レビュー
「二百三高地」で大成功を治めた東映のあとに続けと、10億円の巨費を投じて東宝が製作した戦争巨編。日本海軍が誇る連合艦隊は、空母と航空機を主体とした画期的な戦法によって真珠湾を奇襲し、アメリカに、従来からの海軍の伝統的な戦いの変更を迫った。しかし連合艦隊自身はむしろ従来の大艦巨砲主義を捨て切れぬまま、ミッドウェー海戦を機に、壊滅の道を歩み始める。そうした、連合艦隊「崩壊」のドラマを軸に、息子を海軍士官として送り出した、二組の家族の悲劇が、様々な戦史のエピソードを交えて描かれてゆく。
この作品のすごさは、まさにその「連合艦隊」に焦点を当てて、ダイジェストながらその興亡の歴史を描き切ったことにある。真珠湾攻撃からミッドウェ−、レイテ沖海戦から戦艦大和の水上特攻に至るまで、それぞれが一本の映画として成り立つほどの大きなエピソードである。それを一つのストーリーとして、破綻なくまとめ切った手腕は素晴らしいというほかない。
主役となる小田切家、本郷家の人々のエピソードが、そうした大きな戦史の中に落とし込まれ、身近な市井の人々の体験した戦争として、身に迫ってくるところも秀逸である。しかし、2時間20分ほどの時間に開戦から敗戦までを詰め込んだために登場人物が軍上層部から市井の人々まで非常に多く、ドラマとしては散漫な印象になったことは否めない。
その中で、ある意味主役を食ってしまったのが、「二百三高地」で児玉源太郎というオイシイ役を持っていった丹波哲郎である。彼が演じる小沢治三郎にスポットが当てられるのは、戦艦大和が出撃したレイテ沖海戦における囮作戦である。ハルゼーの機動艦隊を引きつける役割であるが、連合艦隊の「主役」ともいうべき大和の栗田艦隊を完全に食ってしまって、その大立ち回りに目が釘付けとなった。実にうまく、また映画の「キモ」をつかむのが上手い役者である。
もう一人、印象に残っているのは、このレイテ沖で初めて実施された神風特攻隊による攻撃で、出撃していく少年飛行兵である。長門裕之演じる整備兵に、「発艦はできるけど、着艦はできません。だから、敵に突っ込んでいきます。せっかく整備してくれた飛行機を壊してしまうけど、すみません」と言って、飛び立ってゆく場面は、特攻という戦法の生まれた背景を物語るもので、涙なしにはみられなかった。
とはいえ、連合艦隊を率いる上層部から前線に赴く兵士、そして市井の人々までを一つに詰め込んだために、全体的には流れを追うのがやっとで大雑把になったことと、「陽子はきれいなままにしておいた」の一言で兄から弟へたらい回しにされる婚約者(古手川祐子)があまりにもかわいそうなので、−1点の★4つ。
評点 ★★★★ |