レビュー
のっけから歌ではじまる楽しさいっぱいのミュージカル。チビでデブだけど明るく前向きな女子高生が、そのひたむきさを武器に夢と恋を勝ち取って行くというストーリーは、一昔前の少女漫画そのもの。これを60年代のファッションに歌とダンスが全開で繰り広げられるのだから、楽しくないわけがない。
クリストファー・ウォーケン演じるおもしろグッズの店の主人のパパと、ランドリーを営む巨漢のママというカップリングがユニークで、そこには、アメリカが、アメリカ人はかくあるべしという理想のアメリカ人からはずれた“その他大勢”に対する温かい視線が感じられ、とても気持ちがいいのであった。
体重と体型へのコンプレックスから引きこもりになってしまったママに対して「人と違うことがいい、それが60年代」「新しい時代へようこそ」と歌うとレイシーの姿には清々しさが感じられ、その態度には大いに元気づけられた。
作品のテーマは「人種差別」で、主人公のトレイシーは才能でチビデブというハンディを押しのけて人気番組のレギュラーになるものの、月に一度黒人向けに黒人が出演する「ブラックデー」が廃止されることになり、人種差別撤廃を求めてデモを決行するという、重い内容を含んでいる。それを、明るく楽しく夢一杯の青春ミュージカルとして仕立て上げる手腕は、さすがエンターテイメント大国アメリカだな〜と、関心させられるのであった。
ただ、そこで逆に「これはどうなんだろう」と思うところもあった。人種差別撤廃を訴えながら、主人公とその恋人はどちらも白人である。そんなところから感じたのは、その実この手のエンターテイメントというのは、人種差別をも克服した白人の正義、あるいは政治的正さを讃えるものになっているんじゃないか、ということである。ハリウッドにおいて、黒人、中国人、日本人などのマイノリティはある種のステレオタイプというか、あらかじめ割り当てられた白人のイメージに合致する役割を演じなければならないという宿命を負わされている。そういったタイプの典型ともいえる映画を観た気がしたのだ。
内容的には「ドリームガールズ」に似ているが、その点では「ヘアスプレー」の方に私は古さを感じてしまった。昨年アカデミー賞で話題になった「ドリームガールズ」「硫黄島からの手紙」は黒人、日本人が出演者の大半を占め、だからこそアメリカの政治的正さを揺るがす視点を感じさせてくれたからだ。どちらのタイプが正しく、どちらのタイプが間違っているということではないが、「ヘアスプレー」の中に出て来た“新しい時代”というキーワードに反応して、逆にこのようなことを感じたのであった。
評点 ★★★★ |