MUDDY WALKERS 

グロリア Gloria

グロリア 1980年 アメリカ 120分

監督ジョン・カサベテス
脚本ジョン・カサベテス

出演
ジーナ・ローランズ
バック・ヘンリー
J.C.クイン
ジョン・アダムス

スト−リ−

 貧しいプエルトリコ人で6歳になるフィルは、マフィアの会計係をしている父親がFBIやCIAに情報を売っていたことがばれ、拳銃を持った男たちがアパートに踏み込んでくる。ちょうどそこに「コーヒーを飲ませて」とやってきたグロリア(ジーナ・ローランズ)に、会計情報を書き込んだ手帳を持たされたフィルがゆだねられる。グロリアはフィルの母親の友達だったのだ。フィルと手帳が消えたのを知ったマフィアの男たちと、幼い少年を連れた「子供嫌い」のグロリアとの追跡劇が始まった!

レビュー

 母性愛に目覚めた娼婦が組織に立ち向かう!というので、もっとバイオレンスっぽい映画を想像していたのだが、予想に反して、すごく「おしゃれ」な感じの映画だった。カラフルな水彩画の上にキャスト名をのせていくオープニングからして、アーティスティックでかっこいい。そしてニューヨークの街並みの空撮から一台のバスをクローズアップしていく、そのカメラワークで自分も街の一人になった。

 情景描写がなく、いきなり物語は始まっている。グロリアが娼婦だということも、そういう説明があるわけではない。だから、ちょっと何が起こっているのか分かりにくいし、最初はだれに感情移入していいのか戸惑うのだが、その戸惑いぐあいというのは、ちょうど大嫌いな子供を突然押しつけられたグロリアの感情とリンクしているんじゃないかと思う。はじめのうちは、子役がちっともかわいくないこともあって、見ていてイライラしどおしだった。パンプスで走り回っているグロリアを見ているだけで、疲れてしまうのだ。

 追跡といってもいきなり盗んだ車で走り出してカーチェイスがはじまる・・・なんていうありがちな展開ではないのが面白い。逃げる手段がタクシーだったり地下鉄だったりする。さすがニューヨークだ。だけど、それでも追っ手が来る。あんな大都会にいたら、すぐにでも人混みにまぎれて、どこに行ったか分からなくなりそうなのに…。そこに、かえってグロリアが刃向かっている組織の大きさが見えるということか。

 しかしこの映画の見どころはそういった追跡劇というよりも、逃げる側になったグロリア自身と、グロリアとフィルとの間の関係だ。グロリアには、フィルを助ける義理は何もない。しかも、フィルは6歳のくせに頑固だは言うこときかないわ、かわいげないわ、裏切るわ。子供嫌いが子供は嫌いと思う要素をすべて持っていたりする。グロリアは、そんなフィルに対して「かわいそう」なんて同情心は持たない。持っていたとしても、それを表すことはない。あくまでフィルを一人の男として扱うのだ。父親が「男になれ」と行って彼を一人家族から引き離した通りに。6歳を男にしてしまう女、か・・・かっこいい!
 マフィアのボスとおぼしき男に「母性愛か」と言わせているが、多分そうではないだろう。突然一人ぼっちになってしまった人間が、本当に自分を必要とし、自分に必要な人間を見つけたのだ。

 惜しいのは、子役の男の子の演技が一本調子だったこと。彼がもう少しうまかったら、グロリアの言葉にはしない心情ももっとくっきり浮かび上がっただろう。それにしても、こんなかっこいいオバさんになりたいものだ。たとえ相手が6歳の子供でも、ちゃんと毎日ドレスアップして逃げる。こげついた目玉焼きをフライパンごとゴミ箱に捨てる。そんなちょっとした行動に、この女の生き様を見た気がした。

評点 ★★★★

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇