MUDDY WALKERS 

トラ!トラ!トラ! TORA!TORA!TORA!

トラ・トラ・トラ >1970年 アメリカ/日本 145分

監督
リチャード・フライシャー
舛田利雄/深作欣二
脚本
ラリー・フォレスター
小国秀男/菊島隆三

出演
マーチン・バルサム
ジョセフ・コットン
E.G.マーシャル
山村聡
田村高廣
東野英次郎

スト−リ−

 1939年。日本ではアメリカの経済封鎖に対抗するため、東条英機(内田朝雄)がアメリカへの攻撃を近衛首相に進言した。それから1年半後の1941年1月、ワシントンの海軍情報部は日本の暗号無電を解読、日本がアメリカを攻撃しようとしていることを察知する。そしてルーズベルト大統領はキンメル提督(マーチン・バルサム)を太平洋艦隊司令長官に任命した。そのころ日本では、連合艦隊司令長官に任命された山本五十六(山村聡)を中心に、真珠湾攻撃に向けて作戦の検討が始められていた。一方の外務省では野村駐米大使(島田正吾)がハル国務長官と戦争回避にむけて協議を重ねていたが、アメリカ海軍の強硬な意見により、日本側の出した譲歩案は受け入れられない。やがて両国の通商条約は破棄され、ハワイは非常時態勢下に置かれることになる。アメリカ海軍情報部は真珠湾攻撃の情報をつかみ、その決行日を想定していた。しかしハワイの太平洋艦隊司令部は半信半疑で、油断しきっていた。そして1941年12月2日、ハワイへ向けて進航中の南雲司令官(東野英次郎)は山本長官から「ニイタカヤマノボレ」の暗号文を電受。12月7日、ついに淵田少佐を隊長とする爆撃隊が、空母「赤城」から真珠湾に向けて飛び立ってゆく。

レビュー

 1970年に20世紀フォックスが社運をかけて公開した、日米合作の一大戦争スペクタクル映画。ところがさすがにアメリカがこてんぱんにやられる真珠湾攻撃はアメリカ人には受け入れがたく、大コケしてしまったという。しかし、名画は時代を超えて生き延びる。再び真珠湾攻撃が映画に取り上げられた2001年、そのあまりの駄作ぶりに、同じテーマを扱ったこの作品が再度脚光を浴びた。私もその映画「パール・ハーバー」の酷評の中に「トラ!トラ!トラ!」の文字を見て、この映画を観ようと思い立った一人である。

 日米合作で、日本側の場面は日本人が、アメリカ側の場面はアメリカ人が制作し、それを一つにまとめるという手法がとられた。かつて戦争で敵対していた2国が、その戦争をテーマにこのような形で映画を撮ったということ自体が、すごいと思う。そういう形であるために、映画はどちらかの立場に加担することなく、日米双方の開戦前後の動きを、淡々とドキュメンタリータッチで描き出している。日本軍が開戦準備に突入していく一方で、外交筋では開戦ぎりぎりまで戦争回避への努力がなされたこと、またアメリカ側が開戦前に日本軍が宣戦してくることを知っていた(しかしどこを攻撃するのかは分かっていなかった)ことなど、開戦までの経緯が両国それぞれの立場で丁寧に語られる。奇襲攻撃決行前に、ワシントンの日本大使館に宣戦布告の文書が届く。しかしあいにく休日でタイプ係は休み。おぼつかない手つきで大使館員がタイプを始めるが、人差し指1本打ちだ。刻々と時間はすぎていく。こんな小さな災難が雪だるま式にふくらんで、大きな災いとなっていくのだ。こうした描写は戦争映画というよりむしろ、歴史映画というべきだろう。そのため登場人物が非常に多く、主人公といえるキャラクターがいないため、歴史の動きに興味のない人には、やや冗長に感じられるかもしれない。

 クライマックスは、言わずと知れた「真珠湾攻撃」。朝焼けの薄明の空に、空母「赤城」から零戦が飛び立つ姿の荘厳な美しさ。そして奇襲攻撃のシーンではすべて実機を使った特撮だという。CGで造り込まれた映像を見慣れた目にかえって新鮮にうつる。日本軍の用意周到に作戦を完遂させる姿と、奇襲にあわてるアメリカ軍のドタバタぶりがあまりに対照的で、音楽隊が国旗掲揚のため演奏をしている最中に攻撃に気付き、途中でやめてはいけないのでだんだん曲のテンポを速めていく様子など、不覚にも笑ってしまうような描写もある。このあたり『真珠湾攻撃』というノンフィクションを読んだときも同じで、悲惨な出来事のはずなのに、正確に描写しようとすればするほど笑える内容になってしまう。なんという悲劇であろうか。

 俳優では奇襲攻撃を実行する飛行体隊長の淵田美津雄少佐を演じた田村高廣がいい。帝国軍人の堅苦しい雰囲気が、その関西弁でぐっとソフトになり、私たちにとっても親しみの持てるキャラクターに仕上がっている。実際に淵田少佐は奈良県出身なので、これも史実を活かした設定といえよう。ちなみに淵田氏はこの戦争を生き延び、戦後は公職追放の憂き目に遭うもキリスト教に回心して伝道師となり、アメリカ各地の教会を訪れて伝道活動に残りの生涯を捧げた。「トラ!トラ!トラ!」公開時には20世紀フォックス映画からヨーロッパ一周旅行に招待され、各地で歓迎を受けたという。

評点 ★★★★

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