レビュー
本作を見ようと思った動機はただ一つ、原作であるロバート・A・ハインラインの小説「宇宙の戦士」に登場するパワード・スーツが、「機動戦士ガンダム」のモビルスーツの元ネタだったからである。それで、ハリウッドの手にかかるとパワードスーツはどう描かれるのか、見てみようと思ったのだ。ただ、視聴前から分かってはいたが、本作に登場する「機動歩兵」はただの歩兵で、パワード・スーツは装着していない。原作の重要な設定を無視して作られた、ある意味ムシのいい話である。
とはいえ、未来都市のハイスクール、宇宙港や艦隊アカデミーでの訓練風景など、SFとしての舞台設定と描写は非常によく出来ている。それに対して、見るからにB級の俳優陣。どういうことなの・・・と眉をひそめながらの鑑賞となった。
軍事政権が支配する地球連邦。軍隊に入れば市民権が得られる。そんな舞台設定は、まず、地球連邦軍のリクルート用CMで私たちに伝えられる。このCMが実によくできていて面白い。このテイストのまま突っ走ってくれたら、ほどよいB級おバカ映画で楽しめたのだが、監督のポール・ヴァーホーヴェンは作風に毒のある曲者なだけに、あっけらかんと楽しめるスペクタクルとはほど遠い作品となった。とにかく、敵の昆虫型異星生物とやらがグロテスクな上に、戦闘シーンでは手が飛び足が飛び胴体が千切れ肉片となる・・・という惨殺場面をいちいち丁寧に描写するので、見ていて気分が悪くなってくる。ストーリー自体は単純で、恋人カルメンの気を引きたい一心のジョニーは機動歩兵となり、訓練で活躍して隊長に任命されるものの、訓練中の事故で死者を出してしまい、退役を決意。ところが故郷ブエノスアイレスが敵の攻撃で壊滅、両親を失ったうえ数百万人にのぼる死者が出る大惨事となり、敵の昆虫と戦うために、軍に留まり最前線へと出ていくのだ・・・、という展開である。
その過程で、思いを寄せていたカルメンに振られ、つきまとわれていたディジーといい仲になり・・・という青春ラブストーリーがあったりして、完全に典型的ハリウッド娯楽大作をなぞらえているのだが、あくまで監督の視線はシニカルで、中身のかる〜い娯楽大作をなぞらえながら、強大な軍事力で世界の警察を自称し、世界のならず者国家に戦いをけしかけてゆくアメリカという国のカリカチュアを描き出しているのだ。
その意図はわかるものの、やはり趣味の悪いエログロ描写は楽しいものではないし、何よりも、バカ映画の体裁を取りながら、実はアメリカをバカにしている映画、という粋を出ていないことが問題だと思う。そういうところが、何ともいや〜な後味の映画だった。
実は原作は映画とはベクトルが正反対で、ハインラインはアメリカがベトナム戦争の泥沼に足を突っ込んで行こうとする時代に、国家のために戦う若者たちの志を高めようという思いを持って、軍国主義的思想をベースとしてこの小説を書いたと言われている。敵である「昆虫」は知能もなくコミュニケーションも図れない不気味な存在として描かれているが、これは太平洋戦争時に日本人を虫になぞらえて戦意高揚を図ったことを思い起こさせるものである(ベトナム戦争におけるベトナム人も同様の扱いを受けた)。そうした原作のストーリーをそのまま活かしながら、まったく正反対の反戦思想を表現したい、というのが監督の思いとしてあったようだ。その狙いは面白いと私は思うが、出来上がった作品は、感受性豊かに受け止められるものではなかった。
それと、ウジャウジャーーーっと虫の大群が押し寄せてくるのに、歩兵が実弾兵器で立ち向かうなんてアホらしい。これこそ、核ボタンをポチッとする場面じゃあいのか!!と思ってしまった。そう思わせてしまうところが監督の狙いだとしたら、恐ろしいなと思った。
評点 ★★★
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