MUDDY WALKERS 

二百三高地

二百三高地1980年 日本 185分

監督舛田利雄
脚本笠原和夫

出演
仲代達矢/あおい輝彦/夏目雅子/新沼謙治
湯原昌幸/丹波哲郎/三船敏郎/森繁久彌

スト−リ−

 19世紀末、誕生間もない明治政府は、南下政策をとるロシアと激しく衝突していた。まだ弱小国に過ぎない日本にとってロシアは敵にするには強大すぎる存在だったことから、総理大臣の伊藤博文(森繁久彌)は戦争を避けたいと考えていたが、参謀本部の児玉源太郎(丹波哲郎)は開戦をすすめ、ついに御前会議において開戦の決議に裁可が下される。
 金沢で小学校教師を務める青年小賀(あおい輝彦)は東京に出向き、ニコライ堂でロシア語講座を受けていた。暴徒に襲われそうになっていた年若い美女、佐知(夏目雅子)を助けたことをきっかけに二人は親交を深める。しかし開戦となり、彼も出征することに。彼を慕って金沢にやってきた佐知と愛を確かめ合い、結婚の約束をした小賀は、大国ロシアとの戦いのため出征してゆくが、司令官の乃木希典(仲代達矢)が指揮する日本軍はロシア軍の圧倒的な火力の前に、死体の山を築くばかりであった。ロシアを愛し、ロシア文学を愛好していた小賀の心は、この激戦と惨状に蝕まれてゆく…。

レビュー

 1980年代といえば角川映画の全盛期。また松本零士をはじめとするSFアニメ映画も花盛りで、そういう世界に心奪われていた中学生当時の私は、本作の公開は知ってはいたが、興味はなかった。まず戦争映画というものに馴染みがなかったし、どことなく右翼っぽいイメージがつきまとうので、敬遠していたということもある。しかし、さだまさしの歌う主題歌「防人の歌」はヒットしたし、おまけに体育祭の組体操の音楽に使われたのでよく覚えている。
 NHKでドラマ「坂の上の雲」が放映されたことで、この時代の日本の苦闘は最近になって、広く認識されるようになったように思う。今回薦められてみることになったのも、そんなことで私自身の意識が変わったことも大きい。

 映画は3時間を越える大作である。南下政策をとる大国、ロシアに対してまだ新興国であった明治政府が開戦を決意し、遠征軍が編制されて中国東北部の旅順をめぐる戦いが二百三高地の占領をもって勝利に導かれるまでが軍首脳部、そして召集されて戦地に赴くことになった市井の人々の二つの視点から描かれる。一方が乃木希典将軍と参謀の児玉源太郎、そしてもう一方が主人公の小賀武志である。
 小賀は金沢で小学校の教師をしているが、ロシア文学を愛好しており、ロシア語を学ぶため休みの日に東京へ出てきて、神田にあるロシア正教の教会を訪れていた。そこで、松尾佐知という女性と知り合い、お互い憎からず思うようになる。しかし明治政府は日露開戦を決意。小賀にも召集令状が届き、出征に向けて準備が始められる。豆腐屋や女衒など、寄せ集められたのは名もない市井の人々である。人々の暮らしの情景と生活感を描き出すことで、やがて彼らが直面する戦場の無惨さが際立つ。
 彼らが赴いたのは、旅順を攻略するための戦いであった。旅順港に停泊したまま動かないロシア艦隊を攻撃するため、港を望む高地を占領し、そこから艦艇を砲撃するのが、乃木将軍率いる陸軍の任務であった。しかし、ロシアとの火力の差は歴然としており、頑丈な要塞を築き、機関銃で容赦なく攻撃してくるロシア軍に対し、小賀をはじめとする日本兵は、ただ銃剣を構えて遮二無二突撃を繰り返すよりなすすべもない。凍死するほどの寒さの中死体の山を築く日本軍。その死屍累々の光景を前に、なすすべもない乃木将軍。この哀れな最高司令官に、多くの部下を失った小賀が怒りの声をぶつける場面には、この映画にこめられた思いのすべてが集約されている。

 ダンディだがどこか時代に取り残されてしまったような哀れを感じさせる乃木将軍を演じるのは、仲代達矢。そして弱気になる彼を叱責し、大胆な作戦変更を進言してこの苦境を勝利に導く満州軍参謀長の児玉源太郎を、丹波哲郎が演じる。このキャスティングもすばらしく、丹波の演じる児玉の、胸がすくような行動力と直言が、鬱屈しそうな雰囲気を救っている。そして何と言っても仲代達矢。明治天皇に、戦果を報告する場面で死傷者数を読み上げながら、思わず泣き崩れる。その号泣で、この映画の描き出そうとしたものすべてを表現しきった。

 大規模なエキストラによる旅順要塞の攻撃など、今となっては二度と作れないのではないかという迫力の映像は、映画史上に残るといっていい。無謀な突撃が何度も何度も繰り返されれ、映画としてやや冗長にうつる感もあるが、だからこそ、あの気弱な豆腐屋がついに二百三高地に日章旗を立てるあの場面を、深い感慨を持ってみることが出来るのだ。

評点 ★★★★★

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