MUDDY WALKERS 

銀河鉄道物語

 銀河鉄道物語(2003)各話レビュー

 第25話「命の谺」(ディスティニー防衛作戦・前編)


あらすじ

 ディスティニーを発し、迫り来るアルフォート軍を迎え撃つビッグワン、新兵器コスモマトリクス砲を完成させ、アネックス要塞と共に攻撃する作戦を立てるが、錯乱したイワノフが自動要塞をアルフォート軍に突撃させる。

 Aパート: 銀河鉄道の希望、アネックス壊滅
 Bパート: ベガ小隊全滅、アルフォート第一波撃退

コメント

 銀河鉄道の本社星ディスティニーに次々と来着する宇宙列車の群れにやはり最後は銀河鉄道というこの世界の世界観が垣間見え、ある種の感銘を覚える。列車の中には707号もあり、これは第1話で有紀渉が乗客を救助した列車である。列車の中でただ一本、ディスティニーを離れていくビッグワンに車掌は「銀河鉄道の希望」と敬礼を送る。シリウス小隊はSDF司令の作戦、ディスティニー近郊を回遊する要塞アネックスが敵の目をひきつけている間にリフルから援助のあったコスモマトリクス砲を完成させ、一挙に敵を壊滅させる作戦を立てる。今のところ、アルフォート軍に通用するのは全宇宙でこの武器だけなのだ。が、司令室にはイワノフがいた。
 この作戦だが、前話でバルジが社長レイラとの面会を求めてイワノフに遮られた経緯があるが、その前後で少なくともSDF司令には事情を説明していたと思われる。ディスティニー防衛作戦は除籍されたはずのシリウス小隊、旗艦列車ビッグワンの参加を前提としたものである。そうなるとイワノフによるコスモマトリクス隠滅とバルジによる差し替えはSDF司令も承知していたことになる。が、すぐ上の階にいるレイラには報告しなかったらしい。バルジと連携したSDF司令がテキパキと防衛作戦の指揮を執っている間、社長室のレイラは宇宙壊滅におののき悲嘆に暮れていた。ホントに使えない社長である。
 イワノフの暴走で要塞が破壊され、作戦は修正を余儀なくされる。更なる時間を稼ぐため、司令はベガ小隊に出撃を命じる。しかし、先の戦いで損傷したベガ小隊の旗艦列車アイアンベルガーにはもはや戦える力は残っていなかった。気休め程度の抵抗しかできないことを知りつつ、小隊長村瀬は部下と共に戦場に赴く。村瀬の犠牲でビッグワンは主砲を完成させ、完成したコスモマトリクス砲はアルフォート艦隊を殲滅する。
 本話はバルジ、SDF司令、村瀬など個々のキャラクターの生きざまを描くことには成功しており、見応えのある話だが、戦闘それ自体は大雑把な超兵器と超兵器の撃ち合いで、ビッグワンもマトリクス砲を完成させるや否や余裕のよっちゃんで敵をしばき倒していく光景は少々安直と言える。どうもこの作品、良い所までいつも行きながら、詰めが一つ甘いのである。
(レビュー:小林昭人)

今週の被害車両・施設

  ■宇宙要塞アネックス…アルフォート軍に猪突して壊滅、全壊
  ■銀河鉄道042号(アイアンベルガー)…アルフォート軍により撃破、全滅

作品キャラ・用語紹介

アネックス要塞 
 惑星ディスティニーを防衛する銀河鉄道の全自動戦闘要塞、普段は予備操車場として使われている。全身ハリネズミのような武装を誇り、一都市ほどの大きさのある軌道ステーションとほぼ同じ大きさ形状だが、元々あまり使われなさそうな施設で、武器も古いのか、見た目はSDF最強のアイアンベルガーの主砲より大きな火器を備えながら、そのビーム弾はアルフォート艦にはまるで通用しなかった。銀河鉄道管理局はその能力を良く認識しており、自身もアクルクス小隊の隊長上がりであるSDF司令はこれをコスモマトリクス砲の完成まで敵の目を引きつける陽動として用いることを考えていた。が、上席の役員で戦闘経験のないイワノフは要塞のスケールだけで攻撃力を錯覚し、自動操縦で要塞を突撃させてあっけなく破壊されるという愚策を演じた。このことに怒ったSDF司令はイワノフに銃を突きつけて拘束したが、要塞の能力を考えるに、仮に司令の作戦通りに用いられたとしても、時間稼ぎに十分な時間を稼げたかどうかは微妙なところである。なお、「アネックス」とは、ホテルなどでは「新館」という意味。

ベガ小隊 
 戦前の南満州鉄道の特急列車「あじあ」号をモチーフにした旗艦列車アイアンベルガーを駆るSDF小隊。携行車両丸一両分の大きさを持つ列車砲「素粒子砲」を持ち、その火力はビッグワンを凌ぐSDFの重装部隊。ビッグワン、フレイムスワローと共にSDF三小隊として各地の事件で活躍したが、アルフォート軍との緒戦で素粒子砲を破壊され、機首の衝撃砲とSPG列車砲「グスタフ」の重連編成でコスモマトリクス砲完成を急ぐビッグワン救援に駆けつけた。マトリクス砲以前ではSDFが動員できる最大火力で、素粒子砲抜きでも機首衝撃砲と列車砲の一斉射撃でアルフォート戦艦を複数沈めている。侵攻時点の銀河鉄道で唯一アルフォート軍に対抗できる火器だったと言えるが(SPG主砲さえ歯が立たなかった)、イワノフの情報隠蔽のため、アイアンベルガーも他のモブ小隊と一緒に十把一からげで発進させられ、緒戦で大破したことは銀河鉄道管理局においては重大な戦術ミスと言える。グスタフとの重連はアルフォート軍を一時怯ませたが、30秒足らずで反撃され、来援から2分で隊長の村瀬や他の小隊員共々アルフォート軍大型ビーム砲で爆散して虚空に散った。同型車両を再建造した後継小隊はなく、2部ではガイ・ローレンス率いるケフェウス小隊が事実上の後継小隊となっている。このことから、アクルクス、スピカ、シリウスのような歴史のあるSDF小隊ではなく、ケフェウス小隊同様、先端兵器や新兵器の試用のために創設され、火器の扱いに通暁したSPG出身の村瀬を隊長とした新設小隊であったと考えられる。

今週の殉職社員

村瀬龍作(ベガ小隊隊長) CV:千々和竜策
 宇宙一の猛者を持って鳴る、筋骨隆々のベガ小隊の隊長、実家は惑星ロブンテロルドーで旅館を営んでおり、その御曹司だったが、観光惑星の単調な生活に嫌気が差してSDFに入隊した。SPGのヨハンソンは訓練学校の先輩で、一時はSPGにも在籍していた可能性がある。スピカ小隊のジュリアはアクルクス小隊での同僚だが、ある事件以降は疎遠になる。SDF本部での詰所はシリウス小隊の近くであり、両隊は共同作戦を取ることも多い。破損したアイアンベルガーでディスティニー防衛作戦に出撃したビッグワンを援護に出撃し、アルフォート軍の砲火の前に殉職する。再会したジュリアとは共に旅館を経営する将来について語るなど微妙な関係を保っていたが、結局、それが実ることはなかった。彼が稼いだ時間によりビッグワンは主砲を完成させ、反撃作戦が可能になった。

ホセ、シルバー、シュナイダー(ベガ小隊員) CV:伊丸岡篤・羽多野渡・上田陽司
 シルバーはシリウス小隊では故ブルースに相当する小隊の戦闘担当で、ホセはディビッドに相当する運行担当、新人のシュナイダーは学とルイの仕事を一人で兼ねている戦闘員である。最後の戦いではシュナイダーはグスタフ列車砲で、ホセは操縦席、シルバーは隊長の村瀬と指令車両でそれぞれ殉職する。

カオルmemo

 最後の希望となったビッグワン。コスモマトリクス砲完成まで、ディスティニーの防衛要塞アネックスを出して時間稼ぎをするという作戦だったが、またもイワノフが勝手にアネックスを敵に突っ込ませてしまう。無防備のビッグワンを守るため、満身創痍のアイアンベルガーが出撃。村瀬隊長以下ベガ小隊は壮絶な最期を遂げるのだった。
 イワノフという身内にいる敵によって窮地に追い込まれたビッグワン。局長はバルジの意図を知っているなら、イワノフをすぐにつまみ出すべきだった。この判断の遅れによって、結果的にベガ小隊は全滅に追い込まれるのだが、少々話を作り過ぎなのが鼻につく。いわば、ピンチを作り出すために身内に敵を仕込むという手口である。実はイワノフと写し鏡の立場にいるのが、捕虜として敵の中枢にいたルイである。リフルの姉トゥリルに助けられた彼女は「有紀の元へ帰してやる」と勧められるが、戦いをやめさせたいという思いで行動を起こし始める。ビッグワンを守って死んでいく村瀬が古いタイプの男のロマンとするならば、ルイは新しいタイプのロマンを物語の裏側で紡いでいる。アルフォート軍の攻撃で負傷、今度は敵の捕虜になり、実は彼女も彼女なりに壮絶な戦いを繰り広げていることに目を留めておきたい。

今週のメンヘラ社長

失われかけた運命。
それを取り戻せるのは、
志あるものの魂。熱くたぎる心。
あなたがたを信じます。


カオルのひとこと
 最終局面になって、突如ポエマーと化すメンヘラ社長。歌の力で敵を粉砕!? あ、それ違う番組だから。それはともかく、もはや部下に丸投げの社長。ブラックホールのように、社員のやる気が吸い込まれていきます。

評点

★★★★ 村瀬の最期は壮絶だが、戦闘それ自体はやや安直。(小林)
★★★★ ベガ小隊と村瀬の最期はそれでもぐっとくる。(飛田)

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