■蒼き流星SPTレイズナー SPT LAYZNER
1985年10月3日〜1986年6月26日 TV放映 全38話 OVA:ACT-I エイジ1996 ACTーII ル・カイン1999 ACTーIII刻印2000 原案■伊東恒久/高橋良輔 監督■高橋良輔 キャラクターデザイン■谷口守泰 メカニカルデザイン■大河原邦男 脚本■星山博之/五武冬史/平野靖士 伊東恒久/遠藤明吾 音楽■乾裕樹 |
レビュー 2
2クール(13〜24話)
地球への帰還で引き裂かれる仲間たち、謎が明かされるも展開は早足に
火星に取り残された少年少女はグラドスから来た戦士エイジに守られて、何とか火星から飛び立って月へと向かう。異星人の敵グラドスだけでなく、異星人の襲撃が信じられない米ソの軍人たちとの軋轢が、彼らを取り巻く絶望感をもり立てる展開は、15話のエイジとその先輩で姉の恋人であるゲイルとの一騎打ちで頂点に達する。米ソ冷戦という国際情勢を折り込みながら、宇宙での遭難、異星人との遭遇と戦いという状況をリアルに描き出し、ここまではリアルロボットアニメの究極の形を作り出したと行ってもよい仕上がりとなっている。確かにこれでは「Zガンダム」は太刀打ちできなかっただろう。明らかにこちらの方が、面白いと思えるからだ。15話のゲイルとの一騎打ちでレイズナーが無敵化する「VーMAX」が発動し、エイジ本人の意に反してコンピュータが自己防衛のためにゲイルを殺してしまう、という場面は中でも屈指の出来で、井上和彦演じるエイジの慟哭は心に残る名演技といえよう。
その後、廃墟と化した月基地での戦いは無人機スカルガンナーが相手となる。ここまで見て気付くのは、グラドス軍の火星基地襲撃で多数の死傷者を出したものの、その後の戦闘シーンで主人公のエイジは相手パイロットを殺そうとはせず、敵兵も攻撃を受けるとコンピュータの指示でコクピットから脱出する描写がされていることだ。つまり、毎回戦っているが、死ぬキャラクターはほとんどいない、ということになる。その中で描かれるゲイル先輩の死は、それだけに重くのしかかり、また味方パイロットを殺害してまでエイジ追撃に執念を燃やすゴステロというキャラクターが印象づけられることとなった。
しかし、恐らくこの辺りで「打ち切り」の話が出てきたのか、地球に帰還してからの展開が早足になる。レイズナーの奥に潜むもうひとつのコンピュータ「フォロン」、彼が明かすグラドス創世の秘密、そして姉ジュリアとの対決など面白いネタが満載であり、さらにエイジとアンナ、シモーヌ、デビッドらの恋愛模様もこれから盛り上がってきそうであった。しかし、地球への帰還からグラドス軍の侵攻までの流れは、これらの伏線を大急ぎで回収しながらなんとか24話で区切りをつけました、という内容になってしまっており、残念の一言に尽きる。
ただし、この急展開の理由は「打ち切り」というよりも、路線変更を強いられた結果と思われてならない。同時期に放映していたZガンダムは1986年2月22日に最終回を迎え、3月からはシリーズ続編のZZがスタートすることになっていた。リアルロボットの雄であったガンダムがちびっ子向けギャグ路線へ転向するにあたって、リアル志向のファンからの批判をかわすために、いわば究極のリアルロボットアニメであったレイズナーを「道連れ」にした、というのが本当のところではないか。
3クール(26話〜38話)+OVA
3年後、グラドス支配下の地球。どうしてこうなった?!と驚きの連続
25話の総集編を経て、26話「時は流れた!」から話は3年後へ飛ぶ。地球はグラドスに侵略され、舞台となるニューヨークでは、地球文化を滅ぼして地球人の「グラドス化」を図ろうと、焚書が行なわれていた。17歳になったアンナはレジスタンスに身を投じ、仲間たちとともに書物を守る活動に取り組んでいる。一方デビッドはレジスタンスでも武器を取って戦う方に回っている。しかも、ロボットアニメなのに主役機のレイズナーは、主人公のエイジとともに光になったままなのだ。さらに、地下拠点が検挙されて捕縛されたアンナとデビッドの前に現れたロアンは、なんとグラドス側に寝返って彼らを詰問する、という展開。時間以外にもいろいろ流れ過ぎで、頭がパニックに陥ってしまう。そんな中、現れたエイジの姿を見て、その混乱度は頂点に達する。無残にも宣告された路線変更によって、エイジは「北斗の拳」化してしまったのだ。生きていたのか!という驚きと、トンファーを振り回しながら肉弾戦を繰り広げるという戦闘シーンの違和感(ロボット物だよね?! これだったら、ロボットいらないじゃん!!)に包み込まれるという希有な体験は何ものにも変え難く、ある意味この「一粒で二度おいしい」感が、今に至るまで語り継がれてきた要因の一つであることは間違いない。
北斗の拳化現象はエイジだけでなく、姉のジュリア(ユリアだよね・・・)、宿敵ル・カイン(南斗聖拳のレイだよね・・・)にも及んでおり、3クールになって登場する死鬼隊というグラドス軍戦士たちも、北斗の拳のヤラレキャラそっくりである。しかし、1クール目のレビューで言及したように、ここには映画「ターミネーター」へのオマージュもまた盛り込まれている。デビッドのクルーカットとグレーのロングコート(カイル・リースだよね・・・)、サイボーグ化したゴステロの赤い目、機械化した腕の配線を修理する場面など(シュワちゃんの、あのターミネーターだよね・・・)などなど。そのように、当時一世を風靡した作品をネタ化しながらも、本作はまぎれもなく別の作品、「レイズナー」そのものになっている。「北斗の拳」みたいになっている、と散々書かれながらも、決してパクリと言われないのはそのためであろう。
舞台はグラドス占領下の地球となり、市街地で繰り広げられるグラドス軍対レジスタンスの戦い、という地味な展開である。戦闘シーンでも極力パイロットを殺さない主義の心優しい制作陣は、この状況でビームを乱射したりミサイル攻撃をすれば、多数の市民が巻き添えになるのは必至と考えたのであろう。射撃を捨てた格闘戦の決闘方式、という戦闘場面を考え出し、随所でストーリーに織り込んでいる。VーMAX特有の青いオーラのような光を放つナックルショットが炸裂する、拳と拳を合わせての戦い。エイジら主役陣のみならず、ロボットによる戦闘シーンも「北斗の拳」化しているのである。
毎回、エイジの腕時計状の装置によって呼び出され、どこからともなくやってくる主役機レイズナー。3クール目後半では、SPTの技術を学んで地球でもレジスタンスによる量産化が進んでいる様子が描かれ、地球の反攻作戦、最終決戦も近いのかと思わせていた。しかし、35話「グラドスの刻印」で不可解な飛躍を見せたあと、37話でル・カインにエイジが大敗、レイズナーが大破という展開から38話で突如、ストーリーは終幕を迎える。突然の打ち切りで、用意されていたであろうプロットは幻となってしまったのである。
37話から38話の間の空白部分は、のちにOVA「ACTーIII刻印2000」で補完され、一応の完結を見た。しかし、それでも描かれなかった部分が多く、これがもし全52話で展開されていたなら、どんなストーリーになっていただろうと惜しむ声が今も聞かれる。
2クールまでが究極のリアルロボットであるのとは対照的に、3クールでは格闘戦というロボットアニメの原点に戻ったかのような作風が見られる。しかし前述したように、それは、基本的に人の住まない宇宙での戦いではビーム弾をいくら撃とうが流れ弾で被害を受けるということはないが、地上における戦闘ではそうはいかない、ということを考慮した心優しい製作陣が考え出した戦いである。いわば、リアルを突き抜けた、その先にある形なのだ。
惜しむらくは、高橋良輔監督が、本作がオマージュした「ターミネーター」の監督ジェームズ・キャメロンほどにロマンティックなラブロマンス要素を求めない監督だったことだ。本作にも恋愛要素はあるにはあるが、展開が唐突で、ラブストーリーを織り込むのはあまり得意ではないんだろうなと感じた。それでも、OVAのラストは美しいハピーエンドで締めくくられ、荒削りながらも長く心に残る一作となった。
(2016.10.16)
評点 ★★★★