MUDDY WALKERS 

恋愛小説家  As Good As It Gets

恋愛小説家 1997年 アメリカ 138分

監督ジェームズ・L・ブルックス
脚本
マーク・アンドラス
ジェームズ・L・ブルックス

出演
ジャック・ニコルソン
ヘレン・ハント
グレッグ・キニア
キューバ・グッディング・Jr

スト−リ−

 ニューヨーク、マンハッタンの高級アパートに暮らすメルヴィン・ユドール(ジャック・ニコルソン)は恋愛小説家。ところが実際にはロマンスとはまったく無縁の偏屈な頑固オヤジで、おまけに極度の潔癖性。隣りに住む画家と画商のゲイカップル、サイモンとフランク(グレッグ・キニア/キューバ・グッディング・Jr)とは争いが絶えない。ところが、サイモンが強盗に襲われて重傷を負ったことから、半ば押しつけられた形で彼の愛犬バーデルを預かることに。最初はいやがっていたユドールだが、どういうわけか、バーデルといると心に安らぎを感じるようになる。そして、毎日通うカフェに連れていくと、目当てのウエイトレス、キャロル(ヘレン・ハント)と話すきっかけもできた。彼女はシングルマザーで喘息持ちの息子がいることを知ったユドールは、キャロルが息子の面倒を見るために家から近い職場に変わろうとすると、自腹を切って名医を紹介。思わぬ親切に戸惑うキャロルだが、感謝の気持ちを伝える彼女に、ユドールは毒舌で応えることしかできず…。

レビュー

 恋愛小説家という職業とは裏腹に、まるでロマンティックな会話ができない毒舌オヤジのジャック・ニコルソンがいい。極度の潔癖性で、家に帰ったら必ずドアのカギを5回回す。熱いお湯に、新品の石けん2個を使って手を洗う。カフェにはプラスチック製のナイフとフォークを持参、歩くときには歩道の継ぎ目やひび割れを避ける…と、やっていることが微妙におかしい。カフェのウエイトレス、キャロルへの執着ぶりも、ストーカーじみていて気持ち悪い。こういうキャラをラブコメの主役にするところも面白いが、しっかり感情移入させてしまうジャック・ニコルソンはやっぱりすごい。それは毒舌や時には差別的ですらある言動が、かならずしも本心ではないことをしっかり分からせてくれるからだ。

 ストーリーはものすごく単純で、ユドールが目をつけているウエイトレスのキャロルと心を通わせてゆくまでを描いたラブコメディだが、ユドール、キャロル、そして二人と絡むゲイのサイモンと、それぞれのキャラクターが実に深く掘り下げられている。大人の恋愛というと、とかく「なかなか素直になれない」意地の張り合いになりがちで、この作品でもそこを面白く描いているのだが、何気ないセリフの中に、素直になれなくなってしまった要因が暗示されていたりするから、人物像に厚みがあるのだ。最初に犬と出会わせて、憎々しいユドールのキャラに親しみを持たせる演出が心憎い(それに、犬はひそかにすごい名演! ジャック・ニコルソンに何となく顔が似ていて、パッと見かわいくないところもいい)。特に、ユドールとキャロルの間にゲイのサイモンを置いたのが良かった。ケガをしている上に強盗と破産のショックで絵も描けなくなってしまった彼は、人間関係に傷付いた大人の内面を象徴するような存在と思う。そんな彼が再び絵を描けるようになってはじめて、ユドールとキャロルとのぎくしゃくした関係も前に進み出した。

 ヘレン・ハント演じるキャロルも実にいい。生活に疲れてすっかり恋愛沙汰から遠ざかってしまったシングルマザーの「心の叫び」にはなんだかジーンとしてしまった。と同時にいくつになっても女性には、愛のこもった誉め言葉が必要なんだなと思い知らされた。分別のついた大人ぶらずに素直にユドールに誉め言葉を求めてぶつかっていくキャロルはある意味すごい。ジャック・ニコルソンとともに、そんなキャロルを好演したヘレン・ハント。アカデミー賞主演男優賞&女優賞のW受賞も納得でしょう!

評点 ★★★★

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