MUDDY WALKERS 

エクソシスト THE EXORCIST 

エクソシスト 1972年 アメリカ 122分

監督ウィリアム・フリードキン
脚本W・ピーター・ブラッディ

出演
エレン・バースティン
リンダ・ブレア
ジェイソン・ミラー
マックス・フォン・シドー

スト−リ−

 イラク北部の古代遺跡で、考古学者でありカトリックの聖職者でもあるメリン神父(マックス・フォン・シドー)が発掘を行っていた。そこで古代の悪魔パズズの像を発見し、メリン神父は不吉な予感に襲われる。
 その後しばらくしてからのこと。アメリカ・ワシントンで映画撮影のため一軒家に仮住まいしていた女優のクリス(エレン・バースティン)は、屋根裏から聞こえる異様な物音に悩まされていた。家の管理人に調べさせるが、何も見つからないという。しかし、やがて一人娘のリーガン(リンダ・ブレア)が奇妙な行動を始めるようになる。クリスの誕生パーティで、たくさんのゲストが集まる前で、妙な言葉を口走ったかと思うと、突如放尿したのだ。日に日におかしくなっていくリーガンを何とか助けようと、クリスは大病院の施設でありとあらゆる検査を受けさせるが、原因ははっきりしない。そして最後に医師からすすめられたのは、エクソシスト(日本語で悪魔祓いの意味)であった。

レビュー

 この映画が封切られた時、私はまだ7歳だった。当然のことだが、封切り当時はこの映画を知らなかったし、興味もなかった。しかし、小学5年生ぐらいのときには、話題になっていたように思う。『オーメン』や『八つ墓村』など、コワイ映画が目白押しだったのだ。そんな中でこの映画『エクソシスト』もコワイらしいとうわさになっていた。実際に見た人がいたかどうかは疑わしいが。

 ホラー映画は好きではないが、今になってようやくこの映画を観てみようと思ったのは、「エクソシスト」という言葉の意味を知ったからである。英語で「悪魔祓い」を意味するのだが、自分がクリスチャンになり、実際に、教会で“悪霊を追い出す”ようなこともあると聞いて、俄然興味を持ったのだ。この映画が、「メリーランドの悪魔祓い事件」という実際に起きた事件をもとに作られたということも、興味をかきたてられた理由の一つだった。そんなこともあって、ブックオフで中古DVDを見つけたとき、これはチャンスだと思って購入した。

 悪魔に取り付かれた少女が放尿したり、首を360度回転させるといった描写ばかりが喧伝されてきたこの映画だが、実際に見てみて「百聞は一見に如かず」ということを実感させられた。人から伝え聞いた印象とは裏腹に、この映画は、見た目のグロさではなく、物語の展開と、リーガン、そしてクリスが追いつめられていく状況から「恐怖」とは何かを描き出していく、たいへんスタイリッシュな映画なのである。

 映画は、イラクの古代遺跡発掘から始まる。砂漠に落ちる夕陽の中に、メリン神父と悪魔パズズのシルエットが浮かび上がって、そのシーンは終わる。ほどんとセリフのないシーンだが、来るべき悪魔との対決を予感させ、大いに期待が盛り上がる。

 そして画面はワシントンへと切り替わる。この街で撮影をしながら暮らす女優クリスの華やかな日常と、年老いて精神を病んでいる母をどうすることもできずにいる、若い神父カラスの鬱屈した日常が淡々と描かれる。恐怖を感じるような場面はなかなか現れないが、最初に焼き付いた悪魔と神父との対決のイメージがあるために、見る者は、それぞれの人物の中に、対決を探しながら見ていくことになる。リーガンに取り付いた悪魔との直接対決は映画のクライマックスだが、そこに至るまでに、様々な葛藤が描かれるのだ。そして、心理的に追いつめられていく様こそ、この映画で描かれた真の恐怖であろうと思う。

 のちにディレクターズカット版が出て、未公開シーンが付け加えられた。それには賛否両論があるが、私としては1点、ディレックターズカット版がすぐれているところを見つけた。それは、メリン神父とカラス神父が、「エクソシスト」の合間の休憩で、会話しているシーンが挿入されているところである。短い会話だが、その中に深い真理が語られている。このセリフがあることで、映画がより深いものになったと思う。

 この映画はオカルト的ととられがちだが、悪魔祓いの専門家として、イエズス会神父が監修にあたり、2人の神父が実際に神父役として登場している。作られたホラーでなく、実話をもとにした話であり、そして丁寧に登場人物の心理を描いたことで、単なるセンセーショナルなホラーに終わらず、年月を越えて人の心を動かす名作となった。今見るならホラーとしてでなく、ドラマとして見るのがおすすめかもしれない。

評点 ★★★★★

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