レビュー
突出した才能のある人が、必ずしもその分野で成功できるとは限らないのは日本でもフランスでも同じのようで、主人公のジャッキーは、その料理への情熱とこだわり過ぎる性格が空回りして、客とトラブルを起こしては店をクビになっている。彼が完璧にそのレシピを暗記しているアレクサンドル・ラガルドと、そのうち出会うんだろうな、と予想はつくが、その出会い方が、すごくよかった。監督は、すごく料理や料理にかかわる人を愛しているんだろうな、と思える出会い方だった。
どのレストランでもうまくいかず、老人ホームの壁のペンキ塗りという仕事で日銭を稼ごうとするジャッキーだが、それでも料理となると目を離せなくなり、もっと美味しく作るために口を出さずにはいられない。ペンキを塗りながら厨房の窓から中をのぞき、素人上がりの３人の料理人が、ホームの老人たちに出す料理をする様子を見ながら、ついにあれこれと指示をし始めてしまう。
もう一方の主人公というべき、三ツ星レストランのシェフ、ラガルドはテレビの料理番組も持つ人気シェフだが、実は彼も順風満帆ではない。ラガルドの名を冠したレストランには別に社長がおり、安い輸入食材を使えとか、もっと最先端の店にしろとかいろいろと指図をしているのだ。近々、審査員（名前は出ないけど、誰がどう見ても○シュランですね）が来店するらしいと聞きつけると、もし星の数を落としたらクビにするとさえ言い渡す。ラガルドの作る伝統的な高級フランス料理を「古くさい」と思っているらしく、信頼していた右腕シェフ２人もそれぞれ店を持たせて独立させてしまった。それでも自信満々に見えるラガルドだが、内心は料理に対するひらめきを失っていて、老人ホームに入居している友人に、相談に訪れる。そう、そこに出会いがあるのだ。ジャッキーに、ではない、自分のレシピを完璧に仕上げ、さらに新しさを加えたスープの味に。
この２人はいわゆる師匠と弟子の関係なのだが、とにかくどちらも自分がこうだと思ったら譲らない頑固な性格。ラガルドが、自分の名を冠したレストランで「私のレシピを勝手に変えるな」と激怒するのはある意味当然だが、それでもジャッキーは譲らず「こうした方がいい」と変えてしまう。そんなやり取りにはハラハラしながら笑わせてもらったが、結局、その師匠と弟子との味をめぐるバトルに決着をつけるのは、客の評価だというところが面白かった。
話はそれだけでは終わらない。とうとう、星をつける審査員が来店するというのだ。しかも、その審査員らは伝統的な料理はあまり好みでなく、最新流行の料理法を好むという情報が入ってくる。「分子料理」といって、調理を物理的、化学的に解析した上で編み出された料理法だ。ラガルドは、背に腹はかえられぬ、とばかりにその「分子料理」なるものを出しているレストランに、ジャッキーとともに変装して視察に出かける。
こうして、大御所と新鋭のシェフの「対決」の次には、フランスの伝統料理ＶＳ最新の分子料理の戦いが始まってクライマックスを盛り上げてくれるのだが、「分子料理」という、フランス料理の持つ優雅さ、華麗さ、豊かさとは真逆の語感と、まるで「スタートレック」か何かのＳＦ映画に出てきそうな未来的料理の数々が個人的にツボにはまって、私は笑いが止まらなくなってしまった。（ちなみにこれは映画の中のギャグなのか、と思って調べてみたら、本当に、そんな料理があるのである！）
この最新「分子料理」との格闘が、どういう結果をもたらすのか・・・は本作を見てのお楽しみにしていただくとして、見終わった後幸せな気分になれるのは、ギャグのネタかと思った分子料理も含めて、みんながそれぞれに「いい味」を出した結果ではないかと思う。それにしても、ラガルドがメイン、ジャッキーが助手を務める料理番組は、２人のいい持ち味が絡まって、最高のオチ！
欲を言えば、もうちょっといろんな料理が見たかったのと、あと１０分プラスして、最初のジャッキー料理が老人ホームで好評を博していくまでの様子を描いてくれるとよかったかな？
評点 ★★★★
http://www.muddy-walkers.com/MOVIE/chef.html映画レビュー｜シェフ！ 〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜
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