■アポロ１３　　Apollo13

1995年　アメリカ　140分 監督■ロン・ハワード 脚本■ ウィリアム・ブロイスルJr. アル・レイナート 出演■ トム・ハンクス ケヴィン・ベーコン ビル・パクストン ゲイリー・シニーズ エド・ハリス キャサリン・クライラン

スト−リ−

　人類初の月面着陸を果たしたアポロ１１号のニール・アームストロング船長。ジム・ラヴェル（トム・ハンクス）とフレッド・ヘイズ（ビル・パクストン）、ケン・マッティングリー（ゲイリー・シニーズ）はその予備チームだったが、アポロ１３号の正規チームに選抜され、月面着陸にチャレンジすることになる。彼らは与えられたチャンスを成功に導こうと訓練に訓練を重ねるが、打ち上げ２日前になって、ケン・マッティングリーが風疹に感染している可能性があることが分かり、急遽メンバーが交代。ケンに代わって独身のプレイボーイ、ジャック・スワイガード（ケヴィン・ベーコン）が正規チームのメンバーとなった。３人のチームでの訓練時間が圧倒的に不足する中、予定通りアポロ１３号は現地時間で１３時１３分に打ち上げられる。その船につけられた不吉な数字をジム・ラヴェルら宇宙飛行士は笑い飛ばしたが、妻のマリリン（キャサリン・クライラン）は不吉な予感をおさえることができなかった。 打ち上げは成功したが、すでに月面着陸にも成功しており、アメリカ国民の関心は薄れていた。ジム・ラヴェル船長はアポロ１３号からカメラを通じてアメリカ国民に呼びかけたが、船内からの中継を放送したテレビ局は一局もなかった。しかし状況は一変する。月に到着する直前、酸素撹拌スイッチを起動した際、爆発事故が発生。酸素タンクから酸素が漏れだしたのだ。酸素は乗務員の生命維持に必要なだけでなく、電力生成にも使われており、３人の宇宙飛行士は危機的状況に陥った。彼らに指令を送る地上の管制センターでは、３人の宇宙飛行士を無事に帰還させようと関係者全員を招集。不眠不休の戦いが始まった…。

レビュー

　 月面着陸を目指して打ち上げられたものの、爆発事故等度重なるトラブルにより帰還さえ危ぶまれ、のちに“輝かしい失敗”と呼ばれるようになったアポロ１３号の打ち上げから帰還までを描いたノンフィクション。同じくアメリカの宇宙開発史を追った『ライトスタッフ』の流れで見ると、非常に面白く鑑賞することができる。
ニール・アームストロングに先を越されてしまったジム・ラヴェルは、自分の率いるチームがアポロ１３号に搭乗すると決まって、興奮する。しかし国民の方はもうすでに「慣れっこ」になってしまい、普通の月面着陸ではもはや注目もされない。ところが事故で彼らが生命の危機にさらされ始めると、俄然マスコミの取材が集中することとなる。そんな皮肉な当時の情勢を織り交ぜながらも、「生きて帰る」ことを目標に最善を尽くそうとするアポロ１３号の３人の宇宙飛行士と、地上で彼らに指示を送るＮＡＳＡのスタッフたちの奮闘をリアルに描いた骨太なドラマが展開されていく。
　とりわけロン・ハワード監督はリアルな描写にこだわったようで、無重力シーンは実際に航空機を使った無重力状態で撮影されている。１回のフライトで得られる無重力状態は約２５秒。映画のために、およそ６００回の飛行が実施された。それが功を奏して、宇宙船内の様子にはとてもリアリティが感じられる仕上がりになっている。 　広大な宇宙に宇宙飛行士が「取り残され」て以降は、ある意味典型的なパニックムービーの流れになっていくともいえるが、次々に襲いかかるトラブルも、実話のトーンに抑えられていて、手に汗握る興奮とったものとはちょっと違った感じで進んでいく。そして最後には、実話であり「彼らは無事生還する」とあらかじめ分かっていても、やはり感動する。リアルに映し出された映画の中のその時間を、一緒に体験してきたような、そんな感動とでも言えばいいだろうか。

　ただ、物足りなさもどこかにある。例えば、宇宙飛行士たち。なぜこれほどまでに危機的状況の中で冷静さを失わずにいられたのか。そういったところの描写がもう少し深められていればと思う部分があった。映画だけ見ていると、地上で奮闘する管制官たちに比べて彼らがただ指示を待っているだけの「ただの人」に見えなくもない。実際、映画を見て思ったのは、主人公はトム・ハンクスというより地上で指揮していたエド・ハリスをはじめとするＮＡＳＡのスタッフだったのかもしれないということである。
『ライトスタッフ』との差ということになると、これはやっぱり「原作」にあるのかもしれない。『アポロ１３』の原作は当事者であるジム・ラヴェル船長によるものだが、『ライトスタッフ』はジャーナリストで作家のトム・ウルフによるものである。そこにあるのは「作家性」の差で、できれば映画監督には、原作にはない「作家性」を映画に加味してもらいたかった。実話の感動を損なわずに映画化しただけでは、やはり物足りないのが映画の奥深さというものであろう。

評点　★★★★

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