MUDDY WALKERS 

ルパン三世 EPISODE:0 ファーストコンタクト

ルパン三世 2002年 日本 TVスペシャル 92分

監督大原実
脚本米村正二
原作モンキー・パンチ

声の出演
栗田貫一/納谷悟朗/小林清志
井上真樹夫/増山江威子/森山周一郎
咲野俊介/小杉十郎太/永井一郎 ほか

スト−リ−

 ルパン一味について聞き出そうとする女性記者が次元大介(小林清志)に張り付いていた。コイントスに負けた次元は話を始め、記者はICレコーダーを取り出す・・・。
 ニューヨークのマフィア、ガルベス(森山周一郎)は、第二次世界大戦当時各国の諜報部が探し求めていた「クラム・オブ・ヘルメス」という秘宝を所有していた。それはダイヤモンドより固いという合金でできた筒で、中にその製法を記した巻物が入っている。筒を開けるカギは、別の大富豪が所有していた。この二つを揃えるべく、腕利きの泥棒たちが動き出していた。ルパン(栗田貫一)は得意の変装でお宝の入った金庫に近づこうとするが、ガルベスがボディガードとして雇ったガンマン、次元大介に阻止されてしまう。しかしお宝はガルベスの金庫から消え、疑われたルパンはガルベスの「掃除屋」シェイド(咲野俊介)一味に襲撃される羽目に。一方ニューヨーク市警では、日本から峰不二子(増山江威子)という泥棒を追いかけてきた銭形警部(納谷悟朗)が出迎えられていた・・・。

レビュー

 最初のTVシリーズが制作されたのは、今をさかのぼること45年前の1971年、というのをネットで調べて知ったのだが、正直、そんなに前にスタートした作品とは思わなかった。私がよく見ていたのは1977年から80年にかけて放映された第2シリーズで、再放送ではなかったかと思う。「サザエさん」のような長寿アニメとはちがい放映期間には開きがあるが、何度も再放送されているせいか、「国民的アニメ」の一つといっていいほどよく知られた作品であることはまちがいないだろう。
 だが、「国民的アニメ」という言葉から連想される他の作品、例えば「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」「ドラえもん」にある必須要素がまったくない。子ども、家族、そして学校など、私たちと等身大の登場人物の日常生活そのものを描くこれらの作品とは一線を画し、成人、一匹狼、アウトローの非日常世界を取り上げた点が画期的だった。それゆえ、今なお唯一無二の存在としてアニメ界に燦然と輝き続け、TVアニメのシリーズ作品1〜4シリーズのほか、70年代から90年代にかけて劇場用アニメが、そして1989年から2013年にかけて毎年1本、テレビスペシャルが制作・放映されている。さらに最初の映像化から40数年を経て、2014年には実写映画も製作されるなど、映画でいえば「007シリーズ」に匹敵する長寿コンテンツとなっているのだ。  そんな中から選んだのは、「EPISODE:0」と銘打った1本。2002年にテレビシリーズの1作品として放映されたもので、次元大介から、ルパンと彼らがどのように出会ったかを女性記者が聞き出すという回想スタイルでストーリーが展開されていく。

 ところで、長寿作品には、その作品の確固とした作風がある。「ルパン三世」の場合なら基本はどたばたコメディ、でもちょっとハードボイルド風味がきいている、というもの。登場人物それぞれに「男の美学」を持っていて、ウェットな話やメロドラマには流されず、実写ではなかなかできない銃撃戦とカーチェイスをたっぷりと盛り込んだストーリーを誰しも思い浮かべるのではないだろうか。また、銃器や車に対するこだわりも、本作の特色の一つとなっている。
 それぞれのキャラクターもはっきりとしており、登場場面のお約束、こういうときは必ずこういう行動をとるという各個のパターンもある程度決まっている。作る側にとってはある意味「がんじがらめ」ともいえるが、その状態でそれを生かすか、あるいはそれらを壊して別の作風を目指すのかが、大きな二つの方法だろう。「ヤマト2199」などを見る限り、昨今は後者に走るクリエイターが目立っているが、本作は前者のスタンスで制作され、それが見事に成功している。

 このように本作が壊さずに生かし切った作風の中で、特にスパイスをきかせているのが「ハードボイルド」風味だ。というのも本作の最大の見どころは、ルパンの相棒である次元大介がルパンを狙う殺し屋だったというところにあるからだ。「クラム・オブ・ヘルメス」を狙う泥棒ルパンと、そのルパンを阻止するために雇われた殺し屋の次元。盗みの現場でルパンを仕留め損ねたという因縁が、ストーリーを展開していく一つの原動力となっている。ルパンは次元と出会って「おまえは組織の中で生きていけるタイプじゃない」「似た者同士だ」と見抜き、自分を殺そうとしているその男と対決しながら、ついに自分の側へ引き寄せる。そして「ここに入るのが夢」という連邦準備銀行を見せて「おまえとなら、やれる」とつぶやく。繰り返し行われる銃撃戦の中で、互いの腕と流儀とを認め合った結果であり、これが本作の根幹となって全体を支えている。

 もう一つの軸となっているのは「組織」に対する「個」の力、というアプローチである。2つにわかれたお宝の所有者のうち、一人はマフィアのボスであり、闇の組織を使ってルパンを退治しようとする。もう一人は大富豪で、お宝を守るために警察組織が動員される。こうした組織に対して、あくまで「個」の力で立ち向かい、彼らを出し抜く、その爽快感こそ、本シリーズの醍醐味であり、それがこの作品でも強く意識されている。特にそれが表れているのは、銭形警部の描かれ方であろう。彼は本来組織の側の人間だが、組織の中で目的達成のために「個」を貫き、ニューヨーク市警の中で唯一、お宝を盗みおおせたルパンに手錠をかけ得た人物となった。

 こうした「個」としての自分の美学を貫き通す姿こそ、「ルパン三世」の最大の見所ではないか。本作ではルパンと次元大介、峰不二子、石川五ェ門、銭形警部との「ファーストコンタクト」を、それぞれのもつ「流儀」と「美学」を見せながら、一つの大きな「仕事」の中で描き切った。ルパン対次元だけでなく次元対五ェ門との対決や、定番となっている不二子の色仕掛けや裏切りも見せてくれうえ、銭形とICPO、石川五ェ門とアノ必需品など、「あ、それも!』と思わせるものとの出会いも盛り込まれており、「よく、これを一つの話にまとめたな」と脚本の巧みさに唸らされた。

 そしてラストには、「あっ」と驚く一ひねりが待っており、最後に流れる78年バージョンの「ルパン三世」のテーマを聞いていると、この一作が与えてくれたひとときの夢が「お宝」のように思えてくる。みんながある意味知り尽くした長寿作品の「素材」の味を最大限に引き出した、本シリーズ「お宝」の一本である。

 主要キャラクターの声優陣は、1995年に亡くなったルパン役の山田康雄が、もともとモノマネをしていた栗田貫一に変わっているが、ほとんど違和感なく見ることができた。ただ、峰不二子役の増山江威子はさすがにちょっと厳しいものを感じた。しかしこの長寿作品を40年以上に渡って支え、キャラクターに命を吹き込んできたのはこの方たちである。キャラクターの美学を声にのせた、しびれる演技をありがとう、と言いたい。

評点 ★★★★★

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