MUDDY WALKERS 

ライトスタッフ THE RIGHT STUFF

ライトスタッフ 1983年 アメリカ 193分

監督フィリップ・カウフマン
脚本フィリップ・カウフマン

原作トム・ウルフ
「ライトスタッフ」

出演
サム・シェパード
スコット・グレン
エド・ハリス
デニス・クエイド
フレッド・ウォード
バーバラ・ハーシー
ランス・ヘンリクセン

スト−リ−

 1947年のアメリカ。砂漠の中にある空軍基地には、「音速の壁」を突破することに情熱を燃やすテストパイロットたちが集まっていた。彼らが集う店の壁には、パイロットの写真が所狭しと貼られている。事故死すると、その壁に写真を飾られることになっているのだ。空軍は、最新鋭機で音速の壁突破を実現させるべく、優秀なパイロットをスカウトしようとその店を担当者が訪れる。声をかけた民間のテストパイロットは「金次第だ」と高額な報酬を要求する。その話を隅で聞いていた空軍のパイロット、チャック・イェーガー(サム・シェパード)は「給料だけで」その仕事を引き受ける。そして、音速の壁を突破した最初の人間として、歴史に名を残すこととなった。このことがさらにパイロットたちの競争心に火をつけ、基地には次々と、自分こそナンバーワンだと自認するパイロットたちが集まってくる。そして次々と記録が塗り替えられていく一方、パイロットの妻たちは、事故と隣り合わせの夫の日常に、神経をすり減らしてゆくのだった。
 そんな中、ソ連が世界初の人工衛星の打ち上げに成功する。いわゆる「スプートニク・ショック」に全米が自信喪失に陥った。冷戦が「宇宙開発競争」の側面に入った中、一歩出遅れた劣勢を取り戻そうと、アメリカ政府は人類を宇宙へ送り出す「マーキュリー計画」を発表。厳しいテストを経て、7人のパイロットが選ばれた。しかしアメリカ政府が最初に宇宙に送り出すと決定したのは、彼らではなくサルだった。世間の注目を一身に集めながら、自分たちを実験動物のように扱うNASAへの不満、意見の対立などを乗り越えてついに宇宙へと旅立っていく…。

レビュー

  1979年に出版されたトム・ウルフのドキュメンタリー小説「ライトスタッフ」を映画化。音速の壁突破から、アメリカ初の有人宇宙飛行計画「マーキュリー計画」に最終号機打ち上げまでを描く超大作である。米ソ冷戦時代に突入した1947年から宇宙開発競争への展開、そして「マーキュリー計画」が終了する1963年までの現代史を、実際の映像を織り交ぜながらあくまで物語的にドラマで語るという手法で見事に描ききっている。それにしても、193分は長いのである。秋っぽく落ち着きのない私は、長過ぎると感じた映画の評価をどうしても下げてしまうので(例えば「タイタニック」)、★の数を正直いくつにしょうか迷ったのだが、ここは最初の30分を観ながら感じた通り、5つ星でいくことにした。これだけの長尺、しかも歴史を扱ったドキュメンタリー的映画となると、監督はいろいろな視点を入れてみたくなるものだろう。過去を振り返るときには、いろんな立場のいろんな見方を試したくなるものである。しかしフィリップ・カウフマン監督は、この長い時間のすべてを「パイロットの視点」で貫き通した。語り得る要素が多々ある中で、タイトルにあるように、そして原作がテーマとしていたものに忠実に、ただパイロットたちの示す「ライトスタッフ」を描き出そうとしているのが、よくわかる。「ライトスタッフ」は正しい資質というふうに訳される言葉だが、それは何であるか説明するのは、多分とても難しいのだろう。映画を見終わった後でも、確かにそれは描かれていたと感じはするが、説明するのは難しい。逆に言えば、だからこそ長い長い映画を作る必要があったのだろう。
 映画は、音速の壁を突破する戦闘機パイロットたちの戦いを描いた前半部と、パイロットの中からもっとも優れた資質のある者を選び出し訓練していく中盤、そしていよいよ打ち上げに入り、英雄たちの陰影があらわになってくる後半部に分けられる。それぞれパートとしてはよくまとまっているが、前半と後半との間では主要な登場人物も入れ替わり、ストーリーも起承転結として一貫した流れがあるわけではないので、全体としてみれば、やや散漫な印象が残ることは否定できない。またストーリー上それほど重要とは思えないような場面もしっかりと描きこまれていて、冗長な感じも受けはするのだが、「パイロットの視点」という基本スタンスがあるために、脱線することなく「マーキュリー計画」の最後まで、何とか予定通りに飛びきったという印象を見終わってまず感じることとなった(率直に言えば、見終わって最初に出てきた言葉は「長いよー」であった)。そういう意味で、この映画は絶妙な、あるいはギリギリのバランスで作られた作品である。一歩軌道を外れたら、地上に墜落するか、宇宙の彼方に飛んで行ってしまうかのどちらかだ。

 恐らく1998年のSF映画『アルマゲドン』はこの映画をモチーフにしていることは間違いない。ソ連崩壊後に製作された『アルマゲドン』は、まさに「世界に敵なし、世界を救うのはアメリカなのだ」のアメリカ万歳的要素が満載のバカ映画になってしまったが、本作が末期とはいえ冷戦時代の最中に作られているからか、素晴らしい資質と才能を持ったパイロットたちの讃歌に終わらない、現実を観る冷徹さを保ちつづけているように思う。
 そしてもう一本、本作をモチーフにして生まれたであろう映画がクリント・イーストウッド監督の『スペース・カウボーイ』である。サルにその座を奪われて、とうとう宇宙に上がることなく老人になってしまった元テストパイロットたち、というのは架空の設定ではあるが、そんな主人公が『ライトスタッフ』で宇宙に行くことのなかったチャック・イェーガーを意識しているのだろうということは、本作を観ればピンとくるものだ。
 このように、パロディともオマージュともとれる作品を生み出すほどのインパクトを与え、多くの人に愛されたという意味で、やはり本作は「名作」というべき作品だと思う。

評点 ★★★★★

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