MUDDY WALKERS 

マルコムX Malcolm X

マルコムX 1992年 アメリカ 202分

監督スパイク・リー
脚本スパイク・リー
原作アレックス・ヘイリー
「マルコムX自伝」

出演
デンゼル・ワシントン
アンジェラ・バセット
アルバート・ホール
デルロイ・リンドー
スパイク・リー
テレサ・ランドル

スト−リ−

 黒人解放運動の指導者、マルコムXの生涯を描く伝記映画。ネブラスカ州オマハで、バプテスト教会の牧師の息子として生まれ育ったマルコム(デンゼル・ワシントン)。父親は白人に媚びへつらって仕事をもらうことをよしとせず、自給自足のような生活を送っていた。そのため一家は白人至上主義団体KKKの標的となり、父親は残酷な方法で殺害されてしまう。母は精神を病んでいたためマルコムは白人家庭に里子に出され、学校では優秀な成績だったが決して白人の生徒と同等に扱われることはなかった。中学卒業後、ボストンに出たマルコムは靴磨きをしていたが身を持ち崩し、麻薬の売買や売春、強盗などに手を染めるようになる。そんな中、白人女性と交際していたことでで罪に問われたマルコムは刑務所送りになってしまう。しかし刑務所の中で一人のイスラム教徒ベインズ(アルバート・ホール)を通してブラック・ムスリム運動に出会い、黒人解放のための公民権運動に身を投じていくことになるが・・・。

レビュー

 黒人の映画監督、スパイク・リー渾身の力作。3時間を超える大作で、第一部では幼少期からボストンで犯罪行為を繰り返しながらギャングまがいの生き方をする中で逮捕されるまで、第二部では刑務所の中でブラック・ムスリム運動に出会い黒人解放運動に目覚めるまで、そして第三部では出獄してネーション・オブ・イスラムのリーダー、イライジャ・ムハンマドとの出会いから結婚、そして黒人解放運動に明け暮れる中でのイライジャとの対立から暗殺までを描く。

 人種差別問題をテーマにしたアメリカ映画には秀作が多いが、本作は、その中でも必ず見ておきたいうちの一本といえるだろう。キング牧師と並ぶ黒人解放運動の雄、マルコムXの生涯を、幼少期から暗殺による死までを見事に描ききっている。 その人生は、活動家として表に立ち演説を繰り広げた「明」の部分よりも、もしかするとスラム街で犯罪行為に明け暮れていた「暗」の部分の方がはるかに大きな割合を占めていたかもしれない。その根っこには、もちろん成績優秀であっても望むような医師、弁護士にはなれるはずもなく、同じ人間としてではなくむしろ動物のように扱われてきた黒人差別のまかり通る社会、という闇が横たわっている。そんな中でチンピラ生活を送っていたマルコムは、黒人特有の縮れ毛をまっすぐにするストレートパーマをかけることに執心し、あるいは白人女性とつきあうことをステイタスのように思っている、いわば粋がったつもりでいながら実はとっても自虐的という、白人社会の枠の中でじたばたしているだけの存在であった。
 映画では、1930年代から40年代の繁栄し強くなっていくアメリカのダークサイドを、マルコムXの半生を通して克明に描いている。普通なら、こうした活動家以前の姿についてはさらっと扱い、マルコムXが黒人解放運動に乗り出してからの活躍と、彼の発言や行動、主張を描くことでその偉大さを伝えようとするだろう。そうではなく、3時間20分という時間の3分の2を、活動家になるまでの歩みに割いている。それは、彼が力強く訴えた「ブラック・イズ・ビューティフル」という言葉を、よりはっきりと際立たせている。それは、黒人が黒人としてのアイデンティティを獲得するために、認識されなければならない原点だった。まさにそのことを、本作ではマルコムXの生き様そのものを通して、描き切っている。

 キング牧師と並ぶ黒人解放運動の旗手として知られるが、その人生や、具体的にどのような活動と主張をしたかということはほとんど知らなかった。過激派とか暴力主義者と言われていたが、映画でその人生を通してみてみると、決してそれが過激であり暴力的であるとは感じなかった。それ以上の暴力と人権侵害にさらされてきた姿を見れば、彼の主張や行動には理解できるものがある。ただ、それは黒人解放運動の内部にも過激なものを産むに至った。メッカ巡礼を通して、マルコムX自身は、暴力主義を超越しようとしていた。しかし、その手前で凶弾に倒れることになる。

 マルコムXを演じたのはデンゼル・ワシントン。本人ととても良く似ているだけでなく、演技もすばらしかった。マルコムXを通して、アメリカで黒人の歩んできた道と、受けてきた屈辱、そしてその戦いの歴史を描ききったスパイク・リー監督、まさに渾身の力作である。

評点 ★★★★★

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