MUDDY WALKERS 

LIMIT OF LOVE 海猿 

海猿2 2006年 日本 117分

監督羽住英一郎
脚本福田靖

出演伊藤英明/加藤あい/佐藤隆太
大塚寧々/吹越満/時任三郎
美木良介/石黒賢

スト−リ−

 恋人、環菜(加藤あい)との結婚話が進んでいる仙崎大輔(伊藤英明)。東京から自動車を運転してはるばる鹿児島までやってきた環菜は手作りのウエディングドレスを大輔に見せるが、なぜか大輔は浮かない表情で、「本当に結婚するの?」という環菜の問いに、はっきり返事をすることができずにいた。
 そんな中、鹿児島沖で乗客と自動車を満載した大型フェリーに砂利運搬船が衝突し、座礁するという海難事故が発生。大輔はバディの吉岡(佐藤隆太)とともに現場に急行し、乗客を避難させることに。そこでフェリーに乗っていた環菜と思わぬ再会を果たすが、大輔は「早く船を下りるんだ」というしか他になかった。ケガをした妊娠5か月の女性(大塚寧々)、船内でフェラーリのエンジンをふかしていたチンピラ(吹越満)を連れて船内から脱出しようとするが、船は下部から浸水しはじめるとともに上部では火災が発生。大輔と吉岡、妊婦とチンピラの4人は船内中央に閉じこめられてしまう…。
 タイトルの「海猿」は、海上保安庁で海難救助にあたる潜水士が、海の中で猿のように機敏に動き回る様子をたとえた言葉。

レビュー

 映画館は、邦画にもかかわらず若いカップルや女の子同士の観客が多かった。一番気軽に映画を見に行く層にターゲットをあわせた、ホラーではない娯楽アクションで、きっちり狙った層を集められる映画を作れるようになったのは素晴らしいことだ。映画が終わってトイレに行ったら、順番待ちの女の子が「あのプロポーズ、むっちゃ良かった」とか「私もキスされたいわ〜(もちろん、伊藤英明にってことですね)」と話しているのが聞こえた。こういう素直な反応は、意外に大事だと思う。なぜなら主役の伊藤英明は、もともと客寄せパンダ的アイドルではないからだ。
 前作「海猿」もそれに続くテレビドラマ版も観ていなかったけれど、何の問題もなく楽しむことができた。前作は海上保安庁の「潜水士」を目指す若者たちを描いた青春映画で、テレビドラマでは現場に配属されてからのストーリー。劇場2作目となる「LIMIT OF LOVE 海猿」はそうした流れを汲みつつも、独立した一つの映画として楽しめる作品になっている。
 それぞれのキャラクターにそれぞれの背景やこれまでの経験があるのだろうが、そこを掘り下げず、一気にフェリーの事故発生に突き進んでいったのが良かった。この手のパニック・アクション映画は、観る前から「何かが起こる(この映画の場合はフェリーが転覆する)」ことは分かっている。大輔と環菜の微妙な関係から事故が起こるまでの展開はさらっとしていて必要最小限の描写しかなかったが、この手のアクション映画ならそれで十分だ。船の中で大輔と環菜が離ればなれとなり、吉岡、妊婦、チンピラの3人と一緒に閉じこめられたところから脱出を図ろうとするところがメインだから、海洋アクションというよりは密室パニックという感じだが、600人を越える乗客から実質この4人に「遭難」する人が絞られ、スケール感は小さくなったものの、かえって恐怖感は増したと思う。外部との通信が途絶えた船底の狭い空間で「ミシミシッ」と船体が軋む音がするだけで、ゾッとして鳥肌が立ってしまった。
 もう打つ手がない、取り残された乗客二人をどうすることもできない状況になって、映画のオープニングで観たシーンが生きてくるのだが、ここが残念なところ。大輔が前に救難失敗してしまった場面なのだが、簡単に描写されただけであまり心に残っていないので、それが大輔に結婚を躊躇させるトラウマであり、この救難を最後までやり遂げようとする動機になっているのだということが、あまり伝わってこなかった。
吉岡が大輔を最後まで信頼する根拠にもなっている重要なエピソードなので、もうすこし時間をかけて丁寧に描いても良かったのではないか。
 他にもプロポーズが長すぎるとか、チンピラと妊婦の潜水シーンが欲しかったとか、いろいろ細かいところで気になるところはあるものの、全体として飽きることなく最後まで楽しめた上、予想以上に迫力あるシーンもあって感動した。
 仙崎大輔を演じた伊藤英明は確かに「ヤバカッコイイ」。恵まれた体格とルックスを生かせる役にめぐりあったのではないかと思う。バディの吉岡を演じた佐藤隆太との軽妙なやりとりも良かった。チンピラ役の吹越満、妊婦役の大塚寧々はともに人物描写の不足分を演技力で補った。大規模な撮影協力を行った海上保安庁はもちろん、転覆するという不名誉な役柄にもかかわらず実物のフェリーを貸すことをOKしたフェリー会社にも拍手を送りたい。

評点 ★★★★

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