MUDDY WALKERS 

ルパン三世VS名探偵コナン 

ルパン三世VS名探偵コナン 2009年 日本 120分

監督亀垣一
脚本前川淳

出演
栗田貫一/小林清志/井上真樹夫
増山江威子/納谷悟郎/高山みなみ
山崎和佳奈/神谷明/山口勝平
堀江由衣 ほか

スト−リ−

 ヨーロッパの小国、ヴェスパニア王国。狩猟中の事故でサクラ女王が撃たれ、自分がキツネと間違って女王を撃ったと思った王子が自殺。まだ10代の王女ミラが王位を継承し、女王に代わって東京のサクラサクホテルでのレセプションに出席することになる。そんな中、ルパン三世は次元大介が軍事顧問を務めるヴェスパニア王国へやって来た。狙うお宝は秘宝「クイーンクラウン」、ではなく世界的な稀少鉱物、ヴェスパニア鉱石であった。
 その頃、来日したミラは何者かに毒殺されかけたところを、江戸川コナンと毛利小五郎に助けられる。そこで自分と瓜二つの女子高生、毛利蘭と出会う。ミラは蘭と衣裳を交換し、峰不二子とともに東京でつかの間の自由を楽しむことに。一方の蘭はミラの身代わりにヴェスパニア王国へ連れて行かれることになり、コナンは彼女を助けるべく特別機に侵入するが・・・

レビュー

 日テレ開局55周年+読売テレビ開局50周年の記念企画として、両局の人気番組のクロスオーバー作品が生まれた。それが「ルパン三世VS名探偵コナン」で、前編の本作が2009年にテレビ放映され、後編は2013年に劇場公開された。そうとは知らず、後編の劇場版を先に視聴してしまったことを、断っておく。

 ヨーロッパの小国、ヴェスパニア王国では、王家の一族は伝統的に狩猟を楽しむようである。ジラード公爵に誘われ、第一王位継承者のジル王子は狩猟に出かけ、母のサクラ女王をそれを木陰から見守っていた。自然を愛する女王は動物愛護の観点から狩猟には反対していたのだ。そこで悲劇が起こる。ハンターに狙われそうなキツネに「逃げて」とささやきかける女王が、キツネと間違えられて撃たれてしまったのだ。誤射したジル王子はその場でピストル自殺してしまう。王位はその妹のミラに継承されることになるが、王都では大混乱が起こっていた。ミラは不適格だと市民がデモを起こしていたのだ。

 ほんの導入部だが、王都の市民以上に、見ているこちらは大混乱に陥る。女王の絵柄と王子、王女の絵柄があまりにも違いすぎるからだ。女王のキャラクター造形は至って普通なのに対して、王子と王女はモロに「コナン」絵で、まるで別作品からとってきたようなキャラにしか見えないのだ。その理由は、ミラが東京のレセプションに参加する場面になれば、すぐわかる。蘭と瓜二つ、という設定があるためだ。この二人が「入れ替わる」ことで、ルパン三世がお宝を狙うヴェスパニア王国にコナンと毛利を来させて、女王と王子の死の真相を探るという推理のプロットが成立した。最初の作画上の混乱を乗り越えれば、無難に楽しむことができるストーリーとなっている。

 ルパンとコナンは作劇のテンポがもともとかなり違っており、本作はどちらかというとコナンのテンポで進むため、やや冗長に感じられる部分もなきにしもあらずで、コナンとルパンが合流する流れを作るのにかなり苦労したのだろうなと思わされるが、10歳児向けアニメとして作られていることを考えれば十分である。しかし、せっかくルパンとコラボするなら、作画も含めてもう少し「背伸び」した大人っぽい話にしてもよかったのではないだろうか。

 コナンがルパン一味のいるヴェスパニア王国にたどり着いてからは、ようやくコラボが本格化。そこでようやく、冒頭の狩猟事故が事故ではなく殺人事件ではなかったか、という「謎」が浮かび上がってくる。次元大介とコナンが日本人の親子になりすまして真の犯人探しを始めると、話が面白くなってくる。次元のことをコナンが「パパ」と呼ぶなどコミカルなやり取りも楽しく、もっとここまで早くたどり着いて、こういう絡みがたくさんあればと思ったくらいだった。ただここにルパンの「クイーンクラウン」を狙う話が入り、盗みも推理もどちらも物足りない印象になったことは否めない。コナンの推理を生かすには、もう少しヴェスパニア王国の内情が描かれないといけなかっただろう。

 私が最も残念に思ったのは、冒頭のヴェスパニア王国の狩猟の場面の描写である。優雅な貴族の趣味であり、ここを丁寧に描くことで、王家の一族の関係性や王国の歴史と伝統、自然豊かな国土の風景が見せられる。これが宮崎駿監督であれば、と思わずにはいられなかった。なにしろ、王宮の建物が、どう見てもイスラム寺院のアヤソフィアなのだ。狩猟の場面はのちの謎解きにつながる重要なポイントでもあり、ヨーロッパ的な雰囲気たっぷりの場面でもある。作品づくりのベースとなる舞台設定の下調べといった、地味な部分が弱いのだろう。10歳児向けであっても、いやだからこそこういうところはしっかりしてもらいたいと思った。

評点 ★★★

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