キャプテンハーロック

第37話「赤いセーターの涙」

あらすじ
 ハーロックに正体を見抜かれた波野はラフレシアにも見捨てられ、脱出した宇宙艇はマゾーンの攻撃を受ける。再び収容され、傷の手当を受けた静香は一人、黙々と赤いセーターを編み続ける。

Aパート:波野の正体、WX0作戦再び
Bパート:マゾーンの制裁、波野静香の死

コメント

 人間とマゾーンの間に感情的な交流は成立しうるのか、これまでのハーロックたちの行いに疑問を投げかけるような波野静香編だが、どういう理由によるものか、波野はハーロックに好意以上の感情を抱いたようである。これまでも度々その美貌を利用して人間男性の心を弄んできたマゾーンなので、波野の振る舞いも媚態と見る余地はあるが、これは根本的な部分でむしろ誤解があったのかもしれない。そうなると理不尽に殺された魔地の妻とかタレントマゾーンが哀れに思えてくる。相互理解の余地は実はあったのではないか。それに波野自身も淑やかな日本女性といった風で、色仕掛けで首相秘書にまでのし上がった女性にはとても見えないことがある。
 波野がスパイという動かぬ証拠を掴んだハーロックだが、いつもなら重力サーベルでなで斬りのはずが、なぜか宇宙艇を与えて釈放する。ラフレシアに見捨てられ呆然とする波野を一人訪ねようとしたり、気を紛らわせるためにオカリナを吹くなどハーロックの心理も揺れているようだが、銃を持って艦橋に乗り込み、舵輪を滅茶苦茶に廻す波野にも激情があり、下手なメロドラマ真っ青の愛憎劇がアルカディア号艦内で繰り広げられる。
 その風体と戦闘者としての完璧さからハーロックは完全無欠のヒーローと見なされがちだが、実は人並みに錯誤や煩悩もある一人の中年ヒーローである。波野を殺さず追放としたことは、彼が彼女を背信者ではあっても敵とは見ていないことがある。以前書いたようにサンガであるアルカディア号の乗員には追放以外の処罰はない。彼は波野を仲間と認めていたのである。
 ハーロックの心情を理解した波野は一人セーターを編み始める。セーターを編むには熟練者でも10日くらい掛かるが、元々マゾーンで手先が器用なので不眠不休で編んだセーターは3日くらいで仕上げたようである。そしてセーターを編み上げた波野は小芝居を打ち、台羽に撃たれた後、望み通りハーロックの手に掛かって息絶える。ハーロックが遺体に赤いセーターを着せ、彼一人で弔ったのは彼女に対する誠意だろう。そして波野の遺体は燃え上がって灰となり、宇宙の漆黒に姿を消す。
 波野の葬送の場面は、ハーロックの台詞として「宇宙は寒いぞ」と言う台詞が脚本にあったが、ハーロック役の井上真樹夫が収録の際に読み飛ばしたため、画面ではハーロックは無言で静香の遺体を宇宙に放っている。明らかにまずければ録音し直したと思うので、この台詞があった方が良かったかは、実は制作者にも判断できないものになっている。筆者はハーロックの心の揺れは他の場面で十分表現できていると思うので、送る台詞まで付けては未練がましく、放映通りで良いと考えている。

評点
★★★★★ 男女の心の機微を丁寧に激しく描いた秀作。



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