レビュー
ハリウッドの「ミスター・ベースボール」ことケビン・コスナーが最初に出演した野球映画。 傑作という人もあれば、すごくくだらないという人もいて、好みで評価が分かれる作品である。その原因は、目をつけたマイナー選手とセックスしつつ野球を教え、メジャー入りさせることを生きがいにしている女性、アニー・サヴォイというキャラクターにあるのではないかと思う。野球とセックスを同等に考える彼女の思想は滑稽で、なおかつ少々お下品でもある。これもユーモアと割り切れれば楽しいが、そうでなければ不快さが残る映画かもしれない。しかし私は結構好きだ。へっぽこチームが何かをきっかけに快進撃、そして優勝争いへという話が多いなか、この映画はそんな次元を遙か彼方に見上げつつ、へっぽこチームがへっぽこのまま終わる話。そんな中にあって、勝った負けたの騒ぎを超越して野球に人生を捧げてしまった男と女の生き様が、ウィットに富んだ(といっていい のかどうか分からないが)やりとりを通して描かれる。邦題は『さよならゲーム』だが、映画の中でサヨナラ勝ちの場面があるわけではない。私の感じではむし ろ『野球狂の詩』みたいな、そんな雰囲気のタイトルが似合う映画だと思う。
チームはマイナー最下層に近い1Aだけに、その中の人間模様も悲喜こもごも。ブードゥー教を信仰し、打てなかったり守備 が悪いのは「呪い」のせいにする選手がいたり、熱心なクリスチャンで、ロッカールームで試合前に礼拝しようと言い出す選手がいたり。投球フォームの矯正の ためにガーターベルトをつけさせるといったアイデアなど、何ともいえない可笑しさがある。大爆笑コメディではないが、ときどき「プッ」と吹き出してしま うような可笑しさだ。
(気になるのは、『さよならゲーム』を観たあとで『メジャーリーグ』を観ると、随分似た設定があるなあと思うことだ。ブゥードゥー教徒とキリスト教徒、ベテラン捕手と剛速球の新人ノーコン投手、実在の球団を舞台にしているところも同じで、ぶっちゃけマイナーリーグが舞台の『さよならゲーム』をメジャーにリメイクしたという感じ。さては、パクリましたね?)
特に私が好きなのは、遠征中のおんぼろバスで、エビィがギターを弾きながら、間違いだらけの歌詞で歌を歌うシーン。クラッシュとエビィのやりとりで、はじ めてクラッシュが、21日間だけメジャーリーガーだったことを話す。そのときのチームメイトの反応をみると、メジャーリーガーがどれだけ尊敬されているか がよく分かる。エビィ以外の選手には、その一員になれる見込みはまったくないが、それでもメジャーは夢であり、憧れなのだ。彼らがあえて野球の世界にとど まり続けている理由、そしてベテラン捕手クラッシュの矜持が垣間見えて、面白い。
クラッシュは一貫してエビィに憎まれ口を叩き、マウンドで自分のサインに首を振ると、バッターに球種を教え、わざと打たせてエビィの思い上がりを砕こう とする。クラッシュの教えることはとにかく「自分で考えるな、サインに従え」ということだ。よくアメリカ人は「ほめて育てる」などと言うが、そんなイメー ジとはかけ離れていて、むしろ日本の職人的な感じがする。しかし、会話の中で実はクラッシュがものすごくエビィの才能を大切に思っていることがわかる。プ レースタイルからみると、エビィは天性の才能でプレーする一方、クラッシュは理論を土台にプレーしてきたのだろう。理論は学べるが、才能は学んで勝ち取る ことはできない。エビィに対して、クラッシュよりもむしろアニーの方が具体的な投球フォームなどをアドバイスしてるが、一 野球ファンであるアニーよりも、実際にボールを受けるクラッシュの方が、その才能を実感していただろう。そしてクラッシュはフォームどうこうといった細かいことより、自分の才能に気付かせ、それを大切にすることを教えようとしていたのではないかと思う。そのあたり、どんなスポーツでも基本とかフォームにこ だわる日本の指導とは違うなと思ったり。
クラッシュという名前も面白い。彼はエビィをメジャーリーガーに仕立てると、自分はお役ご免で 解雇されてしまう。その過程でアニーと衝突するが、彼女の「野球とセックスは同じ」という考えを壊してしまった。別のチームに移って、そこでアニーしか知らないマイナーリーグのホームラン記録を密かに塗り替えると、野球を辞めてアニーの元へ戻ってくる。「僕に監督が務まると思うか」というクラッシュの言葉に、アニーは涙ぐんだように見えた。"No Baseball,No Life"。メジャーの栄光を遠く離れたところで野球に生き続ける男と女。うん、よかった。野球狂は、こうでなくっちゃ。
評点 ★★★★
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