほど生易しいものではない。遭難時の位置が描写の妥当性を判断する決定的なファクターだが、コミックは正解、アニメは方向オンチで小説は失格としか判断できない。
 深くもない水たまりで、骨折したわけでも足を取られたわけでもないのに、椎が小熊が救助に来るまで10分も水に浸かりっぱなしというのも変だが、小脇に抱えられないからと動けない椎を担ぎもせずに自力で崖を登らせ、カブの前カゴに押し込む小熊も相当である。結局、礼子は呼んだが、警察や救急車は最後まで呼ばれなかった。これらは人間の本能にも反しているし、常識にも反している。しかも全て作者の原作に書かれているのだからタチが悪い。
 しかし、もっと非常識なのは、7話から小熊らがあれほど寒い寒いと防寒装備を整えてきたのに、真冬でも女生徒をスカートで通学させる武川高校であろうか。
 寒冷地である甲信越の高校には、冬服は正規のスカートのほか、「女子スラックス」というモンペが準制服としてある。見てくれはカブのウィンドシールドのように田舎臭いが、真冬の防寒については数十年も前から考えられているのである。

ビミサン
 11話では小熊が自宅に来た椎と礼子にカレーうどんを振る舞っているが、これまで映された彼女の食生活はレトルトと冷凍食品が中心で、調理して計画的に消費している様子もなく、料理自体無関心な様子である。カレーうどんはレトルトカレーを湯で割っただけでは薄味で、だしつゆが必要になる。
 ビミサンは甲信地方ではデファクト・スタンダードの万能調味料で、製造はテンヨ武田。この種の地域限定の調味料にはヒガシマルの「うどんスープ」、名古屋の「この味」、ワダカンの「八方だし」などがあり、それぞれの地域で圧倒的な支持を誇る。
 テンヨ武田の製品はこの地方の硬水に適した処方になっており、仕送りで他地域に送ると水質が合わないので使い道に困るが、こと甲信地方では大手メーカーの製品よりも幅広く使え、価格も安いことから、小熊がカレーうどんの味付けに使ったのはビミサンと思われる。

「惚れた女を抱えて1キロ全力疾走」
 トネの原作にある、椎の救出時に小熊の脳裏に浮かんだ言葉。小熊はもちろん男性ではなく、あちら系の趣味も持たないが、友人が濡れネズミで凍え死にそうだというのに、浮かぶのがハードボイルド小説というのも悠長というか場違いである。が、この構図を実現するために作者が知恵を絞ったのがスーパーカブであり、非難轟々の前カゴ走りなのである。単に椎を載せて走るだけならリアボックスを取り外さなくても膝の上に載せて発進すればそれで良かった。
 さながら大藪春彦の小説のごとく、テンガロンハットに口にタバコを咥えたグラサンのハードボイルド男(カブ)が鍛えた腕(新聞カゴ)で金髪美女(椎ちゃん)をお姫様抱っこする図を作りたかったというのがたぶん作者の本性だが、こうなると作者にとって椎ちゃんとはどういう存在なのか気になる所である。
 なお、カブの中型新聞カゴの奥行きは215ミリ、底部は172ミリなので普通の女子高生はまず入らない。筆者も女子高生より背が低いカオルさんに同大のダンボールを作って実験してもらったが腰すら入らなかった。それにキャリアの耐荷重が5kgなので、載せた途端にこれは曲がるか折れ、バイクから転落することは間違いない。

評点
 相手が「ゆるキャン△」ならこれでコールド負け。



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