レビュー
東宝創立55周年を記念して、総制作費20億円をかけて作られたバブル時代の超大作。原作は言わずと知れた日本の古典「竹取物語」だが、かぐや姫は実は墜落した宇宙船に乗っていた宇宙人だった!という設定で、SF特撮テイストを織り交ぜて作られている。とはいえ、若干のSF設定をのぞけば、原作に忠実に作られており、その物語世界をたっぷりと楽しむことができる良作である。
バブル期を迎えようとする時代だけあって、実に贅沢な作りである。名匠・市川崑監督はリアルで、それでいてどこか牧歌的でもあり、不思議なことがおこりそうでもある舞台を作り上げた。竹取の造とその妻の暮らす里山の一軒家、泥埃の立つ道沿いに並ぶ粗末な家並み、そして帝のおわず宮中と、それぞれのセットに独特の雰囲気があって、物語世界に引き込まれていく。もう一つすばらしいのはワダエミによる衣裳デザインで、成長したかぐや姫の場面場面の十二単の装いは、言葉数が少なく表情も乏しい彼女の内面を表現しているようで、すばらしかった。
ストーリーは、かぐや姫の美しさが知れ渡って求婚者が登場する中盤までは、やや展開が遅く退屈するが、求婚者への無理難題から物語が動き出すと、だんだんと盛り上がってくる。もともとの原作にはなかった盲目の子守りの少女、明野の存在が生きている。主人公ながら台詞も多くなく内面の分かりにくいかぐや姫だが、明野とのふれあいの中に、彼女の心の動きが表現されていて良いアクセントになっていた。
しかし何と言っても圧巻は、月へ戻るというラストである。平安絵巻のような光景の中に突如現れる超未来的な巨大宇宙船。明らかに、スピルバーグの「未知との遭遇」の影響を受けているだろうと思うが、CGなしの特撮時代の映像としては出色の美しさ。物語世界を損なうことなく、この世ならぬ圧倒的な存在と出会った人々の驚きを、荘厳な雰囲気で盛り上げてくれた。
残念なのは、幼少時のかぐや姫がなんとなくホラー映画の不気味な人形みたいに見えるうえ、育ての親に心を開いていくエピソードが乏しくただただ不気味に思えたこと、大伴の大納言が南海で出会った龍が、まんま怪獣でそこだけ違う映画のように見えたこと。エンドクレジットで流れる洋楽が雰囲気ぶちこわしなのももったいないが、今ではお約束の売り方だ。このへんが発祥だったのだろうか。
とはいえ、今ではどんな時代が舞台でも特撮やCGを使うことは当たり前になったが、ある意味その先駆けともいえる作品で、そのコンセプトに沿った映像づくりは一見の価値があるのではないだろうか。
評点 ★★★★ |