■機動戦士ZガンダムDefine 第10話
ストーリー
ボスニアのモビルスーツ隊とエウーゴとの戦いの最中、何かを感じたカミーユはアーガマから離れライラのガリバルディと対面。ライラがティターンズに不信感を抱いていることを察知して彼女をエウーゴに寝返らせようと説得する。しかし彼女が理解を示さなかったのでカミーユはライラを撃墜。その際アーガマ周辺の護衛が手薄になったため、アーガマも被弾する。帰還後、クワトロからアーガマを離れたことを責められるカミーユだが、クワトロはレコアを使ってカミーユを慰めるよう命じるのだった。
レビュー
ニュータイプとは何ぞや。ガンダムのシリーズを通して描かれることになったこの変種(?)の人間ですが、いったい何がどう新型なのか、さっぱり分からないのが難点です。ここまで見る限り、ニュータイプは
(1)訓練しなくてもモビルスーツが操縦できる
(2)敵の気配を察知できる
(3)人の考えていることを読んで、宇宙空間でも通信機器を使わずに会話ができる
という、話を作る人にとってまことに都合の良い人間であるようすが伺えます。
さて、今回の話は、ニュータイプとクワトロから目をかけられ利用されているカミーユが、そんなニュータイプ能力をフルに発揮するというお話しです。どうやら彼は、ライラの気配を察知し、駆け出しの新米であるにも関わらず彼女を撃墜できると判断したようです。そして彼女に近づき声をかけます。先に、戦艦モンブラン内で遭遇したとき自分を助けてくれたのは、本当に悪いのはエウーゴじゃなくてティターンズだと分かっているんだろう、それなら連邦軍を捨てて味方になれ、というのです。
さらに、分かり合えないなら貴方を撃たなきゃならない、と言うカミーユ。一般人に分かるように翻訳すると、「おまえが〜と考えていることが、オレには分かっている」「言う通りにしないとおまえを殺す」、どう考えてもこれはモラハラ人間の脅し文句にしか聞こえません。彼は「貴方のことは分かっている」と勝手に決めつけ、ライラの人格をまったく無視して事を進めているんですよね。これが、どうやら北爪さんの考える、「ニュータイプ」であり「分かり合える」ということらしいです。もしこれで「分かった」とライラがカミーユに同調したとしたら、分かり合ったのではなく脅しに屈した、としか思えないでしょう。
ライラは、脅しに屈するような女性ではありませんでした。彼女が「仲間を裏切ることは出来ない」と思うのは至って当然の反応です。それに、カミーユは「さあ、ボクたち分かり合おう」と言いながら、ライラのことをちっとも分かろうとしていません。カミーユにとって、分かり合うとは自分の言い分を相手が受け入れることであって、相手の気持ちを受容することではないのです。本当に分かり合っているならば、実はこういうやり取りは必要なく、ただ黙々と、相手を敵側のパイロットとして尊重しつつ戦闘する、ということになるのではないでしょうか。
帰還したカミーユにクワトロは平手打ちを食らわせて説教を垂れますが、内心はカミーユのニュータイプ能力を非常に高く評価して、その思いをレコアに打ち明けています。カミーユに
欠けているのは冷徹さ、だから自分は鞭になり、レコアには飴になれ、というのです。こわい人ですねー。自分の本心はカミーユに明かさず、そうやって表向きの言葉や態度で人をコントロールしようというのですから。こういうのを「操作的支配」っていうんですよ、操作的支配を受け入れない人は「空気が読めない」と評され、忌み嫌われます。このような不健全な人間関係のあり方は、日本社会の中では家族、職場や学校など至るところに見られ、いじめやうつといった問題を引き起こしています。Zガンダムの場合は…、そうそう、テレビ版ではカミーユは最終回で精神異常を来すんでしたね。まあ、こんな感じですから、はっきりいって何の不思議もありません。それにしても、こういう人間関係を描くことで本当に自分たちは何を伝えようとしているのか、北爪さんやガンダムエースの編集部の方々は、分かっているんでしょうか?
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