蒼き流星SPTレイズナー SPT LAYZNER

レイズナー 1985年10月3日〜1986年6月26日
TV放映 全38話
OVA:ACT-I エイジ1996
ACTーII ル・カイン1999
ACTーIII刻印2000
原案伊東恒久/高橋良輔
監督高橋良輔
キャラクターデザイン谷口守泰
メカニカルデザイン大河原邦男
脚本星山博之/五武冬史/平野靖士
伊東恒久/遠藤明吾
音楽乾裕樹

スト−リ−

 1996年、米ソ冷戦のつづく未来のある日。国連の火星観測基地に、宇宙体験教室「コズミックカルチャークラブ」に参加した10代の若者たち20数名が到着した。これから半年間、宇宙での生活を体験するはずだったが、到着後のオリエンテーションの最中、突然謎の勢力の攻撃を受け、「コズミックカルチャークラブ」を引率する国連スタッフのエリザベス・グレブリーと参加した若者たち5名は生き残った基地のスタッフ数名とともに火星に取り残されてしまう。そんな彼らの元に、謎の兵器に乗って戦っていた戦士がやって来くる。彼はグラドスから来たエイジと名乗り、「地球は狙われている!」と警告する。

物語の背景

 1979年に放映され、一旦打ち切りになった後一大ブームを巻き起こした「機動戦士ガンダム」を制作した日本サンライズ(現サンライズ)によるロボットアニメで、ガンダムによって切り開かれた、いわゆるリアルロボット路線の作品群(「太陽の牙ダグラム」「装甲騎兵ボトムズ」「機甲界ガリアン」)の原作・監督を手がけた高橋良輔が監督を務めた。
 一方、ガンダムでカリスマ的人気を集めることになった富野喜幸監督は、その後「伝説巨神イデオン」「戦闘メカザブングル」「聖戦士ダンバイン」「重戦機エルガイム」など主にファンタジー路線のロボットアニメを制作し、その人気を不動のものとしていたが、ガンダム以上の商業的成功に至らなかったため、当初「続編はあり得ない」といわれていた「機動戦士ガンダム」の続編として「機動戦士Zガンダム」が制作されることになる。本作はそのZガンダムより約半年遅れて放映が始まったが、それがすべての不運の始まりであった。スポンサーの一つに三洋電機(現パナソニック)がついていたが、石油ファンヒーターの一酸化炭素中毒事故によりスポンサーを降板。プラモデルの販売が伸び悩んでいたバンダイもこれにかこつけてスポンサーを降り、番組は全52話の予定が急遽38話で打ち切りとなったのだ。

 しかし、当時を知る小林昭人さん(当サイトの「Zガンダム」「ダイラガー」レビュアー)をはじめ、ネットに上げられた声によれば、同時期に放映していた「機動戦士Zガンダム」よりもずっと面白く人気もあり、視聴率も悪くなかったという。そのため、カリスマ的人気の富野喜幸監督を擁した人気タイトルの続編に傷をつけるわけにはいかない、という一種の「大人の事情」も打ち切りの裏側にあったとも考えられる。現に本作の原作者の一人伊東恒久と脚本家の五武冬史は「戦闘メカサブングル」で、また星山博之は「機動戦士ガンダム」で脚本を手がけているほか、メカニックデザインは「ガンダム」の大河原邦男と、富野人気を「作り支えた」重要なスタッフであったことは間違いない。逆に言えば、ガンダムの続編を作るにあたって、富野監督がかつての盟友ともいうべき人材をことごとく切り捨てた結果、本作に手練れの重鎮が揃い、富野監督以外はほぼ若手スタッフという体制の「Zガンダム」には脅威の存在となっていたかもしれない。そうしたことから「大人の事情」が発動されて、諸処の状況にかこつけて打ち切りに追い込んだ、という見方も可能である。

 制作当時の1985年は米ソ冷戦体制のまっただ中にあり、本作が描く「未来」(今ではすでに20年前になるが)の1996年も、その体制が維持し軍拡競争が火星にまで広がっている、という想定のもとにストーリーが展開されている。よもや、それから4年後にソビエト連邦が崩壊し、冷戦に終止符が打たれるとは誰も想像だにしなかったのであろう。しかし皮肉にも本作は、グラドス侵攻によって冷戦体制は崩壊し、図らずも冷戦「後」の世界を描くこととなった。

 主題歌「メロスのように」はガンダムZZと同じく、当時めきめきと力をつけていた秋元康氏が作詞を担当しており、日本サンライズの力の入れようが感じられる。しかし秋元康氏は裏番組の「夕やけニャンニャン」を手がけ、こちらの方で時代の寵児となっていったのは皮肉なことである。

レビュー

 私は2000年になってはじめて「Zガンダム」を観たのだが、ファーストガンダムのファンであってもさっぱり面白さが理解できない、続編として全く魅力のない作品であると感じたのが正直なところである。それは放映時のある種の熱狂が冷めた状態で観たこともあるだろうが、それで「つまらない」と感じるということは、すなわち時間の壁を越えられない凡作ということだろうと結論づけた。のちに小林昭人さんとともに全話レビューをまとめる中で、凡作どころか当時人気の絶頂にあった富野監督の暴走の末に生まれた凶作であると考えるに至った。
 その「Zガンダム」と同時期に放映されたのが「蒼き流星SPTレイズナー」である。実は「Zガンダム」は放映当時から不人気で、一部では酷評されていたという。「こっちの方がずっと面白かった」という声は本当か、それなのになぜ打ち切られてしまったのか。そんなことを探るためにようやく視聴へとこぎつけた。

 全38話+3話のOVA作品(うち2話は総集編)からなる本作は、グラドス軍の襲撃を受けて火星を脱出する「火星編」で1クール(1〜13話)、月を経由して地球へ帰還後、地球侵攻を始めたグラドス軍に立ち向かう「地球編」で1クール(14〜24話)を使い、総集編(25話)をはさんで、3年後のグラドス支配下での抵抗運動を描く「レジスタンス編」が1クール(26話〜38話)の計3クールで構成されている。

1クール(1〜13話) 
遭難+異星人との遭遇、絶望の中で見いだす希望と孤高の主人公エイジ


 物語の舞台は1996年(放映当時から11年後の未来)。米ソの冷戦がそのまま継続している、という想定となっている。相互に核弾頭を相手に向けながら一発触発の状況に、異星からの侵略者グラドスが火をつけることで地球を滅ぼすというプロットにその当時の世界情勢が組み込まれており、今となっては「過去の歴史」というより他にないが、冷戦時代を生きてきた者の一人としては、歴史を俯瞰する面白さがある。
 米ソ両国の軍拡競争は火星にまで及んでおり、それぞれが火星基地を有しているが、主な舞台は国連の火星観測基地である。ここに、世界から選ばれたコズミック・カルチャー・クラブ(国連主催の少年少女向け宇宙体験教室)の参加者たちが、指導者のドクター・エリザベス(戸田恵子)とともに降り立つところから物語は始まる。しかし到着間もないオリエンテーション中、何者かの攻撃を受けて基地は大破。20数名いた参加者はデビッド・ラザフォード(梅津秀行)、アンナ・ステファニー(江森浩子)、シモーヌ・ルフラン(平野文)、ロアン・デミトリッヒ(鳥海勝美)、アーサー・カミングスJr.(鹿股裕司)の5人を除いて死亡。特にデビッドは親友のジュノを失ったことから、その怒りと憎しみを主人公エイジに向けていくことになる。

 ロボットアニメの第一話は「主人公を、どのようにして主役ロボットに乗せるか」が肝と言われる。しかし本作では、登場するロボットは敵の異星人グラドスのものである。火星に来てグラドスの襲撃を受け、遭難してしまった主役6人(生徒5人と先生1人)は、ただひたすら逃げ回るしかない被害者である。突然火星基地を襲撃してきた異星人の機動兵器だが、1対3で戦っている様子を見て「最新兵器だ、アメリカの?ソ連の?」と興奮しているところが面白い。この、敵なのに基地を守って戦っている1機が主人公アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ(井上和彦)の乗る主役機レイズナーである。「地球は狙われている!」というインパクト大なセリフとともに登場する彼は、アポロ計画以前の秘密計画で行方不明になった日本人宇宙飛行士ケン・アスカとグラドス人女性との間に生まれた混血児で、グラドスの地球襲撃を知って、その危機を伝えにきたのだ。この主人公の特異な立場と、それゆえに醸し出されるある種の崇高さが、1クール目に独特の緊迫感と絶望感を生み出している。

 エイジは地球の危機を伝えに来たのだが、誰もそれを信じない。しかし彼はそれでも信念を曲げることなく、憎まれても、恨まれてもただひたすらに火星に取り残された6人を守り、自らの使命を全うしようとする。このキャラクターはどこから生み出されたものなのだろうか。私はジェームズ・キャメロン監督のSFアクション「ターミネーター(1984)」の影響を指摘したい。ヒロイン、サラ・コナーの命を守るために、たった一人で未来からタイムスリップしてきた戦士カイル・リースにインスパイアされたと思われる。その種明かしは3クール目に見ることになる。

 主役機のレイズナーをはじめとする機動兵器SPTは、人間と音声による対話によってコントロールできるという設定で、地球人の少年デビッドとロアンが操縦できるようになる、という流れをリアルに描くことに成功している(この際、そもそも言語が違うのでは?ということについては突っ込まないでおこう)。(2016.10.04)

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評点 ★★★★★


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