MUDDY WALKERS 

K2 愛と友情のザイル(ハロルドとテイラー) 
K2 THE ULTIMATE HIGH

K2 1991年 アメリカ 111分 監督フランク・ロッダム
脚本
パトリック・マイヤーズ
スコット・ロバーツ

出演
マイケル・ビーン
マット・クレイヴン
レイモンド・J・バリー
ルカ・バーコビッチ
パトリシア・シャーボノー
藤岡弘

スト−リ−

 弁護士のテイラー・ブルックス(マイケル・ビーン)と物理学の大学教授ハロルド・ジェームソン(マット・クレイヴン)は親友である。しかし二人の性格はまったく違う。テイラーは女遊びの激しい独身で、仕事でも趣味でも、汚い手を使ってでも自分の望みを果たそうとするエゴイスト。一方のハロルドは妻子ある身で家庭を大切にしようとしているが、家に仕事を持ち帰る勤勉家でもある。そんな二人をつなげているのが「登山」という趣味である。2人でアラスカ・マッキンリーの登頂時間記録更新に挑もうとしていた。岩場でトレーニングをしているとき、億万長者クレイボーン(レイモンド・J・バリー)が率いる6人のパーティに出会う。メンバーの一人ダラス(ルカ・バーコビッチ)はテイラーの法学部での同級生であった。彼らは近く行う遠征にそなえて、急斜面の雪原にテントを張る実験をするという。雪崩の危険性を訴える2人の声を彼等は聞き入れず、ハロルドとテイラーは安全な岩の下にテントを張った。しかし上空を飛行するジェット戦闘機の振動で雪崩が起き、クレイボーンのテントの1つが飛ばされてしまう。もう1つのテントは、ハロルドが万が一に備えてロープをかけていたために無事だった。クレイボーン、ダラス、ジャッキー、タカネの4人を救出する2人。テイラーは死んだ2人の葬儀の場でクレイボーンをつかまえて、遠征隊に欠員が2人出たから、自分とハロルドをメンバーに入れるように言う。彼らの目標は世界2番目の高峰で最も登頂が難しいとされるK2だったのだ。クレイボーンはテイラーの強引さと傲慢さに辟易しつつも、2人を遠征隊に加えることを認めた。大喜びするテイラーだったが、この話を聞いたハロルドは「君一人で行け」という。妻のシンディと、6か月は山に行かないと約束してしまったのだ。

レビュー

 映画の中には山岳映画と呼ばれるジャンルがあるようだ。要するに山を舞台にした映画で、これもその一つであろう。しかし劇場公開時のタイトル「K2 ハロルドとテイラー」が示すとおり、これはハロルドとテイラーの物語である。K2へのアタックはクライマックスであってメインではない。その点で、山岳映画としては物足りないのかもしれないが、私はひどく感動してしまった。K2で窮地に陥ってからの2人のやりとりが見終わってからも心に残り、思い出すたびにぐっとくるのだ。この映画は低予算で作られたらしいということが、オープニングや前半部の映像にそこはかとなくただようチープさから伺い知ることができるし、物語の展開もある意味、予想どおりで意外性に欠けるのだが、“死”を予感したハロルドとテイラーが交わす言葉には、それを補って余りある美しさがあった。

 ハロルドとテイラーはトレーニングをしていた岩場で偶然、K2登頂を目指すクレイボーンの一行と出会うが、その時の雪崩事故で一行の2人が死亡してしまう。2人欠員が出たのだから、自分たちを連れて行ってくれというテイラー。他人の不幸を踏み台に、自分の夢を実現させようとするエゴイストだ。一方のハロルドは、テイラーがなりふり構わずつかみ取ってきたK2登頂のチャンスなのに「補助金の審査がある」とか「シンディと約束した」とかゴネたあげく「君一人で行け」という。テイラーに負けず劣らずのエゴイストである。ただ、自分勝手の方向が違うだけだ。この遠征までのやり取りが、K2で再度、繰り返されることになる。遠征隊の6人のメンバーのうち、高度順応障害でクレイボーンが脱落、彼につきそってジャッキーもベースキャンプに残ることになる。最後のベースキャンプからいよいよ登頂という時、クレイボーンは無線で4人のうち2人だけが登頂するよう指示。ここでチームリーダーのダラスはタカネをパートナーに選び、テイラーとハロルドはK2の山頂を前に2人待機するしかない。しかし天候が急変。2人の待つテントに戻ってきたタカネは、テントが飛ばされダラスもどこかへ消えてしまったことを告げて、息絶える。2人が死んで、また2人にチャンスが回ってきたのである。ハロルドとテイラーは24時間以内に戻るという条件で、K2登頂を目指し、見事に夢を実現させる。しかし下山時に2人は滑落、ハロルドは足の骨を折る重傷を負って歩けなくなってしまう。再びあのセリフをハロルドが言う。「君一人で行け」。

 「聞いていた通りだ、愛は高くつきすぎる」。最初に予定していたマッキンリーへ行けないとハロルドが言ったとき、テイラーはこう言う。妻子あるハロルドは、家族のために自由を犠牲にしなければならない。これはそんなハロルドに対する皮肉だったが、K2で彼が歩けなくなったとき、今度はハロルドがテイラーに同じ言葉を言うことになる。愛とは言葉ではなく、ときには犠牲さえ伴う行動だ。だから「愛は高くつく」のだ。そして命を救うことができるのは犠牲を伴った愛の行為だけである。

 「エゴで登る。愛で下りてくる」というこの映画の公開時のキャッチコピーはすばらしい。しかし、それにしてはサブタイトルがダサい。ビデオ化されたら、「愛と友情のザイル」などという更にダサいサブタイトルになってしまった。ビデオのパッケージも最悪である。北米版ではDVDも出ているが、そのパッケージはかっこいい。タイトルもスキーブランドのK2みたいなカッコイイロゴになっているし、サブタイトルも「THE ULTIMATE HIGH」(究極の高さという意味)と実に良い。この高さは、単にK2の高さのことだけを言っているのではないのだ。

 主演のマイケル・ビーンは彼にしては珍しいハイテンションな役柄だが、悲観的なハロルドを演じるマット・クレイヴンととても良いコンビで、二人のやりとりを見るのが楽しかった。登山シーンのロケは、K2へのアプローチは実際にヒマラヤで、そして雪山になるアタックのパートはカナディアンロッキーのワディントン山(4,041m)で行われている。たいへん美しく迫力のある映像で、山好きの人にはたまらないだろう。しかし女同士だったら昼下がりのスタバで言えるようなことを、あんな場所で、あんな状況にならないと言えないなんて、男ってほんまにアホやな、と思う。そのアホさ加減を私は好きになってしまうのだけれど。

「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない。」
(新約聖書 ヨハネによる福音書15:13)

評点 ★★★★

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇