MUDDY WALKERS 

スタートレック(2009) Star Trek

>スタートレック 2009年 アメリカ 120分

監督J・J・エイブラムス
脚本
ロベルト・オーチー
アレックス・カーツマン
原作ジーン・ロッデンベリー

出演
クリス・パイン
ザカリー・クイント
レナード・ニモイ
エリック・パナ
カール・アーバン
ゾーイ・サルダナ
サイモン・ベック
ジョン・チョー
アントン・イェルチェン
ベン・クロス
ウィノナ・ライダー

スト−リ−

 カーク(クリス・パイン)の父は宇宙艦隊に勤務していたが、ロムラン星人ネロ(エリック・パナ)との死闘で殉職する。父を知らずに生まれ育ったカークはグレて暴れていたところをスカウトされ、宇宙艦隊のメンバーを育成する宇宙アカデミーに入る。そこでも問題児だったカークだが、緊急事態発生でパイク船長指揮のエンタープライズ号が発進することになり、カークもそこに潜り込んだ。そこで彼は、すでに士官になっているスポック(ザカリー・クイント)と対立、エンタープライズ号から放り出され、僻地の基地惑星に置き去りにされてりまう。そこで、カークは年老いた「未来の」スポック(レナード・ニモイ)と出会う。実はかつて、ロムラン星を大爆発から救おうとして失敗したことで生じたブラックホールでロムラン星人ネロはタイムスリップし、過去に戻って復讐しようと待ち構えていたのだ…! これによって生じた「パラレルワールド」で新たなスタートレックの冒険が始める!

レビュー

 有名なあの主題曲を聞いて「あ、アメリカ横断ウルトラクイズだ」と思うほど、「スタートレック」には無知で無縁だった私。知っているのは、船の名前がエンタープライズ号で船長がカーク、それから耳のとがったスポックという宇宙人の仲間がいることぐらいだ。そんな私でも楽しめるのか?という不安は、見始めてすぐに払拭された。

 本作は、私が生まれた1966年に放映が開始されたアメリカの人気SFテレビシリーズが原作のリメイク作品である。だがストーリーは主人公カーク船長が宇宙艦隊に入る以前の若かりし日から始まり、このシリーズを知らない人でもすんなり入っていけるだけでなく、往年のファンにとっても新鮮さを感じさせるものとなっている。テレビシリーズに映画と、数多の設定、ストーリーと伏線のあるこの手の作品のリメイクは「ここを変えればあそこが変になる」ということが多数あるので困難を極めるものだが、本作では、ブラックホールに巻き込まれることによって生じたパラレル・ワールドという設定をストーリーに組み込むことで、つじつま合わせに四苦八苦することなく大胆な改変も許される、理想の「リメイク空間」を創出し、リメイクにありがちな「縛り」から自由になった。その意味で、リメイクである以上に、新しい時代の新しいスタートレック・シリーズの始まりとなっているのである。

 ストーリーの背景には、ロムラン星人ネロの(タイムスリップして、ものすごい年月を待ち続けた執念の)復讐があり、かなり複雑なものになっている。が、それが裏目に出ることなく、新規ファンには若きカークが船長に抜擢されるまでの波瀾万丈を、そして往年のファンには、未来からやってきた年老いたスポック(演じるのは元祖スポックのレナード・ニモイ)が登場し、彼がヴァルカン星人の血を引きながら、地球人の宇宙艦隊へ入ることになった経緯を語って物語にたっぷりとした厚みを持たせている。でありながら、ぐいぐいと引き込むテンポの良さ!

 カークとその父、スポックとその父、それぞれの父との関係、父から受け継いだもの、が一つのテーマとなっているのも見所のひとつだ。アメリカの娯楽映画は、父と子の確執と和解、そして精神的遺産の継承というテーマを描くのがとてもうまい。ある意味「ありがち」な話ではあるが、それをしっかりこなして、作品の支柱としているところがすばらしい。ありがち、といえばそれまでだが、これはむしろ人類の普遍的なテーマでもあるのだ。若かりし日を描くなら、避けては通れない道でもある。そこにしっかりと切り込んでいったことも、成功した理由の一つといえるだろう。

 最新技術でリメイクされたとはいえ、あの古めかしくて何ともチープな昭和の体操着のようなユニフォームのデザインをそのまま生かしたのも、嫌みがなくてとても良かった。残念なのはロムリン星人ネロだ。額に入れ墨のような柄、スキンヘッドに剃り込んだ眉毛というチンピラみたいな容貌が安っぽく、結構大変な死闘を演じているのだが、なんだかここだけチンピラのケンカみたいに見えてしまった。とはいえ、これはそう大きなマイナスにはならないだろう。

評点 ★★★★★

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇