■第2話「礼子」
あらすじ
カブで通学を始めた小熊、初めてのオートバイに戸惑う彼女に、同級生の礼子が声を掛ける。
Aパート:家庭科授業、礼子との出会い
Bパート:礼子への不安、自転車置場での昼食
コメント
「まさか夜逃げの準備?」、家庭科の実習で大きめの巾着袋を作ろうとした小熊に同級生が悪意に満ちた言葉を浴びせる。「私、オートバイに乗ってきたの」、クラスの皆に原付を買ったことを話す小熊だが、「何だカブかよ」、「バイクじゃなくて原付じゃん」と誹謗されて話題にもされずにフェードアウトする。小熊の家庭の事情が知られていること、彼女が同級生から孤立している様子が伺える。そこに長身長髪の美少女、礼子が現れる。
ヘルメットホルダにヘルメットを掛けることが不安で巾着袋を作る、トラックに追い越されて進路を乱すなど、描写は初めてのバイクあるあるだが、もう一つの見所は孤立している小熊が人目を引く容姿で、クラスでも一目置かれているらしい礼子に声を掛けられたことで、翌日以降の対応にあれこれ悩むところである。が、礼子は彼女の逡巡に構うことなく、手を引いて小熊を自転車置場での昼食に誘う。
型式名や用語など、オートバイの世界は一般には馴染みのない言葉が多く、礼子が早口でまくし立てる術語もバイク初心者の小熊にはわけの分からないものである。それによると礼子のバイクは旧郵政省時代のMD(メールデリバリー)90、1999年の排ガス規制前の製造で、武川製のダンパーとワンオフのチタンマフラーを組み付けた改造車であることが分かる。ボアアップキットも組み込まれ、改造車としてはかなり贅沢な仕様である。MDは一定の走行距離を超過するか償却期間7年を過ぎた払い下げでしか入手できないため、実走行距離は8万キロ以上である。
小熊が礼子の呪文を理解するのはまもなくのことだが、この話の彼女はバイクより、礼子との友情が続けられるかどうかの方が気がかりな様子である。
山梨県高校のオートバイ格差
起伏の多い地域にある山梨県の一部高校ではバイク通学が許可されているが、許可されているのはオートバイではなく、あくまでも「原動機付自転車」である。自動二輪は保有も免許取得も許さないことが教育委員会の方針であり、違反した生徒は校則で処分される。
従って、小熊を揶揄した男子生徒の言葉は山梨県特有の原付と自動二輪の間にある格差を意味するものである。同県特有の事情として自動車教習所のカリキュラムに小型二輪がなく、カテゴリー上は原付である原付二種(125cc以下)も、運転は自動二輪免許を取得するしか方法のないものになっている。
アニメでは礼子がすでに原付二種のMD90で通学しているが、免許を他県で取得すれば校則についてはグレーゾーンといえ、所有し通学していることの一事をもっては処罰できないことになる。アニメにおいては自動二輪免許の取得も近隣の教習所で問題なくできるようであり、教育委員会の方針が事実上骨抜きにされていることから、原付どころか自動二輪による通学もできそうに見える。
あご紐の締め方
ヘルメットのあご紐の締め方は2つのリングに紐を通して滑り止めするDリング式のほか、ワンタッチ式、ラチェット式があるが、アライクラッシックなど本格的なヘルメットはほとんどがDリングを採用している。もやい結びの一種であるDリング式が後二者に対し引張り強度に優れるという根拠は特にないが、過去の製品ではソケットが外れるなどトラブルが多かったため、信頼性に優れるDリングがライダーの支持を得たことがあり、ヘルメットホルダーもこのリングに掛けることを前提に装備され、他の方式でもDリング類似の金具がある例が多い。
ヘルメットの認証規格には販売に必要な自主届出制のPSC規格のほか、検査機関の認証が必要なJIS、スネル規格があり、認証済みの製品は帽体に認証シールが貼られている。小熊のアライクラシックはPSC、JIS規格品であるがスネル認証は取得しておらず、また会社の方針でJIS認証機関の名も明示されていない。アライ社の説明ではスネル同等の試験をクリアしているとされる。
オートバイの用品は性能が向上するほど信頼性が要求されるため、工業生産の標準化を審査するJISは安全性の検討では対象にならない。筆者の場合は時速100キロ以上で走行するオートバイの装備品はヘルメット以外はTUF規格品に限ることとしている。
原付オートバイの場合は実用速度が低い上、扱いやすく廉価なことから、コメリで買える風防付きのワンタッチ式PSC製品で十分である。
富田林の社屋
礼子がSP武川製のパーツを多数用いていることから、「社屋を建て替えられるくらい」金を使ったという比喩表現。富田林とは大阪府富田林市にある武川の本社を指す。見たところボアアップキットを初めとしてミラーや液晶メーターなど外装パーツ、キャブレーターにオイルクーラーやクラッチなど一通りであり、この様子ではフロントフォークやミッションも手が入っているが、なぜかカブの弱点であるフレームには手を付けず、ブレーキは前後輪ともドラムブレーキである。
評点
★★★ 礼子の登場で作品が華やかに。
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