MUDDY WALKERS 

ナチュラル THE NATURAL

ナチュラル 1984年 アメリカ 137分

監督バリー・レビンソン
脚本ロジャー・タウン/フィル・ダッセンヴェリー
原作バーナード・マラマッド
「奇跡のルーキー」

出演
ロバート・レッドフォード
ロバート・デュパル
グレン・クローズ
キム・ベイシンガー
ウィルフォード・プリムレー
バーバラ・ハーシー

スト−リ−

 父親に野球の才能を見出された少年ロイ・ハブス。父親とのキャッチボールが日課だったがある日、父は急逝してしまう。父が倒れた場所にあった木に雷が落ち、真っ二つに裂けてしまう。少年はその木を削って1本のバットを作る。20歳になった彼はメジャー・リーグのスカウトの目に留まり、幼なじみの恋人アイリスと結婚の約束をして、シカゴへと旅立つ。長距離列車に同乗していたメジャーリーガーとの対決で早くも才能の片鱗を魅せるロイ。しかしその列車に乗り合わせた謎の女に誘惑された彼は、誘い出されたホテルの一室で撃たれ、瀕死の重傷を負ってしまう。それから16年の月日が流れた。35歳になったロイ・ハブスはルーキーとして弱小チーム、ニューヨーク・ナイツに迎え入れられる。何の実績もなく、あまりに年を食った新人を、監督はなかなかゲームで使おうとしない。しかしある日、チャンスが巡ってくる。打撃練習を命じられたロイ・ハブスは、大切に持ってきたバットを手に、バッターボックスに立った。雷の落ちた木を削って作った、あのバットだ。その一振りから、奇跡の快進撃が始まる。と同時に裏の世界からどす黒い手が、彼に伸びてきた・・・。

レビュー

「まだどこかに、すごい才能を持ったまま埋もれている選手がいるかもしれない」・・・スポーツの世界に隠れた、ある種のファンタジーがある。今は高校野球や高校サッカーにまで国内のみならず海外からもスカウトが目を光らせる時代。そして世に出た若い才能が、お金やマスコミ、様々な誘惑や野望、欲望によって潰されていく時代だ。夢が現実に押しつぶされていく今だから、こんな寓話が成り立つのかもしれない・・・「ナチュラル」はそんな、現代のおとぎ話である。

 落雷で裂けた木からバットを作る冒頭のシーン。WONDER BOY(神童)という文字が彫り込まれる。短いエピソードだが、これが入れられたことで、ロイ・ハブスには不思議に神話的ともいえる、超自然的な何かを期待する雰囲気が生まれた。映画は意外に長く、野球賭博、八百長などといった過去の野球界の暗い部分も描かれるが、全編を通してノスタルジックというだけではない、不思議な雰囲気に包まれており、勧善懲悪のおとぎ話を爽やかに見せてくれるのだ。

 このファンタジックな雰囲気づくりに最も貢献しているのが、主人公ロイ・ハブスを演じるロバート・レッドフォードだ。走・攻・守の三拍子が揃った野球の申し子のような人物で、35歳の新人選手として登場したときの彼は、打った勢いでボールの縫い目が切れてしまうほどのパワーヒッターなのだが、細身のレッドフォードがこれを演じるのは、一見かなり非現実的に思える。だがベーブ・ルースのように太っていたら、パワーがあっても当然と思うだろう。ロイ=レッドフォードが普通の体格だからこそ、その天賦の才が際だつというものだ。さらに、例のバットがある。落雷によって不思議な神通力が与えられたかのように思えるのも、こんなところに理由があるように思う。
 そして何より、彼の存在感。空白の16年間に重ねてきた年齢と労苦がありながら、少年のような純粋さを持ち続ける。そんな希有なキャラクターに彼ほどぴったりな役者はいないだろう。1920〜30年代のファッションも板についていて、その時代から抜け出てきた人のようだ。35歳の野球選手を演じるのに、47歳のレッドフォードではあまりに無理があると当初は言われたようだが、彼でなければこの雰囲気は出せなかったと思う。

 特筆すべきは、ラストシーンだ。この映画は10年以上前にテレビで放映していたとき初めて見たのだが、そのときからこのラストシーンは脳裏に焼き付いていた。勝利の瞬間を、こんなに美しい映像にした映画を他に知らない。

評点 ★★★★★

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