MUDDY WALKERS 

アビス 完全版 ABYSS 

アビス 1989年 アメリカ 171分

監督ジェームズ・キャメロン
脚本ジェームズ・キャメロン

出演
エド・ハリス
メアリー・エリザベス・マストラントニオ
マイケル・ビーン ほか

スト−リ−

 暗黒と寒冷と恐るべき水圧で人類を拒むアビス〈海溝〉。行方不明になった米・原子力潜水艦救出指令を受けた深海油田発掘基地"ディープ・コア"のクルーと海軍ダイバー・チーム"シール"は、その地球上の未知なる場所へと足を踏み入れた……。

レビュー

 171分という大作である。劇場公開時は長すぎるという理由で後半がカットされてしまい、わけの分からない話になったという。そこで「完全版」を観ることにした。
 海洋好きのジェームズ・キャメロンの趣味が炸裂したような作品である。米ソ冷戦時代。アメリカの原子力潜水艦が海中で何者かの攻撃を受け、海底に沈んでしまう。嵐が近づいていたため、たまたま近くの海底油田の掘削作業をしていた石油掘削基地の男たちが、救助作業に協力させられることになる。リーダーはバッド・ブリッグマン(エド・ハリス)。設計技師の妻リンジー(メアリー・エリザベス・マストラントニオ)も乗り込んでくる。二人は離婚寸前の冷え切った仲である。そして彼らを指揮するため、米海軍から特殊部隊SEALsもまた海底掘削基地「ディープ・コア」にやって来る。隊長はコフィ大尉(マイケル・ビーン)。彼はこの攻撃はソ連によるものと思い込み、沈んだ原潜から核弾頭を回収。これを使って証拠隠滅のため原潜を爆破しようと企む。彼は深海の圧力障害で手が震え出し、徐々に頭がおかしくなっていくのだ。物語は前半から中盤がコフィ大尉対石油掘削士、後半は離婚寸前の夫婦が愛を取り戻していく様子と海溝に沈んだ核弾頭の信管を切るミッション、そして深海に潜むナゾの宇宙人との邂逅というふうに展開していく。
 巨額の制作費をかけたというだけあって、映像はすごい。俳優もほとんどが実際に潜水し、水中での撮影が行われた。その映画づくりにかける労力と創意工夫には感服させられる。しかし、残念ながら娯楽として楽しむためにあまり役だっていないように思われる。正直、潜水シーンは最初は目新しく感じたものの、すぐに飽きてしまった。潜水服のせいで顔の見分けがつかないからである。また、一つ一つのシーンが長いというか歯切れが悪いというか、どうも漫然としていてテンポが悪い。凝った映像を少しでも長く見せたかったのかもしれないが、緊張感に欠け、間延びした印象になってしまった。海底の「ディープ・コア」は12時間で酸素切れになってしまうというのに、少々のんびりしすぎではないか。おまけに海上に戻る方策もないのに、クルーたちがあまりパニックに陥っているような気配も感じられなかった。
 正直、誰が敵で誰が味方か最初からはっきりしているし、密室パニック物としては非常に分かりやすい話である。それがサクサク進まないものだから、途中からどうでも良くなってしまい、楽しみはコフィ大尉がいかにして狂っていくかということぐらいになってしまった。(マイケル・ビーンのキレっぷりがいいね)
 それにしても、あの宇宙人はいかがなものか。バッドとリンジーの夫婦愛は感涙ものだが、宇宙人が登場した時点で思いっきりB級に成り下がってしまった。あんなふうにはっきり見せずに「何かいるっぽい」ぐらいでナゾのまま終わらせてた方が良かったのに…。宇宙人に思いっきりストレートに反戦・反核のメッセージを語らせていたが、そんなのはコフィ大尉の狂いっぷりと、バッドとリンジーの夫婦愛で十分に表現されていたと思う。ああいう直球のメッセージは俳優の熱演を無益なものにしてしまう。本当に惜しい作品である。

評点 ★★

<<BACK  NEXT>>

 MUDDY WALKERS◇