レビュー
登山家を追いかけるカメラマン、深町が、マロリーがエベレストに実は初登頂していたかも?という証拠のフィルムが残されているかもしれないカメラを手にいれ、そこから羽生丈二という孤高の登山家にたどりつき、結果的に、この羽生の「エベレスト南西壁冬季単独無酸素登頂」という挑戦を追いかけることになる、という話。それだけみれば結構面白そうな話に思えるのだが、とても展開がありきたり、かつ散漫で、見始めて5分もすると眠くなってきてしまった。
原作は未読だが非常に長大な小説らしい。おそらくその中にあったであろう要素が、以下のように散りばめられている。
(1)ジョージ・マロリーの遺品のカメラ。
マロリーは1924年、エベレスト登頂目前で遭難死したイギリス人登山家で、1999年に遺体が発見されて以来、登頂目前だったのか、あるいは登頂した後に命を落としたのかが謎とされている。カメラには、その謎を明かすフィルムが残されているかもしれない。
(2)マロリーのカメラを手に入れた男、羽生丈二。
天才登山家、羽生の栄光の登攀記録と傍若無人で独善的な態度で孤立するまでの過去。
(3)羽生丈二はザイルを切ったのか。
天才登山家、羽生のザイルパートナーを務めた岸が命を落としたのは、羽生が宙づりになった岸を助けず、そのザイルを切ったからなのか。羽生はそれ以前、もしそのような状態になったら迷わずザイルを切ると公言していた。
(3)羽生の「エベレスト南西壁冬季単独無酸素登頂」挑戦。
映画では、マロリーのカメラを手に入れたことをきっかけに、深町というカメラマンが羽生という男と出会い、その挑戦をカメラに収めるべく彼を追いかけることになるのだが、そこに、なぜか羽生が一時期交際していた女性が絡んできて、話が冗長になっている。羽生の波瀾万丈の登山人生は、彼がなぜ「エベレスト南西壁冬季単独無酸素登頂」にこだわるのか、を語るためには重要だと思うが、ライバルたちの回想でさーっと流されるだけで、なかなか羽生の人物像がつかめない。しかも、結局深町は羽生の挑戦の立会人になる、というだけで、二人をつないだマロリーのカメラの謎も明かされず、羽生は登頂したのかどうかもわからずに遭難死してしまう。最後は、なぜか登山はド素人のカメラカン、深町が羽生の後を追ってエベレストに登るという展開。クライマックスが深町の下山というわけのわからない事態となり、呆然としたまま映画は終わる。
深町が追いかける羽生は、実在した登山家、森田勝をモデルにしているようだ。しかし、問題がある。森田勝が活躍したのは1970年代で、当時エベレストは最高の登山家がその頂上を目指す「最高峰」の山だった。しかし今は違う。1990年代に商業登山のガイドツアーが始まり、登山ビジネスの場となっている。羽生の挑戦に「エベレスト南西壁冬季単独無酸素」というたくさんの条件がついているのは、その条件以外では初登頂の栄誉に預かれないからだ。しかし、では今活躍している最高峰クライマーたちは、それを目標としているのか、というと、そういうトレンドはもう過ぎ去っているようである。羽生のチャレンジは、何となく時代遅れな気がしてしまうのだ。
もう一つ、こういう映画を見ようと思う人たちは、やはり登山家としての生き様に憧れてという部分があると思うのだが、では振り返って羽生というキャラクターに、登山家としての魅力があるか、それが描かれているか、登山をする人が共感できる部分があるか、
結論としては、1990年代に連載されていたという原作は面白かったのかもしれないが、今の時代にそのまま映画化するには時代遅れの作品だったということと、もし映画化するなら大胆な再構築が必要だっただろうということだ。その辺り、そもそも企画の段階で映画化の是非を見極めるべき作品だったかもしれない。
評点 ★
映画レビュー|
http://www.muddy-walkers.com/MOVIE/everest_k.html
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