スーパーカブ

第3話「もらったもの」

あらすじ
 またも礼子に昼食に誘われる小熊、夏休みの計画を話す礼子に小熊は彼女のカブにある大きな箱に目を留める。小熊が「カブの箱」に興味を示したことを見た礼子は、叔父のJA武川支店に彼女を連れて行く。箱と前カゴを入手した小熊は学校で工事中の作業員が身につけていたある物に興味を持つ。

Aパート:礼子との会食、箱・カゴの入手
Bパート:風対策、同じカブ乗り

コメント

 カブで通学を始めて数日、巾着袋や時速20キロでの走行に不満を覚えた小熊は礼子のアドバイスでビジネスボックスやカゴ、防風用のゴーグルなど必要な装備を揃え始める。ボックスを礼子の叔父のJAから、カゴを教務主任から入手した彼女は防風用のシールドを作業用ゴーグルで代用することを思いつき、初めて時速30キロ以上で走る。
 風対策は、コンタクトや裸眼では原付でも必須の対策で、筆者は眼鏡を掛けているが、原付から自動二輪に乗り換えた時には、納車されたその日にシールドを購入している。小熊のカブくらいの速度なら眼鏡でも十分な防塵効果があるが、それ以上になると虫や雨滴が皮膚に突き刺さり、どうしても防具が必要になる。現在はポリカーボネート製で透明度、強度ともに十分な製品がある。
 カブを含むビジネスバイク特有の装備、ビジネスボックスについては容量は大きくはないがスクエアな収納はヘルメット1個なら余裕で収めることができ、かつ、若干の荷物を積むこともできる。教務主任が渡した前カゴは中型の新聞カゴで、実のところあまり役に立つ代物ではないが、転倒した時のバンパー代わりには役に立つ。礼子の言うように、こういう装備を付けていても目立たない所がカブ型バイクの良い所である。
 礼子が小熊に掛けている言葉、「同じカブ乗り」は強調しすぎるとイヤミな所がある。カブは特別な乗り物ではなく、誰もが当たり前のように使え、カフェレーサーやハーレーのような排他性を感じさせないオートバイであり続けることが、この車を作った本田宗一郎の願いだったのだから。
 この話はアニメの企画が制作段階では最終回まで続けられるか分からなかったことがあり、ラストはまるで最終回のようなモノローグになっている。テーマに微妙な部分があり、制作者は打ち切りも考慮して慎重にスケジューリングしたことが伺える。同様の話に6話と12話があり、1〜3話と4〜6話、7話〜12話は作風が各々異なっている。

原動機付自転車
 排気量や形は小さいものの、構造は自転車とは別物で力学的性質も全く異なる二輪車を「自転車」と呼ぶことにはスクーターもある現在では大きな違和感があるが、スーパーカブが開発された1958年においては、自転車とオートバイの間に構造上の大きな違いはなかった。
 ホンダ社躍進の原動力になった「カブ」は既存の自転車に小型エンジンを組み付けたキット製品でオートバイでさえなく、その後継として開発された初代「スーパーカブ(C型カブ・C100型)」は、実用自転車にエンジンを取り付けたような外観の華奢なオートバイだった。当時はカブ以外にも様々な乗り物が考案され、実用に供されたことから、戦後のある時期まで自動車とオートバイ、自転車の間に明確な境界線がなかったことがある。7話で登場するリヤカーはそういった時代の産物の一つである。これはサイドカーの設計を転用して作られた。
 「〜自転車」という呼称はその名残で、水産庁の技官が目慣れぬ魚に分類上「〇〇ダイ(鯛)」と命名するような便宜上のものである。当時のエンジン付きの乗り物は排気量やエンジンの形式もさることながら、6輪から4輪、2輪や3輪、時に1輪と多様で、とても一つの言葉で言い表せるようなものではなかった。
 スーパーカブが優れていた点は排気量50ccの原動機付自転車にして、現代のオートバイの基本構造を全て備えていたことである。その後の日本オートバイ産業の躍進により、前後異型タイヤ、スイングアーム、一体式ミッションとチェーンドライブなどカブで確立された仕様は世界標準になり、1,000cc以上の大排気量車も操縦性の基本はカブのそれに拠っている。現存する全てのオートバイの始祖として、スーパーカブは二輪史に燦然とその名を輝かせる偉大なオートバイである。

むかわの湯
 小熊と礼子がビジネスボックスを求めて訪ねたのは梨北農業協同組合の武川支店(原作は信用金庫)だが、支店のある小路を西に500m歩くとある温泉。温泉と冷鉱泉の2つの源泉があり、チープな見た目に反してかけ流し(保健所の指導により塩素殺菌)の浴槽があり、飲泉もできる本格的な療養泉である。川の近くにあるこの種の温泉は地下1キロの川の水で成分の少ない(1g/リットル以下)単純泉であることが多いが、この温泉は1.6g/リットルで塩化物・炭酸水素温泉に分類されている。地質や源泉の由来が気になるところだが、汲み上げ式の温泉で、提示された分析書も平成14年と古いため、現在も泉質や湧出量を維持しているかどうかは定かではない。温泉マニアには気になる内容もあるが、もちろん原作、アニメもこの施設には触れてもいないし、筆者も行ったことがない。

評点
★★★ ご都合主義だがほのぼのとしたエピソード。



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