MUDDY WALKERS 

テルマ&ルイーズ THELMA & LOUISE

テルマ&ルイーズ 1991年 アメリカ 129分

監督リドリー・スコット
脚本カーリー・クォーリ

出演
スーザン・サランドン
ジーナ・デイビス
ハーベイ・カイテル
ブラッド・ピット
マイケル・マセドン
クリストファー・マクドナルド

スト−リ−

 平凡な主婦テルマ(ジーナ・デイビス)は友だちのルイーズ(スーザン・サランドン)に誘われて、別荘地で過ごす一泊二日のドライブに出かける。テルマの夫ダリル(クリストファー・マクドナルド)は妻に対してまるで父親のように接する、自分勝手で愛情のない男。たった一泊二日の旅行のことも恐くて言い出せず、テルマは置き手紙をして家を出てくる。思いっきり羽目を外そうと盛り上がる2人。途中立ち寄った酒場でテルマはハーランという男に目をつけられ、2人で踊って楽しむが、酒に酔ったテルマを外に連れ出すと、態度が一変し、彼女をレイプしようとした。そこへルイーズがかけつけて難を逃れるが、ハーランの捨てぜりふに腹を立てたルイーズは彼を撃ってしまう。女2人の楽しいバカンスは、思わぬ方向へ走り出し…。

レビュー

 「明日に向かって撃て」という70年代のアメリカン・ニュー・シネマのパロティのような映画。女どうしの友情を描いた女のロードムービーなどと言われるが、さすが巨匠リドリー・スコット。典型的なアメリカ映画の流れの中で、フェミニズムへの強烈な皮肉を語っていく。一見、これは男から女が解放され自由になっていくフェミニズム映画のように見えるが、実はそうではなくて、リドリー・スコットのいいたいことは「反フェミニズム」じゃないか。そんなふうに私は思った。そう思わせたのは、ハーベイ・カイテル演じる善良な刑事ハルの存在である。

 夫は妻を支配するのが正しいあり方なのだと勘違いしている夫、ダリルから逃れようと、テルマはルイーズに誘われて一泊二日の旅に出る。テルマにとってはこんなことさえ大冒険というほどの、家に囲われた主婦である。妻という呪縛から逃れようと羽目をはずす彼女を、ルイーズも温かく、半ばあきれながら見ているようだった。ルイーズにはジミーという恋人がいるが、結婚はしていない。テルマを自由にしてやろう。そんなふうに思っていたのだろう。しかし酒場でテルマがレイプされそうになってルイーズが男を撃ち殺してしまうと、結婚、家庭、夫からの逃避行が一転、警察の捜査を逃れる本当の逃避行になってしまう。

 レイプされかけたというショックと、ルイーズが犯した殺人とにパニック状態になったテルマはただおろおろするばかり。ただ警察に行こうというだけの理性は残っていたが、テルマはそれを拒否して逃げることを選ぶ。そのとき、テルマのその心情がよく分からないが、逃避行の中でテルマの知らなかったルイーズの過去の傷がわかってくる。

 追う側に立たされた警察はテルマの夫ダリルに張り付いて、家にかかってくる電話を逆探知しようとする。捜査の指揮を執るのが、ハーベイ・カイテル演じる刑事ハル。とても不思議な存在だ。ダリルは妻が出て行った本当の理由がまるで分からない。妻が抑圧してきた感情にまるで気付いていないのだ。だがこの刑事は、分かっている。2人の女は男に傷つけられてきた。ルイーズは「男」を撃ったのだ。銃を持った2人の逃避行は、そんな男への復讐劇でもある。銃を持った彼女たちは「解放」されて自由奔放にいきいきと生きているように見えるが、銃は男根の暗喩であり、彼女たちは単に男性化しているだけだ。自分たちを傷つけるだけで助けてはくれなかった男たちになりかわって、自分で自分を救おうとしているのだ。

 男女共同参画などと謳われ、ジェンダーをなくすことで女性の自立を図ろうとする動きがある。自立はもちろんいいことだが、簡単ではない。男女共同参画といいながら、実際には女性は男性化することを強いられている気がする。追いつめられて坂道を転がるように悪の道へと転落していく2人の行動は、爽快だがどこかもの悲しさがつきまとう。「今とても幸せよ」とテルマが言うその言葉の虚しさがたまらない。

 「彼女たちを救いたいんだ」。強盗・殺人犯として指名手配された2人を追う刑事ハルは、そうつぶやく。電話してきたテルマにも、懸命にその気持ちを伝えようとする。私にはこの刑事がまるで「神様」のように思えた。女は女として守られ愛されることで、本当に女として自由になれる。それはテルマとルイーズがしたように武装することではなく、男が女を愛し労い、女が男を助けるときに生まれるものだ。ハルはまるで一部始終を見てきたかのように、2人がこうなってしまった本当のわけを知っている。テルマとルイーズはそのことに気付くことなく走り去ってしまうが、しかし、女を転落させるのも男なら、女を救い出すのも男なのだ。

 監督のリドリー・スコットは、どうしてこんなに女性の気持ちが分かるのだろうという不思議な存在。ハルというキャラは監督そのものかもしれない。スーザン・サランドンとジーナ・デイビスは転落していくにつれてどんどん化粧もファッションも崩れていく。もちろん内面も変わっていく。そんな様子を見事に演じて、心地よい。殺人を犯したあとのコーヒーショップでのうろたえぶり、グランドキャニオンに向かって走る車の中でのちょっと狂ったような笑い。2人の女優の演技が深いから、一見カラッと爽快に見えるロードムービーの中にとてつもない悲しみと「これでいいのか」という監督の思いを見ることができた。

評点 ★★★★★

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