MUDDY WALKERS 

タクシー・ドライバー TAXI DRIVER

タクシードライバー 1976年 アメリカ 113分

監督マーティン・スコテッシ
脚本ポール・シュレイダー

出演
ロバート・デ・ニーロ
シビル・シェパード
ジョディ・フォスター
ハーベイ・カイテル

スト−リ−

 ベトナムから帰還した元兵士トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)は不眠症に悩まされていた。眠れない夜をやりすごすため、彼はタクシー・ドライバーになる。タクシーで走るニューヨークの街にはポン引き、売春婦、麻薬の密売人など様々な闇の世界の住人が溢れていた。この猥雑な街をトラヴィスは憎んでいた。ある日、大統領選挙に出馬している候補の一人が、彼のタクシーの乗客になった。大統領候補に、トラヴィスは「街をきれいに掃除してほしい」と訴える。その候補の選挙事務所で働くベッツィ(シビル・シェパード)に惹かれたトラヴィスは、事務所に出向いてボランティアを申し出、デートの約束を取り付ける。しかしその初めてのデートで、彼はベッツィをポルノ映画に連れていき、あっけなく振られてしまう。なんとか彼女にもう一度会おうと、花を贈ったり電話をかけたりするが、ベッツィは相手にしてくれない。やがてトラヴィスは、「自分がこの世の中をクリーンにしなければ」という考えにとりつかれる。そんなある日、トラヴィスの運転するタクシーに、ポン引きのスポーツ(バーベイ・カイテル)に追われた12歳の売春婦アイリス(ジョディ・フォスター)が逃げ込んでくる…。

レビュー

   高校生の時、映画研究部に入っていた。8ミリ映画の製作などが主な活動内容だったが、実際にはテレビで放映される映画をビデオに録画してみんなで観るというのが、メインだった。レンタルビデオ店などはまだなく、過去の名作を見るには、それが一番手っ取り早かったのだ。
『タクシー・ドライバー』とはその頃に出会った。クラブ活動と称して、高校の視聴覚室のテレビで観たのだが、その時は、正直一体この映画は何なのか、よくわからなかった。しかし、何か言葉にできないけれども、とてつもない大きな衝撃を受けたことを覚えている。今までに観たことのない映画だった。そしてこれからも、これほどの映画は作られないであろう。

 高校生当時にはよく分からなかったのだが、後に大人になってから改めてこの映画を観て、再び大きな衝撃を受けた。公開当時はベトナム戦争の影響が社会に暗い影を落としていたから、この青年トラヴィスも、戦争後遺症を患った一人とみられていただろう。しかし、今まさにこんな青年がそこかしこに存在している。孤独感から妄想の世界にはまりこみ、周囲の人を巻き込み、あるいは困惑に陥れながら暴走してゆく。そんなトラヴィスに狂気を感じながら、どこか深いところで共感している自分に気づいて愕然とするのだ。

 トラヴィスを演じるのは若き日のロバート・デ・ニーロ。この演技がすばらしい。タクシー・ドライバーになりきるために本当にタクシー運転手の免許を取り、イエローキャブでニューヨーク市街を走り回ったという。映画は夜のニューヨークをタクシーで流すシーンから始まる。トラヴィスがタクシーで流しているとき、自分もともにトラヴィスとこの居場所のない大都会を放浪している気分になる。彼女をポルノ映画に連れて行ったり、腕に銃を仕込んだり、売春宿を襲撃したりと、トラヴィスのやることはすべてが常軌を逸しているが、そこに言葉にならない孤独な青年の叫びを感じさせる。

 12歳の売春婦アイリスを演じるジョディ・フォスターも、出番は少ないが天才的な演技を見せる。カメラワーク、音楽もすばらしく、低予算映画とは思えない味わい。主人公はヘンだし、展開も気だるく、わけがわからない感じなのに、何回も観たくなってしまうという希有な一本である。

評点 ★★★★★

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