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HACHI 約束の犬 HACHI:A Dog’s Tale

HACHI 約束の犬 2009年 アメリカ 93分

監督ラッセ・ハルストレム
脚本スティーヴン・P・リンゼイ

出演
フォレスト、レイラ、チーコ(秋田犬)
リチャード・ギア
ジョアン・アレン
ケイリー=ヒロユキ・タガワ
サラ・ローマー
ジェイソン・アレクサンダー
エリック・アヴァリ

スト−リ−

 山梨県にある寺の住職が、秋田犬の子犬を航空便でアメリカに送り出した。しかし空路、鉄道を経由する途中で送り状が紛失し、とある駅についたとき、子犬は迷い犬となってしまう。そこに偶然通りかかった大学教授のパーカー(リチャード・ギア)は、一日だけのつもりで保護して家に連れて帰るのだが…。

レビュー

 言わずと知れた「忠犬ハチ公」の物語を、舞台を現代のアメリカに移してリメイク。主演はリチャード・ギアだが、本当の主演はもちろん、ハチを演じた秋田犬である。  亡くなった大学教授の飼い主を慕って、毎日駅まで迎えに行き、帰りを待つ犬がいた。たったそれだけの話、といってしまえばそれまでで、正直のところ侮っていたのだが、これがいけなかった。まず、ハチを演じる秋田犬がすばらしい。3匹の犬が、それぞれの性格などに合わせて場面ごとに演じているというのだが、とにかく、犬というのは人間のように演じるということをしないから、その仕草や動作が自然すぎて、ただ、もう犬というだけで引き込まれてしまった。

 大学教授のパーカーは元々犬好きだったようで、迷い犬になっていた秋田犬の子犬を家に連れて帰る。しかし妻は以前飼っていた犬を亡くしたことが辛かったようで、犬を飼うことには反対だった。やむを得ずこっそり面倒を見始めたパーカーは、犬の首輪についていた札に書かれた「八」にちなんで、ハチと名付けてかわいがる。ハチを飼うことをやがて渋々ながら認めた妻。ハチはパーカーになついてどこへでもついてくるようになり、やがて毎朝駅まで一緒に行き、そして夕刻には一人で駅まで迎えに行くのが日課となった。  このハチがパーカーになつき、交流を深めていくプロセスが、犬好きならずともたまらない。子どもを育てるように愛情をもってしつけをし、散歩をし、一緒に時間を過ごす。犬を飼うことの楽しさ、犬とともに暮らすことの素晴らしさがたっぷり表現されていて、しかも、秋田犬ならではの、ちょっと無骨で不器用だけど、だからこその魅力といおうか、そんなものが満ちあふれていて、思わず笑みがこぼれるのであった。しかし、この先どうなるかも知っている。ある朝、不思議にいつもと違って出かけるパーカーに付き添わず、むしろ引き止めるような仕草を見せるハチ。悲しい別れが近いことを悟っているかのようなその場面に、胸がしめつけられる思いだった。

 前半の楽しく愛らしさに満ちた描写のあとで見る、一人になったハチの姿はとてつもない寂しさでいっぱいである。私も犬を飼っていたことがあり、ただひたすら待ち続けるハチの姿にはいたたまれないものを感じた。ハチの待ち続けた時間は、映像化されてみると、ものすごい重みがある。その絆の強さを思うとともに、このように絆を大切にしてくれる「彼ら」の人に対する信頼を、決して裏切ってはならないとつくづく感じた。

 正直、わかっていてもラストは悲しく、涙なしには見ることが出来なかった。しかも、飼っていた犬を亡くしたこと、その犬と過ごした日々のことが思い出されて、しばしの間落ち込んでしまうほどだった。ペットを失ったばかりの人、その悲しみをどこかに引きずっている人には、見るのが辛い映画かもしれない。けれども、明るく希望の持てる最後の場面に、静かにその悲しみも癒されていくのも確かである。

評点 ★★★★ 

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