MUDDY WALKERS 

君がいた夏 Stealing Home

君がいた夏 1988年 アメリカ 99分

監督
ウィル・オールディス
ステイーブン・カンプマン
脚本
ウィル・オールディス
ステイーブン・カンプマン

出演
マーク・ハーモン
ジョディ・フォスター
ハロルド・ライミス

スト−リ−

 落ちぶれた元プロ野球選手のビリーのもとに、ある日母親から電話がかかってくる。従姉妹のケイティーが自殺したというのだ。葬式は終わったが、ケイティーの遺言で、遺灰をどうするかはビリーに任せられていた。ビリーは鉄道とバスを乗り継いで、長く離れていた故郷へと戻る。その途中で、幼い頃子守りをしてくれた、自由奔放な従姉妹ケイティーとの思い出が、よみがえってくるのだった。遺灰の処理をどうすべきなのか迷っていたビリーだが、ケイティーと過ごした日々とともに、彼女の「夢」がよみがえってくる。そしてビリーは、走り出していた…。

レビュー

 邦題からして、とても感傷的な映画である。ストーリーは、落ちぶれた元プロ野球選手ビリーの回想が断片的につなぎあわされていて、ここですべてを書いてしまっても、鑑賞にさしつかえないほどである。この映画は、ホームページなどでは「青春回顧映画」と紹介されていることが多いが、それはこの映画の一面であってすべてではない。落ちぶれた野球選手が、もう一度メジャーを目指してチャレンジするという、もう一つのストーリーがあるのだ。私が「映画の本棚」目次でこの映画のキャッチフレーズを「甘く切ない少年時代を回想する、青春野球映画」としたのも、そのためである。

 原題は「Stealing Home」で、これは日本で言うところの「ホームスチール」という野球用語である。3塁ランナーが本塁に向けて盗塁することで、主人公のビリーがプロにスカウトされるきっかけとなった試合で、ホームスチールを決めており、これがビリーにとっての重要な回帰点になっている。
 そしてもう一つ、「野球はホームに帰るスポーツである」と言われるように、ホームスチールをしてランナーのビリーがホームに帰ってきたことが、落ちぶれたビリーが故郷に帰ることを象徴している。ホームランを打てば、ランナーはダイヤモンドを一周してホームに帰るが、ビリーはあの試合で3塁打を打ち、そして本盗をしてホームに戻ってきた。ビリーの人生は、3塁打を打つまではすべてが順調で、夢に向かって輝いていたが、そこからホームに帰ることができず、すべてが色あせてしまったのだ。

 ケイティの死によってホームに帰ることになったビリーは、その帰途で彼女と過ごした時間を回想する。ビリーの記憶の中に生きるケイティを演じる、ジョディ・フォスターがすばらしい。ビリーにとって、彼女は従姉妹にすぎないのだが、遺言で遺灰を託すほど、互いに大切な存在だった。そうした存在感があふれ出ていて、画面の中でキラキラと輝いている。ジョディのこの存在感がなければ、陳腐な青春映画で終わってしまっただろう。

 初めて観たときには、ジョディ・フォスターの笑顔と、デヴィッド・フォスターの音楽しか印象の残らなかったが、しばらくたって改めて観ると、「ホームに帰って自分を取り戻す」中年にさしかかった男の姿に別の感動を抱いた。ケイティは死んだが、すばらしい遺言を残したものだと思う。

評点 ★★★★

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