レビュー
一言でいうと、氷山にぶつかったところで終わる『タイタニック』のような映画だった。タイタニックに乗った貴族たちが連日豪華な宴を繰り広げていて、美し い衣装や船の内装、美男美女の恋愛模様が描かれるとする。ところが船が氷山にぶつかって…「この先は歴史的事実だから、みんな知ってるでしょ。だからわざわざ映画にはしないわ」。これではブーイングものである。タイタニックが面白いのは、この豪華な船で享楽的に過ごす人たちが、いずれ氷の海に沈んで大変なパニックに襲われると分かっているからだ。庶民はゴージャスなセレブの暮らしっぷりを見るのが好きだけど、それ以上に、セレブが窮地に陥って、本性を現すところを見るのが大好きなのだ。
この映画は“ガーリー・ムービー”というジャンルに属するそうだ。天真爛漫な少女を主人公に、彼女の恋愛やファッション、思春期ならではの悩みを描くというのがその特徴。歴史上の人物を主人公にしているからといって、本物のヴェルサイユ宮殿でロケをしているからといって、本格的な歴史劇を期待してはいけ ないらしい。ふーん、そうなんだ。確かにファッションはゴージャスで夢みたいだったし、かわいいお菓子もいっぱい出てきたし、気の合う仲間とオールで楽しんで日の出を眺めたり、めっちゃ楽しそう! …で満足できると思っているとは、ちょっと少女をバカにしていないか。それとも昨今の少女はそれくらい低能だ ということなのか。そう言いたくなるくらい、ストーリーというものがほとんどなくて、つまらない。音楽がやたらうるさいマリー・アントワネット全盛時代の イメージビデオを見ている感じだった。 フェルゼンがただの女たらしとして描かれている上に、すぐに王妃と寝てしまうところも、ダメさに拍車をかけている。とにかく、ドラマティックな展開という ものが全くないのだ。
実際マリー・アントワネットは凡庸な人物なのだが、フランス王妃として贅沢三昧をしているときは王家ならではの儀式や作法に反発して奔放に振る舞いながらも、いざ革命によって豪華な衣装や最新のヘアスタイルで着飾ることができなくなり、宮殿から追い出され、王妃として持っていたものをすべて奪われてしまったときに、かえって王家の人間としての気品と誇りが現れ出て、身近な人々を惹きつけるようになっていく。そんなところに私は人間の面白さを感じるのだ が、“ガーリー・ムービーの女王”ソフィア・コッポラ監督には、そんなことはどうでも良かったらしい。これだけの予算と衣装と舞台装置があるのなら、いっ そのこと“ベルばら”を映画化してくれたらよかったのに…。
これもコッポラ監督にとってはどうでもいいことだったのかもしれないが、ルイ16世はたしかインポテンツで、手術をしてようやく性交渉が持てるように なったのではなかったっけ? そもそもマリー・アントワネットは年齢的には少女でも実際には人妻であって少女ではないし、恋愛どころか映画のメインは(あえてあげるとしたら)夫とのセックスレスで悩む話。宮廷生活って、見かけほどには少女趣味ではないんだよね。王室というものを持ったことがないアメリカ人には、分からなかったのかもしれないけど。
評点 ★★ |